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【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。  作者: 秋月 一花
4章:寵姫 アナベル
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寵姫 アナベル 12話

「では、受け入れ入るための準備期間がほしいところですね」

「はい。それと、コラリーさまから夜会の招待状もいただいています。この夜会に参加したいと考えていますわ」

「それは良いですね。……ああ、それではこうしましょう」


 ロマーヌの案に、アナベルはぱぁっと表情を明るくさせた。


 彼女に教えられながら、アナベルは丁寧に手紙を書く。


 王妃イレインに対して、王妃陛下の優しい心遣いに感謝すること、ありがたく侍女をいただくこと、ただまだ宮殿に慣れていないのから一週間ほど時間がほしいこと――……


「これでどうかしら?」

「……ええ、よろしいでしょう」


 ロマーヌがしっかりと内容を確認し、アナベルに微笑みかける。


 ホッとしたようにアナベルが息を吐くと、丁寧に折り、封筒に入れた。


「封をして、王妃イレインに渡してもらいましょう」

「そうですね」


 封をするために必要なものを取り出すロレーヌ。


 小さなキャンドルにマッチで火をつけて、スプーンを用意し、シーリングワックスを溶かす。


「……綺麗な色ですわね」

「シーリングワックスの色は種類が豊富ですから、アナベルさまも今度探してみてはいかがですか?」

「そうですね、楽しそうですわ」


 紫色のワックスを溶かして、封筒の上に垂らす。シーリングスタンプをぎゅっと押して、固まるまで待ち、そっと離して確認した。


「綺麗にできましたね。では、これを王妃陛下に渡しましょう」

「メイドに頼めばよいかしら?」

「ええ。では、それを頼んだら今日の授業を開始しましょう」


 にっこりと微笑むロマーヌの瞳がきらりと光る。


 アナベルは内心「ひぇっ」と叫んだが、表には出さずに微笑む。


「よろしくお願いいたしますわ、カルメ伯爵夫人」


 手紙は近くにいたメイドに頼む、アナベルはロマーヌにビシバシとスパルタで教え込まれた。


 文句を言わずにロマーヌについてくるアナベルは、彼女にとっても大事な生徒になっていた。


 一通りのことを終えて、昼食に時間になり、一緒に食べることになった二人は、食堂まで歩いていく。


「……カルメ伯爵夫人、頼みたいことがあります」

「私に?」

「はい。……実は、娼館から三人ほどこの宮殿にきてもらうことになっています。その人たちにも、わたくしと同じように教養を身につけさせたいのです」

「娼館……?」


 目を丸くしたロマーヌに、アナベルは昨日のことを話した。


 彼女は口元に手を添えて、考え込む。


「なぜ、娼館だったのですか? いくら腕が良いからと言って、あまりにも無謀な賭けなのでは?」

「――あの娼館にいる人たちは、男性の扱いエキスパート。……さらに、自分の身も守れるほどの腕前と、持ち前の美貌(びぼう)で情報を得てくれるでしょう。――王妃イレイン側の、男性を相手にしても」


 にやり、とアナベルは口角を上げた。


 一つでも多く、王妃イレインの情報がほしい。


「貴族の男性を相手にするなら、教養も必要となるでしょう? もちろん、娼館でもそれ相応の振る舞いを学んではいるでしょうけれど……より深く、美しく、男性を魅了できる人が必要だと思ったのです」


 アナベルはぴたりと足を止め、胸元で手を組んでロマーヌを見つめる。


「……ダメですか……?」


 不安そうに揺れる瞳を見て、ロマーヌはふるふると首を横に振った。


「よかった! それは数日後に迎えに行きますわね」

「……面白いことを思いつきますね、アナベルさま」

「あら、適材適所という言葉があるでしょう? わたくしは、それを実行しているだけですわ」


 貴族の令嬢しかしらない男性たちにとっては、刺激的かもしれないが、その刺激がうまくいくことをアナベルは祈っている。


「どんな方々がこちらへ?」

「三人ともわたくしに劣らず美女です。色気はわたくしよりもありますわね。……それと、護衛を兼ねていますので、強いと思います」


 彼女たちの実力を、アナベルは知らない。そして、彼女たちもまた、アナベルが彼女たちをどう扱おうとしているのか知らないだろう。


 知っているのは、アナベルの護衛をするということだけだろう。


「うふふ、楽しくなりそうですわね」


 にっこりと微笑むアナベルの瞳には、炎が宿っている。ロマーヌはゴクリと唾を飲んだ。


(――エルヴィス陛下は、面白い女性を連れてきたものね――……)


 ともに昼食を()り、そのあとお茶を飲んで穏やかな時間を過ごし、再びロマーヌにいろいろなことを学ぶ。


 夜に自室へ戻ると、アナベルはベッドに座って小さく肩をすくめた。


 肩に手を置いて、揉んでみる。


 剣の稽古を始めてからまだそんなに経っていないというのに、肩が凝っていた。


(……今日はエルヴィス陛下、いらっしゃるかしら?)


 ちらりと扉のほうに視線を移し、エルヴィスの姿を思い浮かべると、アナベルはかぁっと頬を赤らめる。


(……いつになったら、慣れるのかしら……)


 両手で頬を包み込みように添えると、扉がノックされた。


「はい、どうぞ」

「アナベルさま、王妃陛下からです……」

「ええ……?」


 まさかこんなに早く二通目が届くとは思わなくて、アナベルは目を(またた)かせる。


 手紙の内容を確認すると、アナベルは目元を細めた。


「……コラリーさまの夜会っていつでしたっけ?」

「二週間後、ですね」

「でしたら、華々しくわたくしの侍女としてデビューしてもらいましょう」


 アナベルは視線を落として、じぃっと手紙を見つめる。


「デビュー?」

「ええ、夜会に連れていこうと考えていますの」

「え、……その、彼女を、ですか?」


 アナベルはメイドと視線を合わせて、ゆっくりと首を縦に動かした。


ここまで読んでくださってありがとうございます!

少しでも楽しんでいただけたら幸いです♪

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