樽に住む謎の男
うおおおお!SSR確定演出キターーーー!!
俺は目を細め、光の中心に浮かび上がる人影を必死に捉えようとした。
まさか……古代の英霊? それとも封印されし女神様とか?
キタ、キタ、キタ! ついに来たんだ!
俺ことイノウィンの、これまでの不遇(主に命懸けの鬼ごっこ)が報われる、天井ガチャSSR排出の感動の瞬間が!
絶世の美少女! 天地を揺るがすチート魔法! 国が買えるほどの古代の財宝!
さあ、どれでもいい! 全部俺のところに来い! 今日この日をもって、俺の底辺人生は終わりを告げるのだ!
光が収まり、謎の人影の輪郭が次第にハッキリとしてくる。
そこにいたのは……なんて言えばいいんだ? スタイルが爆発しすぎてる……銀髪の露出狂?
上半身に、申し訳程度の白い布切れを数本巻き付けただけってどういうことだよ!?
かと思えば、下半身はゴシック調の重厚なロングスカート。そのアンバランスさが、逆に凹凸の激しいボディラインを金色の光の中でいやらしく浮かび上がらせていた。
生まれて初めて、「露出」と「保守的」っていう真逆の言葉を、一人の人間のファッションに同時に使っちまったぞ。
上半身と下半身のデザイナー、殴り合いでもしたのか?
「あら~、どうやら『愛』と『憎しみ』の激しい衝突が、わたくしをこの鳥籠から一時的に解き放ってくれたようですわね」
彼女がぐっと伸びをすると、ただでさえ心許ない布切れが、今にも張り裂けんばかりにきつく締め付けられた。
「まったく、エンペドクレスという男はいつも大袈裟な登場を好みますの。世界をたった四つの元素と二つの動力に単純化するなんて、想像力は豊かですけれど、結局は『経験論』の罠に陥っている。先験的な厳密さに欠けていますわ……」
ブツブサと独りごちながら、彼女のコバルトブルーの瞳が、スッと俺を捉えた。
「さて、と……わたくしを呼び覚ましたのは、どこの可愛い坊やかしら?」
その唇が描いた弧は、どんな男でも一瞬で骨抜きにする魔性の笑みだった。
俺はごくりと唾を飲み込む。なんだか顔が熱くなってきた。
誰だか知らねぇが……すげぇ……デカい……。あ、いや、器がデカいお方だ!
「はじめまして。わたくしはイマヌエル・カント。かの『純粋理性批判』『実践理性批判』そして『判断力批判』を著し、人間の『悟性』に境界を定め、『定言命法』という道徳体系を打ち立てようとした、しがない哲学者にございます」
彼女はスカートの裾を優雅につまみ、完璧な淑女の礼をしてみせた。
カ……カント!? しがない!?
哲学徒の生え際を後退させまくったラスボス(ヘーゲルとかベルクソンじゃなくてマジで助かった)じゃねぇか!
お前……身長150cmそこそこの、生涯故郷から50km以上離れたことのない、近所の住人が時計代わりにできるほどのクソ真面目なジジイじゃなかったのかよ!?
この世界のキャラ改変、いくらなんでも無茶苦茶すぎるだろ! いや、フーコー達と比べたら……まあ……どっこいどっこいか……?
「あら、わたくしの表象に戸惑っているようですわね。理型化身の存在形式とは、その思想の核が人格化したもの。この肉体こそ、『純粋理性』が、あなたやわたくしが感知できる『現象界』に投影された完璧な形態なのですわ。そう思いませんこと? わたくしのこの起伏に富んだ峰々こそ、『二律背反』という矛盾を最も直感的に体現しているとは」
やめろ、なんでわざわざ胸を突き出しながら喋るんだ。
俺は……俺は一言も理解できねぇが、俺の身体はなんかちょっと理解しちまってるぞ!
