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【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。  作者: 秋月 一花
5章:エピローグへの足音
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エピローグへの足音 4話

「そして一つ、報告することがある。――ダヴィド」


 名を呼ばれたダヴィドは、エルヴィスに近付いた。

「わたしは 国王の座を降り、ダヴィドに王位を(ゆず)る」


 きっぱりと、言い切る。


 それに驚いたのは会場の人たちだけではない。アナベルも彼らと同じように驚いた。


「え、エルヴィス陛下……?」

「……ずっと、考えていたのだ。私のようにイレインを諫めることができなかった王が、このままでいいのか、と。ダヴィドと私は従兄弟だ。王家の血を引いたダヴィドなら、不満はあるまい。もちろん、魔物が出たら私が討伐に向かう。国民のことを守りたい。そのためには――こうしたほうが良いと、考えた」

「そういうわけで、譲渡(じょうと)が済めばこのダヴィド・B・デュナンが王となる。いろいろ大変のことになると思うが、まあ、お互いがんばろう。この国を、より良くするために!」


 ダヴィドの明るい声に、会場内にいる貴族たちは呆気に取られていた。


 アナベルも呆気に取られていた一人で、ダヴィドとエルヴィスを交互に見る。ダヴィドはパチンとウインクをして、エルヴィスはただ微笑んでいる。


「――ど、どういうことなの……?」


 状況が飲み込めずに、アナベルが眉を下げてエルヴィスの袖を引っ張り、小声で(たず)ねた。


「――ダヴィドと昔から話し合っていたんだ。私は国を治める力がないと、実感していたから。だが、ダヴィドなら……まあ、問題なくやっていけるだろう」

「……エルヴィス陛下は、本当にそれでよろしいのですか?」

「もちろん。どこかに縛られているよりは、自由に歩けるほうが向いている。……ああ、だが……」


 そっとアナベルの髪に触れて、そっと毛先を持ち上げると唇を落とす。


「ベルになら、束縛されてみたいものだ」


 彼の瞳に奥にある、確かな独占欲の炎。それを感じて、アナベルは顔を真っ赤にさせた。


「お二人さん、いちゃつくのはダンスの時間にしてくれないかな?」

「……なんだ、見ていたのか」

「見えるっての。それじゃあ、エルヴィス……」

「ああ。行こう、ベル」


 二人は微笑み合い、会場の中央まで移動する。


 すると、エルヴィスがパチンと指を鳴らした。


 会場内の花がすべて凍り、一気に会場の中が寒くなる。


「さあ、熱いダンスで氷花を溶かそうではないか!」


 音楽が始まった。甘く、熱く、ロマンチックな音楽が流れ、アナベルとエルヴィスはダンスを始めた。


 凍った花々にはリボンがつけられていて、リボンも凍っている。


 舞踏会のコンセプトを理解した貴族たちは、それぞれのパートナーとダンスを始めた。


 会場内のダンスの熱気で、エルヴィスが凍らせた花が段々と溶け、リボンから雫を垂らす。


 ――その日の光景を、アナベルは胸に刻んだ。


 ◆◆◆


 捕らえられたイレインは、地下牢に入れられた。王妃が地下牢に入れられるのは、レアルテキ王国の歴史で初めてのことだ。


 そんな彼女のもとに、両親が現れる。


「お父さま! お母さま!」


 カシャンと牢の鉄格子を掴み、イレインが泣きそうな表情で両親を呼んだ。そんな娘を見たイレインの両親は冷たい瞳を彼女に向ける。


 いつも愛情に満ちたまなざしを向けられていたイレインは、そんな瞳を向けられたことに「お父さま……?」と弱々しく声をかけた。


「バカ娘が……」

「浮気だなんて、なにを考えているの!」

「……え?」


 両親の口から出た言葉に、イレインは身体を硬直させる。


「すべて、エルヴィス陛下から聞いた。そして、その証拠も見せてもらった。……私がお前に言ったことを、まったく理解してなかったのだな」

「バカな子……。あんなに派手にやれなんて、言っていないじゃない」


 二人から投げかけられる言葉に、イレインは耳を疑った。いつだって自分を優先し、甘やかし(愛してくれ)ていた両親の言葉だとは思えなかった。


「どうして、そんなことを言うの……? エルヴィスが(わたくし)を罠にはめたのよ!」


「あの舞踏会には王侯貴族がいたのだぞ!? そんな中でお前の悪行が知れ渡り、お前の評判は地に落ちたも同然! 我らは、エルヴィス陛下から『無傷でいられるとは思うな』と忠告されたのだぞ!」

「そこで、わたくしたちはあなたとの縁を切ることにしました」


 イレインはその場に崩れ落ちた。両親が自分を助けるつもりがないことを、知ったから。


「どうして……?」

「ここまで派手にバラされては、もうお前が助かることはないだろう。陛下は、お前の死をお望みだ」

「……ッ!」


 イレインが絶望の表情を浮かべた。


「私がなにをしたというのです! エルヴィスをこんなにも支えたというのに……!」

「本当にエルヴィス陛下を支えたのなら、大切にされていたでしょうに」


 コツコツと足音を響かせて、呆れたように言葉を発する女性――アナベルが姿を現した。エルヴィスとともに。


「……どうして、ここに」

「罪人の顔を見たくて、エルヴィス陛下にお願いしましたの」


 すっとエルヴィスの腕に自分の腕を絡ませるアナベルに、イレインは憎悪の表情を隠さず立ち上がった。


「私はただ、美しくありたかっただけ……! それを罪だというの!?」

「その美しさのために、どれだけの人が犠牲になったのでしょうか」


 アナベルは淡々と言葉をこぼす。


「わたくしが住んでいた村を焼き払ったり、気に入らないことがあればすぐに人を殺したりするなんて、恐ろしいですわ……」


 ぎゅっとエルヴィスの腕にしがみついて、アナベルはイレインを睨みつける。


 ――焼き払われた家を、村を、忘れたことなどない。


「イレインは斬首刑になった。明後日(みょうごにち)に執行される」

「そんなっ、あまりにも早くありませんか!?」

「貴族たちがお前の悪行を知り、『こんな王妃がいては安心してくらせない』とな。気に入らない貴族も手をかけていたらしいな。あのあと、証言が山のように出てきたぞ」

「……私だけが悪いわけではないでしょう。私のことを放っておいたのは、エルヴィス、あなたでしょう!」

「よく言う。私を遠ざけていたのはイレイン、お前だろうに」


ここまで読んでくださってありがとうございます!

少しでも楽しんでいただけたら幸いです♪

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