生徒と先生、たまに主人とメイド
桜の時期ですね。
「授業の時間だぞ、ご主人様」
そう言って、メイドのティリさんが入ってくる。
僕の部屋、いるのは僕とティリさんだけ。
異世界転移した日から、ずっとある風景。
この世界の言葉や歴史を、教えてもらう。
ティリさんは、物知りで、本が好きだから。
「ほら、授業だよ、授業。さっさと本開け」
きつい目をして、言ってくる。
だが、僕は本を開かない。
「…何?」
不審に感じたティリさんは、聞いてくる。
ああ、言わないといけない。
言わないと、行けないんだ。
でも、緊張する。
「反抗期?」
「いや、そこは体調を心配しようよー」
「あっそ」
あっそ?
メイド、メイドだよな?
今は、生徒と先生で、ため口で話してもらってるけど。
「で、何?」
「桜を見に行こうっ、ティリさんっ」
思いきって、僕は口にする。
すると、言われたティリさんは可愛らしくキョトン、として、
「さ…くら?」
「ドラゴンの運転、マシになったと思わない?」
「知らん」
「とほほ」
もう少し喜んでくれないかなー。
「最初の頃よりかは、さ」
「知らん」
「とほほ」
2人きりだからか、今もティリさんはため口で、冷たい。冷たいのはいつもだけど。
まあ、気を遣われるよりかは、マシだけどさ。
『魔物と人類が仲良くしている異世界』
魔王は、いる。ゴブリンも、いる。
でも、戦いはない。1回も戦いをしたことがない。魔王が名君だからとかじゃなく、本能というか、無意識というか。『戦う』という概念がない。
まあ、喧嘩は、あるらしいけど。
陰キャな僕としては、嬉しい世界なんだけど、じゃあ、なぜ僕が召喚されたかというと、『異世界人って何人かいた方が世界の発展にもよくない?』ていう、世界、全ての国共通な考えからだったり。
優しい世界。
「…まあ、最初の頃よりかは」
ボソリ、と呟かれる。
それを聞き、僕は嬉しさで笑顔になる。
「だよね、だよね」
「最初はドラゴンだって騒いでたから」
「いや、最初すぎない?」
運転する前じゃん。
いや、ドラゴンだよ? ドラゴン。あのドラゴンだよ? それを運転って。テンション上がるじゃん?
僕の考えを察したのか、犬みたいな性格をした(僕が新しい運転手だって知った途端、じゃれついてきて、僕は死にかけた)ドラゴン、ドラちゃん(僕命名、性別はオスらしいけど)は、炎を吐く(危ないって)。
「で、桜って何」
やはりボソリと。
「知らない? 桜」
「知らない」
「知らないかー。本とかで、さ」
「知りません」
「じゃあ、とも、とも、友達っている?」
「…」
「さ、桜ってのがあってさ! ピンクで、綺麗で、この時期にしか咲かないんだよ! いやー、日本人が伝えたらしいけど、異世界にもあってよかったよホント、ははは」
「ふん」
今、ティリさんは、15歳。ちなみに、僕は16歳。ちなみにちなみに、ドラゴンの運転は16歳から可能、ドラゴンが考えて飛んでくれるから、自動運転みたいなもの。まあ、運転手も、多少は頑張らないといけないけど。姿勢とか、綱とか。でも、簡単な方。
16歳より下だったらドラゴン運転できなかったのか、危ない危ない。
で。
「桜って、そんな有名じゃない?」
「私は、産まれたときからメイドだから、世間には疎いの」
「なるほど」
「15歳だけど、桜は聞いたことない」
「若いんだけどね、僕がいた世界じゃ」
「友達はいる」
「何人?」
「…ご主人様」
「わあ、うれしいなあ」
棒読みの僕。
…1人だけか。
陰キャな自分にも、友達はいたんだが、2、3人。
…あんま変わんないな、なんか悲しくなってきた。しかも、この世界に友達は、いな、いや、ティリさんだけ。
涙拭こ。
「桜、私知らない。
もっと教えて」
「本のためにもね」
コク、とうなずかれる。
アゴが動いたのが、僕の背中の感触で分かった。
ティリさんは、いつか、創作をして、本を書きたいらしい。
それもあるから、僕はティリさんに桜を見せたい。
偶然、この世界の本で知った、桜の名所。
ティリさんは読まないような簡単な本。
情報誌みたいな。
そして、僕は桜の説明をする。
桜の思い出を語ったり、花よりも食べ物なんていう言葉があることを教えたり、あとは桜のよさをなんとか伝えたり。
「桜、桜」
ティリさんのテンションが若干上がってきた。
やっぱり、読書家だから「知らないこと」に興味が、わくのだろう。
「早くして下さい、ご主人様」
「もう少しで着くよ。
あっ、見えてきたよ、見てっ」
「着いてから見る」
目を閉じたのだろう、可愛らしい。
桜。
日本人としても、喜んでほしいな。
「停めれるかな、ドラちゃん」
駐魔場を歩きながら、僕は言う。
「ドラちゃんと見れたらいいけど、ダメなんだよなー、ルール的に」
あと、ドラゴンは、おてんばな所があって、特にドラちゃんは一定の距離以内に魔物が入ってきたら、からかいたくなっちゃうから。
「たくさんだね、大丈夫かな」
「もし…一杯だったら?」
「か、帰るしかない、かな。違法は嫌だし、王様たちにも迷惑を掛けちゃうし」
「頑張って下さい、ご主人様」
「運が良いことを祈るよ」
そして、
「よ、よかった。
よし、じゃあ桜を見ようっ」
「はいっ」
久々に見たティリさんの笑顔だった。
ずらりと並んだ、ピンク色の桜。
異世界の桜も、僕がいた世界と同じようで、安心したり、なんかむなしくなってきたり。
けど、隣に、ワクワクしているティリさんがいて、僕は安堵したり。
桜を見ながら食事をしている家族やカップルはいたけど、屋台とかはなく、僕も、ティリさんも、周りの人たちも、ただ桜を楽しんで。
スマホがなく、写真を撮れなかった、そこは残念だったけど。
「また、来年見よう」
「はい」
ありがとうございました!