「ですけれど……どうやら……わたくしの『哲契者』は……まだ……安定した……存在を……見つけ……」
彼女の姿が、チカチカと点滅し始めた。
「あぁ……面倒ですわね……またあの冷たいロケットの中に戻らなくてはならないのかしら……」
心底困った、という表情を浮かべる。
だが俺の全貞操を賭けてもいい。こいつ、絶対演技だ。
「ですから、可愛い坊や。あなたはわたくしの好みではございませんが、正式な『哲契者』を見つけるまで、わたくしの……仮の……になっていただけませんこと?」
ほら見ろ、本性現しやがった。
その言葉を最後に、彼女の身体は金色の光の奔流と化し、メイから貰った腕輪の中に吸い込まれていった。
「おい! 少しは人の話を聞け! せめて同意くらい取れっつーの!」
腕輪はうんともすんとも言わない。
「あのー……もしもし? カント様? いらっしゃいますかー?」
広間には静寂が満ちるばかり。返事はない。
消えた? 死んだ?
いや、俺の腕輪に住み着いたのか?
俺が訝しんでいると、突如、声が直接脳内に響いた。
《うふふっ。聞こえますか? 可愛い坊や》
うおっ! 脳内ダイレクトメッセージ!?
《あら、成功したようですわね。あなたのその特異な立ち位置を利用すれば、どうにか意識の連続性を保てるみたいですわ。しばらくは実体化できませんけれど、これで、あなたの言動を常に先験的に観察し、批判することができますわねぇ~》
待て待て待て!
常に観察し、批判する!?
それじゃ俺にプライバシーってもんが一切なくなるじゃねぇか! セシィの監視よりタチが悪いぞ!
《ご安心なさい。あなたの『定言命法』に反する生理的行為や……その、お一人で楽しまれる興味深い映像作品には興味はございません。わたくしが興味あるのは……今、あなたの心で渦巻いている『欲望』の方ですわ》
興味ないとか言いつつ、俺の秘め事をしっかり把握してんじゃねーか! 俺のシークレットガーデンがあああぁぁぁ―――!!!
《拝見しますわね……ふむ……『金儲け』『高飛び』『デカい家買って毎日寝て暮らす』……実に純粋な、動物的欲望ですこと》
おい! 人の心の中をズカズカと覗き込むな! 失礼だろ!
俺がそう反論しようとした瞬間、視界の端に、カントが出現した金属製のロケットが映った。
こいつが言ってた、自分を囚えているとかいうブツか。
俺はそれを拾い上げ、手の上で重さを確かめる。ずしりと重い。
材質はわからんが、見るからに高そうだ。
……売ろう。
《あら? 可愛い坊や、わたくしの根源を手に取ってどうかなさったの? それはわたくしの概念存在を繋ぎ止める重要な媒介ですのよ。あまり無闇に触ってはダメですわ》
「根源? 小難しいこと言うなよ。要はお前の骨壺だろ?」
《美的判断にそぐわない比喩はおやめいただけませんこと? それに、あなた、今まさか……わたくしを売ろう、などと考えていませんでしょうね?》
「当たり前だろ! こっちは四体のゴーレムと死闘を繰り広げて、命まで落としかけたんだぞ! 戦利品の一つや二つ、貰って当然だ! これぞ労働の対価!」
《実践理性の観点から見れば、あなたの行為は確かに『仮言命法』の原則――すなわち、『もし報酬を得たいと欲するならば、労働すべし』――に合致していますわ。ですけれど……ですけれど! 少しでも『純粋理性批判』の偉大さを知りたいとは思いませんの!? 人間の『悟性』が持つ十二の『カテゴリー』が、如何にして我々の認識世界を構築しているのか! 『美』と『崇高』の本質的な差異とは何か!》
「思わん」
即答だった。
《……》
脳内が、十秒ほど沈黙した。
《本当に……ほんの少しも、興味はございませんの? マンツーマンで、手取り足取り、みっちりとご教授いたしますのに》
「興味ない、いらない、必要ない。聞かない、知らん、関わらない」
俺は人生における「六ない主義」を叩きつけてやった。
《……わかりましたわ。ですが、わたくしを商品化する前に、一つだけ質問に答えていただけます?》
「どうぞ」
《先ほどのわたくしの登場シーン、ロマンチックでしたかしら? 胸がキュン、とときめいたりしませんでした?》
……は?
