カフェに行ったら婚約者が不貞していたので国からの加護を放棄しますと宣言した〜契約は契約、契約を破ったのだから責任者は全員道連れに決まってるでしょ〜
ちょっと、良いカフェがあるからと見に行ったらとんでもないものを見てしまう。
「……え?」
カフェの窓から見える学園の庭。婚約者であるはずの貴族の子息、セシルが、見知らぬ女の子と楽しそうに笑い合っているところを。
(な、なんでっ!?)
二人の間には、隠そうともしない親密な空気が流れていて、心臓は冷たい氷でできたみたいに固まった。
「あ……あれね、私の婚約者、セシル・アッシュフォード。そして、あの子が彼の新しい恋人、らしいわ」
隣に座る親友のリンリアに、平静を装って言ったけれど、声は少し震えていたかもしれない。
リンリアは心配そうな顔で手を取ってくれた。
「ひどい話ね、アリア。セシルったら、婚約者がいるのに」
「ええ、本当にひどいと思うわ」
作り笑いを浮かべた。周りの人たちは、この国から特別な加護を受けていることを知っているから、きっと酷い仕打ちを受けていると思っている。
でも、そんなことどうでもいい。だって、この国の人間じゃないから。この国の加護なんて、何の価値もない。むしろ、この状況、利用してやろう。家に帰り、自室の窓から夜空を見上げた。
「この国の加護なんて、くれてやるものか」
静かにそう呟いた。この国に縛られる理由なんて、もう何もない。セシルとの婚約だって、ただの形式的なもの。
愛情なんて、最初からなかった。舐められたらいけないと、早速行動に起こすことに。
次の日、王宮へと向かった。王に謁見し、静かに告げた。
「私、アリア・ウィンザーは、この国からの加護を放棄いたします」
王をはじめ、居並ぶ貴族たちは驚愕の表情を浮かべた。ざわめきが広がる中、私はただ、まっすぐに王を見つめ返す。
「理由をお聞かせ願えますか、アリア様」
王は困惑した声で尋ねた。
「私の婚約者、セシル・アッシュフォードが、学園で別の女性と恋仲になりました。この国は、そのような不誠実な人間を許容するのでしょうか。私には理解できません。そのような国からの加護など、不要です」
さらに大きな騒めきが起こった。セシルの父親であるアッシュフォード公爵は顔を真っ青にしている。不貞だものな。
「アリア様、それは誤解です!セシルはきっと……」
きっと、ってなんだろう。
「誤解ではありません。私は自分の目で見たのですから」
公爵の言葉を冷たく遮った。
「それに、私はこの国の人間ではありません。この国の加護があろうとなかろうと、私の人生には何の影響もないのです」
そう言い切ると、体から、淡い光がゆっくりと消えていくのがわかった。それは、長年受けてきた、この国の加護が失われた証。
部屋の中は静まり返る。王は苦渋の表情を浮かべ、貴族たちは息をのんでいる。
満足した。これで、この国との繋がりは完全に断ち切られたのだ。
「それでは、失礼いたします」
一礼し、王宮を後にした。実は、加護を無くしたのは元婚約者やその家族の加護がなくなるからなのだ。
婚約は契約。つまり血筋の保証。婚約をする前に、結んだ契約書の端に小さく【規定違反があった場合の連帯責任】と記してある。
加護をなくした自分の連帯責任に、婚約者の家の人間は一人残らず加護はなくなるという仕組み。だから、婚約者の父親はあっさりこちらを見送った。
「どうだ。参ったか!」
不利益は一見一人にしかないから。にんまりと笑い、ごきげんに国を出た。今頃、阿鼻叫喚になっているだろうなぁ。
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