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生徒と先生、たまに主人とメイド

作者: 永進
掲載日:2026/03/30

桜の時期ですね。

「授業の時間だぞ、ご主人様」

そう言って、メイドのティリさんが入ってくる。


僕の部屋、いるのは僕とティリさんだけ。

異世界転移した日から、ずっとある風景。

この世界の言葉や歴史を、教えてもらう。

ティリさんは、物知りで、本が好きだから。


「ほら、授業だよ、授業。さっさと本開け」

きつい目をして、言ってくる。


だが、僕は本を開かない。


「…何?」

不審に感じたティリさんは、聞いてくる。


ああ、言わないといけない。

言わないと、行けないんだ。

でも、緊張する。


「反抗期?」

「いや、そこは体調を心配しようよー」

「あっそ」

あっそ?

メイド、メイドだよな?

今は、生徒と先生で、ため口で話してもらってるけど。


「で、何?」


「桜を見に行こうっ、ティリさんっ」

思いきって、僕は口にする。


すると、言われたティリさんは可愛らしくキョトン、として、

「さ…くら?」




「ドラゴンの運転、マシになったと思わない?」

「知らん」

「とほほ」

もう少し喜んでくれないかなー。

「最初の頃よりかは、さ」

「知らん」

「とほほ」

2人きりだからか、今もティリさんはため口で、冷たい。冷たいのはいつもだけど。

まあ、気を遣われるよりかは、マシだけどさ。


『魔物と人類が仲良くしている異世界』

魔王は、いる。ゴブリンも、いる。

でも、戦いはない。1回も戦いをしたことがない。魔王が名君だからとかじゃなく、本能というか、無意識というか。『戦う』という概念がない。

まあ、喧嘩は、あるらしいけど。


陰キャな僕としては、嬉しい世界なんだけど、じゃあ、なぜ僕が召喚されたかというと、『異世界人って何人かいた方が世界の発展にもよくない?』ていう、世界、全ての国共通な考えからだったり。


優しい世界。


「…まあ、最初の頃よりかは」

ボソリ、と呟かれる。

それを聞き、僕は嬉しさで笑顔になる。

「だよね、だよね」

「最初はドラゴンだって騒いでたから」

「いや、最初すぎない?」

運転する前じゃん。

いや、ドラゴンだよ? ドラゴン。あのドラゴンだよ? それを運転って。テンション上がるじゃん?


僕の考えを察したのか、犬みたいな性格をした(僕が新しい運転手だって知った途端、じゃれついてきて、僕は死にかけた)ドラゴン、ドラちゃん(僕命名、性別はオスらしいけど)は、炎を吐く(危ないって)。


「で、桜って何」

やはりボソリと。


「知らない? 桜」

「知らない」

「知らないかー。本とかで、さ」

「知りません」

「じゃあ、とも、とも、友達っている?」

「…」

「さ、桜ってのがあってさ! ピンクで、綺麗で、この時期にしか咲かないんだよ! いやー、日本人が伝えたらしいけど、異世界にもあってよかったよホント、ははは」

「ふん」


今、ティリさんは、15歳。ちなみに、僕は16歳。ちなみにちなみに、ドラゴンの運転は16歳から可能、ドラゴンが考えて飛んでくれるから、自動運転みたいなもの。まあ、運転手も、多少は頑張らないといけないけど。姿勢とか、綱とか。でも、簡単な方。


16歳より下だったらドラゴン運転できなかったのか、危ない危ない。


で。

「桜って、そんな有名じゃない?」

「私は、産まれたときからメイドだから、世間には疎いの」

「なるほど」

「15歳だけど、桜は聞いたことない」

「若いんだけどね、僕がいた世界じゃ」

「友達はいる」

「何人?」

「…ご主人様」

「わあ、うれしいなあ」

棒読みの僕。


…1人だけか。

陰キャな自分にも、友達はいたんだが、2、3人。

…あんま変わんないな、なんか悲しくなってきた。しかも、この世界に友達は、いな、いや、ティリさんだけ。

涙拭こ。


「桜、私知らない。

もっと教えて」

「本のためにもね」

コク、とうなずかれる。

アゴが動いたのが、僕の背中の感触で分かった。


ティリさんは、いつか、創作をして、本を書きたいらしい。

それもあるから、僕はティリさんに桜を見せたい。


偶然、この世界の本で知った、桜の名所。

ティリさんは読まないような簡単な本。

情報誌みたいな。


そして、僕は桜の説明をする。

桜の思い出を語ったり、花よりも食べ物なんていう言葉があることを教えたり、あとは桜のよさをなんとか伝えたり。


「桜、桜」

ティリさんのテンションが若干上がってきた。

やっぱり、読書家だから「知らないこと」に興味が、わくのだろう。


「早くして下さい、ご主人様」

「もう少しで着くよ。

あっ、見えてきたよ、見てっ」

「着いてから見る」

目を閉じたのだろう、可愛らしい。


桜。

日本人としても、喜んでほしいな。




「停めれるかな、ドラちゃん」

駐魔場(ちゅうまじょう)を歩きながら、僕は言う。

「ドラちゃんと見れたらいいけど、ダメなんだよなー、ルール的に」

あと、ドラゴンは、おてんばな所があって、特にドラちゃんは一定の距離以内に魔物が入ってきたら、からかいたくなっちゃうから。


「たくさんだね、大丈夫かな」

「もし…一杯だったら?」

「か、帰るしかない、かな。違法は嫌だし、王様たちにも迷惑を掛けちゃうし」

「頑張って下さい、ご主人様」

「運が良いことを祈るよ」


そして、

「よ、よかった。

よし、じゃあ桜を見ようっ」

「はいっ」

久々に見たティリさんの笑顔だった。


ずらりと並んだ、ピンク色の桜。


異世界の桜も、僕がいた世界と同じようで、安心したり、なんかむなしくなってきたり。

けど、隣に、ワクワクしているティリさんがいて、僕は安堵したり。

桜を見ながら食事をしている家族やカップルはいたけど、屋台とかはなく、僕も、ティリさんも、周りの人たちも、ただ桜を楽しんで。


スマホがなく、写真を撮れなかった、そこは残念だったけど。


「また、来年見よう」

「はい」

ありがとうございました!

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