……俺は、最速でその不気味な研究所を後にした。
街に戻った俺は、帝国最大の闇市……もとい、中古品取引市場へと直行した。
ここはありとあらゆるガラクタと、たまに本物のお宝が入り混じるカオスな場所だ。
俺は見るからにカモになりそうな貴族(多分)を一人見繕い、一夜漬けで考えたセールストークを開始した。
「そこの旦那様、少々お待ちを! その只者ならぬ風格、さては歴史と神秘に満ちた古代遺物に対し、並々ならぬご見識をお持ちとお見受けしました!」
「ほう? 何か面白いものでもあるのかね?」
貴族のオッサンは、俺を値踏みするように一瞥し、鼻を鳴らした。
ふっふっふ、見てろよ。後で泣きながら俺にEポイントを差し出すことになるんだからな!
「こちらのお品、なんと千年前、かの大哲学者イマヌエル・カントが『物自体』という究極の問いについて思索した際に用いたとされる秘宝でございます! これを手に瞑想すれば、時空を超えてかの偉人との魂の対話が可能になるとか!」
《わたくしがいつ、こんなものを使いましたか。それにわたくしの思想は厳密な論理的演繹の産物であって、そんな曖昧な『霊感』の類に頼ったものではございません》
黙ってろ、マーケティングを理解しない女め! これはお前の「ブランドストーリー」を構築してやってるんだよ!
「魂の対話? 本当かね?」
「もちろん! ただし、その声を聞けるのは、心が清らかで、知への渇望に満ちた者に限られます。旦那様ほど高貴で知性溢れるお方でしたら、きっと……!」
俺は渾身のゴマをすりまくった。
《あら、お世辞という社交術を使い始めましたのね。普遍的立法の原則には反しますが、実利の観点から見れば有効ですわ。可愛い坊や、あなたという人間、ますます興味が湧いてきましたわ》
どっちの味方なんだよ、あんたは。
「いやいや、君が言うほどでは……だがまあ、確かにこの分野には多少の心得がある」
「左様でございます! そのご謙遜こそが、旦那様の非凡さの証!」
「ふむ、確かに古物には見えるな。よかろう、買おう。いくらだ?」
「お代は勉強しまして、ズバリこのお値段で!」
俺は指を五本立てた。
「五百Eポイントか?」
「いえ、五万です」
「なっ!? ふざけるな!」
「旦那様、これはただの装飾品ではございません! 人類の叡智の結晶でございますぞ! 五万Eポイントで古代の賢者と対話できる機会を、高いと仰いますか!」
《高いと思いますわ》
だから黙ってろって!
激しい値引き交渉の末、最終的に三万八千Eポイントという破格の値段で、この「カントの骨壺」をカモ貴族に売りつけることに成功した。
俺の人生、今が頂点かもしれん!
大金持ちだ! 俺はついに、ブルジョワジーの仲間入りを果たしたんだ!
この金があれば、メイからも、あの悪魔女セシィからも完全にオサラバできる! 自分の家を買って、毎日ベッドの上で札束を数えて暮らすんだ!
これこそが人生だ!
《おめでとうございます、可愛い坊や。見事な詐欺行為によって、富への欲望を満たしましたのね。面白いですわ。ですが、あなたの行為はあなた自身の人格、そして他者の人格における人間性を、常に目的として扱い、決して単なる手段として扱ってはならない、という原則に反します。先ほどの行為は明らかに、あの方を富を得るための手段として利用しています。道徳的に、決して許されるものではございませんわ》
「許されなくたって、金になりゃそれでいいんだよ! それに、売りたい奴と買いたい奴が合意したんだから、公正な取引だ!」
《あらあら、相対主義で自己弁護ですの? 可愛らしい。ですが、忠告しておきますわ。単なる感覚的な幸福の追求は、いずれより深い空虚へとあなたを誘うでしょう。真の最高善とは、自らの義務を果たした上で、それに見合う幸福を得ることなのですから》
「はいはい、わーったよ、カント先生」
俺は適当に相槌を打ち、意気揚々と不動産屋へと向かった。
国民総ニート国家であるイリヌ帝国では、意外にも不動産価格は安かった。
俺はすぐに、首都の少し外れにある、庭付きの小さな一軒家を買い取った。
広くはないが、生活するには十分すぎる。
これからはここで、家庭菜園でもしながら、毎日昼まで寝るんだ。もう抱き枕にされたり、実験体にされたりする心配もない。
天国だ! ここは俺の楽園だ!
