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【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。  作者: 秋月 一花
2章:寵姫になるために
23/62

寵姫になるために 5話

 ざわざわと人々の声が聞こえる。


 アナベルは深呼吸を繰り返して、隣で硬い表情を浮かべているクレマンに、小さな声で(たず)ねた。


「緊張してる?」

「まぁ、それなりに。デュナン公爵のところで芸を見せるなんて、さ。考えたこともなかったからなぁ……」


 クレマンはしみじみと、感慨深そうに会場を見渡す。


 アナベルたちの出番はまだ先だ。


 会場内は和気あいあいと賑やかであり、いかにも高そうな宝石やドレスを身にまとう女性たちや、シャンパングラスを片手に話し込んでいる男性たちが良く見える。


「人生なにが起きるか、わかったもんじゃあないわねぇ……」

「本当にな……」


 アナベルとクレマンがしみじみと話していると、ダヴィドが声をかけてきた。


「やぁ、お二人さん。どうだい、このパーティー会場は?」

「デュナン公爵、改めて、この素晴らしいパーティーに我が一座をお招きいただき、感謝しております」


 ダヴィドが「楽にして」と軽く手を振る。


「挨拶回りがやっと終わったからね。ちょっと休憩にきたんだ。きみたちの様子を見がてら、ね」


 パチンとウインクを一つ。


 アナベルは口角を上げる。クレマンもパーティー会場を見渡してから、ダヴィドに微笑みを見せた。


 不敵な笑みだ。この場で芸を披露(ひろう)できることに、喜びを感じている表情。


「……うーん、さすが。クレマン率いる旅芸人たちは、良い顔をしている」

「ありがとうございます。自慢の仲間です」


 クレマンは心底嬉しそうに表情を明るくし、アナベルはその言葉にほんのりと頬を赤くさせた。自分たちのことを『自慢の仲間』だときっぱり断言してくれたことに、身体が震えるくらいの歓喜を覚えた。


 ダヴィドは数度うなずいて、アナベルの姿を頭の天辺から足のつま先まで眺める。


「――さて、レディ。心の準備は?」

「いつでもできているわ。それより、どうかしら? この衣装」


 くるりと一回転してみせるアナベル。


 彼女の頭には銀色の髪飾りと薄いベールが付けられていて、髪飾りに埋め込まれたサファイアがきらりと光る。唇にはピンク色のグロスが塗られ、彼女の容姿も相まって愛らしい雰囲気を演出していた。


 しかし、衣装は異国風のものだ。トップスは短く、胸が隠れるほど。スカートは足首まで隠れるが動くたびにふわりと広がり、軽やかさを見せている。


「それ、エルヴィスの髪色に合わせたの?」

「ええ。とはいえ、真っ黒ってわけでもないのだけど……」


 トップスにもスカートにも、金色の刺繍がされていて、照明の下で輝いていた。


「色白なきみだからかな? とても綺麗だと思うよ」

「……それを聞いたら、なんだか自信が持てたわ。――さて、そろそろあたしたちの出番かしら?」


 ――今日のサプライズゲストが到着したらしく、会場内が一瞬静まり返り、それからゲストに近付いていく人だかりを確認してから、アナベルが悪戯(いたずら)っぽく笑う。


 ダヴィドもクレマンも、彼女を見つめて大きくうなずいた。


 アナベルはぎゅっと剣の(つか)を握り、目を閉じて深呼吸を繰り返す。


 目を開けて、復讐の炎を宿した瞳で前を見据え、歩き出した。


(――さぁ、行こう!)


 自分に向けて心の中でつぶやくと、背を真っ直ぐに伸ばして会場へと足を踏み入れる。


 きらびやかな空間は、自分が知っている世界ではないように見えてまぶしい。


 アナベルたちが姿を見せたことで、パーティー会場にいる人たちの好奇の視線が集まった。


 ふわり、と花が(ほころ)ぶように笑みを浮かべると、パーティー会場にいる人たちが頬を染めた。男性も女性も関係なく……


「エルヴィス、よく来てくれた」

「ああ。……今日はずいぶんと珍しいものが見られそうだな?」


 エルヴィスが旅芸人たちを見渡す。


 全員、今日のために身体も芸も磨いた。


 数日間しか準備期間はなかったが、いつもの芸をデュナン公爵邸という大舞台でやるのだから、後悔は残したくないと張り切った結果だ。


「ああ。(ちまた)で噂の旅芸人一行を招いた。本日は、彼らのショーを楽しんでほしくてね」


 ちらりとクレマンに視線をやるダヴィド。


 クレマンはにっと口角を上げて、大きく腕を広げた。


「このような大舞台で芸を披露できる機会を与えていただき、誠にありがとうございます。ぜひ、楽しんでください」


 パチン! とクレマンが指を鳴らす。


 それと同時に、一座の男性がステージへ駆け出し、タンっと床を蹴って飛び跳ねる。くるくると二回転をしてから、綺麗に着地した。


「まぁ、とても身軽なのね」

「他の人たちも、こういうことができるのか?」


 興味津々、とばかりに周りの人たちが口にする。


 視線はステージにいる男性たち。彼らはキラキラと輝くストーンを衣装につけていた。


 その輝きにも負けないくらいの笑顔で宙を舞い、周囲の視線を釘付けにする。


(――さすがだわ)


 くいっと腕を引かれた。


 アドリーヌが「行きましょ」とステージを指すのを見て、アナベルはこくりとうなずく。


 ダッシュでステージまで向かい、スカートが広がるように計算して飛ぶ。


 アナベルの手をステージの男性が取り、そのままステージに上がった。


 すっと鞘から剣を抜き、天井に剣を(かか)げるときらりと白刃が輝く。


 彼女は目元を細め、くるりと振り返り周囲を見渡す。


 それを合図に、男性たちがアナベルとアドリーヌ向かって剣を抜いた。


 剣があたりそうなギリギリのところで避け、剣を振るう。


 決められたパターンがあり、アドリーヌも同じように剣を使って周りを()せた。


 剣がぶつかり合う金属音。すれすれで(かわ)す緊張感。


 アナベルたちに向けられる、熱気ある視線。


 男性たちはステージの上で倒れ、ステージ上に立っているのはアナベルとアドリーヌの二人だけ。


 ふわり、とアドリーヌが微笑み、アナベルから離れた。


 タンタン、タタン!


 アナベルが靴を鳴らす。


 スカートの裾を持ち、いつもの剣舞が始まった。


 宙に剣を放り投げ、ステップを踏む。そして、ステップの最後の一歩のところで、腕を伸ばして横を向く。顔だけ正面を向けると、空中に放った剣が鞘に収まる。


 一瞬の静寂(せいじゃく)のあと――盛大な拍手がパーティー会場に響いた。


ここまで読んでくださってありがとうございます!

少しでも楽しんでいただけたら幸いです♪

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