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桜舞い散る、奇跡と共に

作者: 白湯

「隣町まで買い物に出かける羽目になるとはね」

「お母さんってば流石に酷いよね」

隣町のスーパーで特売がやっているからと母に妹と共に駆り出され、春の少し肌寒い中、お昼過ぎ頃の柔らかい陽を浴びながら長い坂道をひたすらに歩いている。愚痴ってはいるものの原因は横にいる妹との喧嘩だから自業自得だから仕方が無い。

「喧嘩は止んだ訳だしお母さんの狙いはこれだったのかもね〜」

「そういうこと!?これは上手くやられたね」

顔を見合わせて策士だね、なんて笑い合う。

まんまとしてやられたわけだけれど、もし2人で解決しようものなら数日は掛かっていたので助けられたものだ。

そうして話しているうちに坂の頂上が見えてきた。もう少しでスーパーに着くだろうと少し駆け足で登ると、ひらりと桜の花びらが舞い散って私の前を通り過ぎていく。

「お姉ちゃん!桜だよ!あれ?あの人......」

そんな言葉を右から左へと受け流し、その場に立ち尽くして思考の世界へと潜り込む。桜を見て、少しだけ苦い思い出が蘇った。失恋の思い出、いや正確に言えば失恋未満の思い出。

それは今から四季が一周するくらい前の話。高校の卒業式が終わった後に好きだったクラスメイトを、今と同じような桜の舞い散る樹の下へと呼び出した。

ずっと前から計画していて、そこで想いを伝える筈だった。だったのに、彼を目の前にすると拒絶されるのかもしれない、と伝えるのが怖くなって用意してきた言葉は喉の奥へとつかえてしまった。そして、

今までありがとう

俺もお前には世話になったよ 今までありがとうな

だなんて他愛の無い感謝の言葉を繰り広げるだけになってしまった。あの時拒絶されたって言葉を伝えられていたのなら、何かが変わっていたのかもしれない。

チャンスが無くなるよりはずっとマシだっただろう。それからはもう別の道を辿ったから会うこともなくなってしまった。そんな自分の情けない思い出を偶に思い出しては、あぁなんて意気地のないのだろうと自分の不甲斐なさに落ち込んでしまう。

もしできるのならば今からでもやり直したい、そんなことばかりが頭の中を片隅でいつも回っている。私の心はあの時からずっと立ち止まったままだ。

そんな回想を一通り終えると耳に何かが聞こえてくる。

「…ちゃん!お姉ちゃん!!!」

「うわっ 何さ驚かせないでよ〜」

さっきまでは小さかった声が急に大きくなって無理矢理現実に引き戻される。

「驚かせないでじゃないよ、人に話しかけられてるんだから、返事の一つでもしたらどうなのさ」

「あれ?なんか話しかけてた?ごめん、考え事してた!」

「私じゃなくてあっち!」

妹は少し怒ったように道の先へと指を指す。私はジンジンと痛む耳を押さえながら、その先へと目を向ける。目に飛び込んできたのは予想外の人物で、そこにはあの日と同じように舞い散る桜の樹の下にいる彼がいた。

「ようやく気づいたか!桜井元気してたか?」

「あれ?な、なんで高木君が?」

頭が混乱する。先程まで回想していた人間がそこにいて、もしかして妄想かもしれないと頬を抓って現実を確認する。痛い、やっぱり現実だ。

「なんでって、同じ町に住んでるんだから会うことだってあるだろ?」

「そ、そうだよね!あははそりゃそうだよね!うん、元気だよ!」

まだ目の前にいることが信じられなくて、思わず少し焦って返事をしてしまった。これはいけない。

ふぅと息をついてバクバクと高鳴る鼓動を落ち着かせる。

「どうした大丈夫か?」

「大丈夫大丈夫!それよりどう?最近」

久し振りに会えたのだから話を膨らませなければ。これを逃せば多分、もう二度とはない。

「順風満帆!ばっちりだよ、大学にも馴染めてきたしね!桜井はどうなんだ?」

「私もね、大分順調だよ!バイトとかも頑張ってるんだ」

久し振りの他愛のない会話を繰り広げる。そんな時間を愛おしく感じて、だけどこれじゃ駄目だと思い直す。何かを伝えなければいけないと。でもいきなり好きだったなんて言えないし、かと言って適した言葉も見つからなくて、ぐるぐると頭を回して考える。考えている内に彼は妹へ一瞥すると、こちらへと声を掛ける。

「そっかそっか 元気そうで良かったよ、妹ちゃん待たせてるみたいだし んじゃまたな!」

「あ、うん また……」

そうやって考えている内に時間は終わりを告げて、手をひらひらとはためかせながら彼は去っていく。回した頭からは何も零れなくて、代わりに別れの言葉が口から零れ落ちた。立ち尽くしている内に、彼はもう遠くまで行ってしまっていた。

もう諦めそうになったとき、不意にトンと背中を押された。思わず一歩踏み出して、後ろを振り返る。

「何でも良いから言うことあるんじゃないの?」

そこにはそう言ってにっと笑う妹が居た。はっとして、思わず走り出す。

「高木君!」

「うん?桜井、どうかしたのか?」

はぁはぁと息を切らせながら彼を呼び止める。

「あの!この後時間ってありますか!」

「え~っと、うん この後は暇だよ」

良かった。なら伝えるべき事が、いや何でも良いか。今は彼と話がしたい。

「じゃ、じゃあお茶でもどうですか!」

あぁ、やっと進めた。ちっぽけだけれど、あの時からずっと喉につかえていた後悔が、ごろりと吐き出せたような気がする。

遅れて付いてきた妹はさっきと打って変わって、まさかそれだけ?とでも言わんばかりの呆れた顔でこちらを見ている。いつもなら怒っていたけれど、今は感謝をするしかない。

「ん!良いね でも妹ちゃんは?」

あ、そうだった。買い物に行く途中だ、何もかも見切り発車で決めてしまった。

「買い物は私だけでも行けるから大丈夫だよ 2人で話すこともあるでしょ?」

どうしたものかと考えていると妹が助け舟を出してくれた。あぁ我が妹は女神か何かだろうか。彼女はやれやれと言わんばかり肩を震わせてこちらを見ている、今度なにかお礼をしなきゃ駄目だね。

「ならお言葉に甘えるとしようかな、俺近くで良いカフェ知ってるんだよ 行こうぜ」

そうして彼は指を指して歩き出した。私は共に横に立って歩き出す、ようやく。きっと帰れば母に怒られるだろうけど今はそんな事は考えなくてもいいだろう。

あれから立ち止まっていた世界は少し歩き出して。伝えられた言葉は、あの時伝えようとした言葉と比べれば1%にも満たないだろうけど、これからまた進めば良い。

「楽しみだなぁ」

そうやって微笑んで、桜の花びらを眺める。きっとこの桜の花が運んできてくれたのだろう。奇跡を、後悔を拭ってくれる最後のチャンスを。

そんなことを考えて桜に感謝を告げる。そうしているとやっとカフェが見えてきた。

どんな話をしようかなんて胸を弾ませながら、カフェへと一歩踏み入れた。

これから先はまた色々考えながら、紡いでいくとしよう。

オチがない。見切り発車で書くものじゃないよ。

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