だが、俺のそんな甘い幻想は、引っ越して二日目の朝、無慈悲に打ち砕かれた。
朝飯でも買いに行こうかと、庭の門を開けた、その時だ。
俺は見てしまった。我が家の隣人……。
いや、隣人と呼ぶべきか、寄生虫と呼ぶべきか。
俺より若く見えるのに、ボロボロの服を纏った薄汚い男が、我が家の玄関先に置かれた……ゴミを捨てるための木樽の中で、ぐっすり眠りこけていやがった!
頭を樽の縁に乗せ、実に気持ちよさそうに。
……ホームレスか?
「おい、起きろ! なんでこんなとこで寝てんだ! ここ、俺ん家だぞ!」
俺は樽を揺さぶった。
「うるさいな……。人が日光浴を楽しんでいるのが見えんのか?」
「日光浴? 人の家のゴミ箱で日光浴だと? いいからとっとと出ていけ!」
「君の家?」
男は樽から上半身を起こすと、心底軽蔑したような目で俺を見下した。
「ああ、その石と木でできた、君の自由を囚えている『檻』のことかね?」
「檻?」
「なんだその言い草は! 俺が大金はたいて買った家だぞ!」
「違うかね? 君はこの『檻』を手に入れるために労働し、時間を切り売りした。そしてこれからも、それを維持し、飾り立てるために、働き続けなければならない。君は家を所有したつもりでいるだろうが、実際は、家に所有されているのだよ。君は君自身の財産と欲望の奴隷だ。実に哀れな男だ」
はぁ?
《おや? この方の主張は、どうやらキュニコス派の思想のようですわね。世俗的な欲望から脱却し、自然で質素な生活への回帰を説く。論理の厳密性には欠けますが、一つの生き方としては、なかなか『批判的』で興味深いですわ》
「あんた、一体何者なんだよ?」
「私か? 私の名はセナス・ディオ。『徳』と『足るを知る』ことを追求する、一人の自由人だ」
言うが早いか、男は俺が玄関先に出しておいたゴミ袋を漁り始めた。
「おい! 何してんだ!」
「見せてもらおうか。欲望の奴隷たる君が、日々どのような『無駄』を生み出しているのかを」
男はゴミ袋から、俺が昨日食い残したパンの耳を摘み上げた。
「ちっちっ、加工されすぎた食料。それからこれは……」
空のジュース瓶。
「神経を麻痺させるための液体。そしてこれは……ほう? 新品の枕カバーか。贅沢なことだ。私なぞ、太陽の温もりを食料とし、大地を寝床とすれば、それで十分だというのに」
「それで今まで生きてこれたんなら大したもんだな、オイ」
男は俺のゴミを、丁寧に地面に分別し始めた。
俺の血管が、ブチブチと音を立てるのがわかる。
こいつ……変態だろ!?
絶対に変態だろ!?
《彼の行為は、確かにあなたの財産権を侵害していますわね。ですが、可愛い坊や、考えてみたことは? 『財産』という概念そのものが、果たして普遍的なものなのか、と。もし全ての人間があなたのように私有財産の最大化を追求すれば、世界の資源は瞬く間に枯渇し、結果として全ての人間が不幸になる。つまりあなたの行為は、『汝の行為の格率が、普遍的な法則となることを、汝が同時に意欲できるような、そうした格率に従ってのみ行為せよ』という『定言命法』の原則に反しているのですわ》
じゃあ俺は、こいつにゴミを漁られても仕方ないってことか?
《あら、そんなことは言っていませんわ。ただ、より深い内省へとあなたを導いているだけ。こうして異なる思想と衝突する中で、ご自身の『悟性』の境界が広がっていくのを感じませんか? この感覚、まるで……初めて未知の禁忌の領域を探るような、スリリングで、少しだけ……背徳的な……》
どういう性癖だよ!?
俺は今、公衆の面前で屈辱を受けてるんだぞ! 何に興奮する要素があるってんだ!
