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ニアフェル墓地の花屋

募らせた思いがあふれ出し、夜の暗さを反射する。

それまで彼女が見つめていた墓石には、一輪の花が供えられている。

花の名前は『シュヴァリーゼ』、通称『魔女の花』として知られる夜空を映したような色に薔薇のような見た目の奇妙なその花には、見た目に相応しい花言葉がついている。


『貴方の死を願います』


花の姿には相応しいが、墓に供えるには似つかわしくないその花を墓に供えて彼女はただ泣き叫ぶ。

晩年の思いを込めて激しく奏でられる彼女の叫びに呼応して、墓石の周りに植えられた『ルミナステラ』の花が中空を舞い、『最も近い星屑』と呼ばれるに相応しく夜の空気を輝かせる。

彼女の別れを彩るように。


少しして、ただ黙って彼女の別れを見守るリアナとソフィアの後ろから突風が吹きつける。

この時間の風向きとは違う風の発生源は恐らく竜の羽ばたきによるところだろう。

星屑が散るのを助け、彼女の別れを後押しするかのようなその風に煽られ、彼女は立ち上がる。

リアナ達に向き直った彼女は、先程までとは違いまっすぐ前を見ていた。


「ありがとう花屋さん」


彼女は寂し気でありながらも明日を目指した笑みで、少しだけ声を震わせながらそう言った。


それは、リアナとソフィアに向けた台詞。

世界中の生物が眠るこの土地、ニアフェル墓地にある唯一の花屋である彼女達に向けた・・・。


ーーー


「魔女の・・・魔女の花をください」


花屋の扉を潜った常連から発せられたいつもより少し低いトーンのその声に、リアナは少し動揺した。


それは、彼女の望んだその花が魔女が呪いをかけたと言われる不朽の花だったからだ。

文字通り枯れることのないその花は、正確には付近の魔力を吸うことで生の糧とし、地面から切り離された状態でも枯れずに残る花である。


花言葉は『貴方の死を願います』

とある御伽噺に由来するこの花言葉とその性質や見た目も相まって、忌み嫌われている。


当然死者に贈るには、もっと言うのなら最愛の人の墓に手向けるには似つかわしくない花ではあるが、しかし、リアナがそれ以上に驚いたのは、いや、それ以前に驚いたのはそれを望んだのが彼女であるということにだった。


「仕入れに3日ほど掛かるのですが、よろしいですか?」


驚きあぐんだリアナとは違い、淡々と業務を進めるのは店主のソフィア。

ソフィアは、このニアフェル墓地唯一の花屋であるこの店の規則の一つを説明する。

因みに唯一であるが故に店名はなく、ただ花屋と呼ばれている。


「はい」


ソフィアの問いかけに対し、了承する彼女からはいつもの愛想の良さは感じられない。

彼女の名はエリーゼ、とある国の王子に嫁いだとある国のお姫様。

それこそ幸せな御伽噺にありそうな話しだがその実は、かの不朽の花の花言葉の由来となった御伽噺のような悲しい物語だった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


この作品は基本的に不定期更新となりますが、現在投稿中の章(プロローグ〜1章)はなるべく間を空けず、できるだけ早く区切りまで書き切る予定です。


読んでくださる皆さまの時間が無駄にならないよう、大切に書いていきたいと思っています。


引き続きお付き合いいただけたら嬉しいです。

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