表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。  作者: 秋月 一花
1章:踊り子 アナベル
10/62

踊り子 アナベル 9話

「さっきからなんか騒がしいと思ったら……、なんでここに陛下がいらっしゃるんでしょうか」


 アナベルのテントに移動して、座長であるクレマンが警戒するように彼を見る。


 クレマンの口から出た『陛下』の言葉に、アナベルは自分の予想が当たっていたことに目を丸くする。


「待っておくれよ、『陛下』ってことは……この人が『エルヴィス陛下』なの?」

「ああ。何度かお会いしたことがあるから、間違いない」

「……え、いったいいつ……?」

「それは……まぁ、追々話すとして。どうして陛下がこんなところに?」


 国を治める陛下は、城の中で仕事をしているとばかり思っていたから、こうして外に出ていることが不思議で怪訝(けげん)そうに表情を歪めるアナベル。


「久しいな、クレマン。……ミシェルは?」


 緩やかに首を横に振るクレマンに、エルヴィスは「そうか」と目を伏せた。


「ミシェルさんとも、知り合いなの……?」

「ああ、昔、少しな。それにしても……噂には聞いていたが、本当に美しい女性を連れているな?」


 からかうような口調だったので、アナベルはエルヴィスとクレマンの二人を交互に見て、「本当にどういう関係なのさ……」とつぶやく。


「……クレマン、そしてそこの女性。協力してほしいことがある」


 真剣なまなざしに、アナベルはもちろん、クレマンも息を()んだ。


「協力……?」

「先日、私の寵姫(ちょうき)たちが、何者かによって殺された」

「……寵姫が?」


 クレマンが目を大きく見開く。エルヴィスがこくりとうなずいて、真摯(しんし)な表情を浮かべてクレマンとアナベルを見る。


 アナベルは自分がここにいてもいいのだろうかと悩んでいると、エルヴィスはちらりと彼女に視線を向けてから、話を続けた。


「そうだ。名ばかりの寵姫で、一度も触れたことのない女性たちだったが……。その全員が、イレインよりも若く、美しい女性だったのだ」

「王妃サマが関係あるのかい?」

「恐らくな。……そこで、だ。私は彼女を貸してほしいと願っている」

「……彼女? って、まさかアナベルを!?」


 もう一度、こくりとうなずくエルヴィスに、クレマンだけではなくアナベルも絶句してしまう。


 それは、あまりにも突拍子のない申し出だったからだ。


「ま、待ってください。踊り子を寵姫にするおつもりですか?」

「ああ。イレインよりも若く美しい。そして――度胸のある女性だ」

「え、えええっ?」


 クレマンも、アナベルも困惑していた。そもそもどうしてエルヴィスがここにいるのかを(たず)ねたら、旅芸人の一座にとても美しい女性がいると噂になっていたかららしく、イレインよりも早く彼女に接触したから、と。


「……ちょ、ちょっと、それは……」


 クレマンが咄嗟(とっさ)に断ろうとしたが、アナベルが手を伸ばして制した。


「……それ、あたしにメリットがあるの?」

「危険は(ともな)うだろうが……、充分な報酬を約束しよう」

「……それよりも、確かめてほしいことがあるんだ」


 アナベルはぐっと拳を握り、真剣な瞳をエルヴィスに向ける。


「十五年前、この国の北部の村が焼かれた。……なぜ、あの村が焼かれたのか、理由を知りたい」

「……十五年前、北部……」


 確認するようぽつぽつと言葉を口にしてクレマンが、ハッとしたようにアナベルを凝視した。彼女の肩に触れて、その冷たさに息を呑み、すぐに自分の上着をかけてやるとアナベルが「ありがとう」と目を伏せた。


「きみは、その村の生き残りか?」

「……そうさ。……悪いね、座長。あたし、本当は記憶を失ってなんかいなかったんだ。……いや、失いたいと願っていたのかもしれない」


 十五年前に見た、あの光景を思い出したくなくて。


 それでも、脳裏に焼き付いたあの光景は消えてくれることはなかった。


 そして誓った思いを、アナベルはまだ秘めている。


「……それはおそらく、イレインの仕業だろう。あの村が焼けてから数ヶ月後に、イレイン側の貴族であったジョエルが謎の死を()げている。だが、あいつは隠すのがうまく、なかなか尻尾を出さない」

「……王妃サマが、なんであんな小さな村を襲わせたの……? それに、その『ジョエル』って貴族、あたしを買った貴族だよ」


 えっ? と二人の視線がアナベルに集中する。


 彼女は覚えている範囲のことを口にすると、クレマンもエルヴィスも口を閉ざし、なにかを考え込んでいた。


「……城の中に魔女がいるって、本当だったんですね」

「ああ、おそらく。……そうか、きみはあのときの子か」

「あたしのことを覚えているの?」


 会ったといっても、時間にして一分そこそこくらいだったはず。


 自分のことを覚えていることに驚きを隠せないアナベルに、クレマンが「なんだ、お前らも知り合いか?」と声をかける。


「知り合いってほどじゃないよ。あたしが王妃サマに声をかけられたときに、助けてくれたんだ。……ところで、魔女って?」


 クレマンは王妃、イレインの噂をアナベルに伝えた。


 男性と女性で評価が真っ二つに割れるらしい。


 イレインの侍女たちは彼女よりも年齢が若い少女が主だが、高確率で謎の死を()げている。


 噂では、王妃イレインが若い侍女から命を吸い取り若返っている……とささやかれているとのこと。


 男性からは(おおむ)ね好評で、二十代といっても通じるくらいの美貌(びぼう)と、ハリのあるしなやかな身体に魅了されているようだ。


「――はぁ……、王妃サマが……ねぇ……」

「自分の美を追求するあまり、国民のことが()えていないようだがな」

「ふぅん……。……で、なんで村が?」

「きみがいたから、だろう。ジョエルにきみを買わせたということは、きみのその美貌を失わせたかったから。ジョエルの女性の扱いはかなりひどいと聞いたことがあるからな……」


ここまで読んでくださってありがとうございます!

少しでも楽しんでいただけたら幸いです♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