「おい! この樽暮らしの変態! お前が何主義者だろうが知ったことか! 今すぐ、その樽ごと俺の敷地から出ていけ!」
「君の敷地? 太陽の下は全て世界のものだ。私がここに立つのも、蟻がここにいるのも、本質的な違いはない。君はなぜ、この土地が自分のものであると主張できる? その、君の名が書かれた紙切れ一枚でかね?」
「地権書だ! 帝国法で保護されてんだよ!」
「法? 支配者が自らの利益を守るために作り出した、人を縛る枷にすぎん。真の自由人とは、自然の法にのみ従うものだ」
男はそう言うと、再び樽の中にごろりと横になり、蓋まで閉めやがった。
「私は眠りの続きに入る。邪魔をするな」
俺は……。
俺は……ただ静かに暮らしたいだけなんだ! 俺が一体何をしたっていうんだ!
「……はぁ、もういい。好きにしろ……」
現実への、無念の敗北宣言だった。
哀れ、イノウィン!
「誰だ、人の家の前に突っ立ってるのは? 言っとくが、今、俺は機嫌が悪いんだぞ!」
俺の家の門の前に、人影が見える。
白い短髪、黒い眼帯、巨大な斧。
俺は目をこする。
白い短髪、黒い眼帯、巨大な斧。
いやいや、まさか。
白い短髪、黒い……。
現実逃避はやめろ! どう見てもサルトルじゃねーか!
「あ、サルトル様……その……これは……」
俺の言葉がしどろもどろになる。
そして彼女の後ろには……地面を、這いずるように進む……人?
見慣れた縄、見慣れた深色のローブ……。
まさか、俺が縛り上げたあの時の体勢のまま!?
そういや、こいつ、この縄は自力じゃ解けないとか言ってたな?
じゃあ、どうやって皇宮からここまで芋虫みたいに移動してきたんだ!? やめろ! SAN値直葬モノだろ!
「検体……001……皇宮へ……戻れ……緊急……任務……だ……」
「任務? 知るか! 俺はもう皇宮の人間じゃねぇ! 自由な一般市民だ!」
俺は胸を張り、新米資産家としてのプライドを見せつけようとした。
サルトルは何も言わない。
ただ、地面に突き立てていた巨大な斧を、静かに持ち上げただけだった。
……十分後。
「――というわけで、聖理教会は一時的に兵を引きましたが、我が軍が戦場で使用した『神聖を冒涜する異端の理型』について、合理的な説明を求めてきております。つきましては、外交使節団を派遣し、かの戦場で『奇跡』を起こした英雄と、直接対話したい、と」
オルトウミが、一枚の任命書を俺の前に差し出した。
「で、俺を差し出す、と?」
「陛下の御命令です。陛下は、今回の事件の核心である君が矢面に立つのが最も説得力がある、と」
クソが。
あのドM魔王、絶対に俺が聖理教会の狂信者どもに吊し上げられるのを見て「悦び」たいだけだろ! 生贄じゃねーか!
「……断ったら?」
「もちろんですとも。帝国労働法第三千七百二十一条付則に基づき、S級緊急任務の遂行を拒否した帝国公民は……次年度の、帝国徴税庁長官に任命されることになっております」
「は?」
「帝国全土の、勤労意欲のない国民から、百年間滞納された税金を、全て徴収していただくという、大変名誉あるお仕事でございます」
俺の脳裏に、地獄の光景が浮かんだ。怒り狂った帝国国民が、俺の家を松明片手に取り囲んでいる……。
「やります! やらせていただきます! 外交交渉、この俺をおいて他に誰がいる! 謹んでお受けいたします!」
ふざけんな!
聖理教会との交渉なんて、せいぜい罵声を浴びせられるくらいだ。
だが、徴税庁長官なんぞになった日には、間違いなく国民に八つ裂きにされる!
二つの害悪、よりマシな方を選ぶ。小学生でもわかる問題だ。
だが、なんだその、心底ホッとしたような顔は。
……ああ、なるほどな。
この外交官っていう一見名誉な役職、最初から罰ゲームだったってわけか!
俺の目を見て答えろよ、雑種が!




