称賛の行方、自動筆記と自動思考が生み出された世界の話
AI生成文章に関して思うところがあったので形にしてみました。
神殿に招かれた男に向かって威厳はあるが穏やかな紳士が頭を下げた。
「ご多用の中お越しいただきありがとうございます。ここにいる理事たちを代表して御礼申し上げます」
静かに頭を垂れる相手に対して男も軽く会釈した。
この神殿……「言の葉の杜」に呼ばれる心当たりが彼にはある。
だがそれは決して好ましいものとは言い切れなかった。
「世界中から寄せられる物語について我々は日々格付けを行っておりますが、あなたが関係するものが上位に入り込んでいますね。それに対して祝ぐべきか否か……委員の中で大きな議論があります。関係者としてあなたの意見を聞かせていただきたくお招きしました」
作者と言われずに男は唇を噛みしめるが表情には出さない。
言の葉の杜は、新旧問わずに世界中の文章を管理する神殿である。
文字に関わるものなら数千年、場合によっては数万年前の遺跡から出土したものまで記録されている。
それらは全人類の遺産であり閲覧は自由だ。
男が考えた技術は「無限の過去」と呼ばれており、魔術や魔力の量にかかわらず、一定の設備があれば誰でも実現できる。
この技術を用いてこれまでの歴史を振り返り、使えそうなもの、害がなさそうなものを大量に取得する技術を広めたのは彼ではない。
ただそれらをうまく組み合わせる方法を男が完成させたのだ。
建造物や秘宝ならば今でも権利者は存在するが、男が目をつけたのは世界に散らばる「言葉」そのものだった。
誰でも口を開けば発することができるし、紙に記録することはできるが権利を主張できない雑多なもの。それが書物となって多くの人々に認められれば話は別だが、逆に言えばそれ以外は使い放題という無尽蔵の資源。
種族や地域によって異なる言葉に潜む感情や適切な表現までは解消できないが、全世界の誰が見ても一応意味が通じるものにはできる技術。
言葉の所有権を主張する者が現存しないほど古い記録は全人類の遺産であるが、それを効率的に活用しようと考えた技術者はほとんど居ない。
言葉と言葉の組み合わせで文章が出来上がる。
文章が意味を持つ流れを生み出せば物語が出来上がる。
多言語を一つにまとめて相手に効率的につらえる技法は、仕事上だけでなく一般生活や娯楽面でも有用だった。
無論それは容易なことではないが、男が目をつけたのは物語の設計図を見抜く鑑定術の存在だった。世界中の誰も気づいていない、気づいていたとしても体系化できていないものであっても一度見つけてしまえばそこから先は苦労なしだった。
人が手を動かして文字を綴る速度には限界があり、思考にも限界がある。
だが男が考えた「無限の過去」はそれを同時にこなすだけでなく疲れ知らずだ。
言ってしまえば、文豪が一年かけて綴る書物が一日で出来上がる
しかも試行回数を重ねるごとに中身も洗練されていくが、似たような物語がたくさんできてしまうという問題はあった。
無形の廃棄物……・今考えるとそれらは選別、隔離すべきだったと男は考える。
惜しまず適切に、迅速に廃棄すべきだった。日の目を見てはいけないものだった。
せっかく生み出された物語を廃棄するなどもったいないと感じた男は、それらを市井の民が自由に見られるようにした。ある意味で人間らしい選択。
突然現れた大量の物語に人々は目を輝かせた。刺激的な題材、目を引く文字の並びも計算され尽くしたものだから想定以上に人気が出てしまった。
そして今、「無限の過去」発案者である彼は物語の監視者たちの前にいる。
穏やかだが威厳のある紳士、老人、淑女、若者……十を越える瞳が無機質に彼を見つめていた。
「言語や文章、物語の自動筆記の技術は以前からあったようですが、それらをまとめる自動思考については最近だと聞いております。あなたの役目はそれらを整えることで合っていますか? それとも機能させるための素材を集めているというべきでしょうか」
紳士の言葉に男は首肯せず、お言葉ですが……と主張を遮る。
過去の積み重ねが現代であり、模倣の延長線上に創造があると。
完璧な新しいものを作るよりもそれは簡単でありながら誰にもできなかったと。
自分はその時間的な制約を取り払った功績がある、その部分は認められたいし褒められるべきであると。
理路整然と告げる男に対して数名の男女は頷き、残りは首を傾げていた。
「技術に対する功績ですか。しかし、それ以外のことについて……我々は悩んでいるのです。紡がれた物語に対して誰を称賛したら良いのか。感動を伝える相手がどこにいるのか。格付けに値するものなのか、選別に漏れた他の候補者に対して現在の接し方が適切なのか」
理事の口から出る数々の言葉は、男の創造力を超えていた。
「憧れを抱いても虚しく感じるのはなぜなのか。これを創造と呼ぶべきなのか……」
たとえ過去の遺産を再構成したものであっても、それが多くの人が望むものならばそれでいいのではないかと男は考える。だが理事たちはそれとは違う部分を本気で悩んでいるのだ。
嘆きに似た理事の言葉を情緒的なものと嘲笑うことは難しく、男はその先の時間はほとんど聞き役に徹するしかなかった。
それでも絶え間なく自分が責められていると感じてしまうのは彼がまだ人間の枠の中に存在するからだろう。
…………
……
神殿での意見交換を終えた男は帰宅する。
彼が不在の間も、件の設備は大量の言葉を、物語を作り続けていた。
ぼんやりとその様子を眺める男の手が自然と伸びる。
熟考の末、男は自動思考を繰り返す機械の動力を止めた。
人間の作業と比較してAIが優れている部分は一目瞭然、皆さんがよくご存知なところだと思います。この先で起きる問題、すでに起きていることを考えると……




