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7.アルバートの婚活

「お嬢様朝ですよ。起きてくださいね」


 そう声をかけて重いカーテンを開ける。

 朝の光が薄暗い部屋に入り込み、オーロラは眩しそうに顔を顰めてから、うっすらと瞼を開いた。


 まだぼんやりとしているオーロラを起こして鏡台の前に座らせると、エヴァは櫛で髪をとかす。

 柔らかな黒髪の質感が手に触れて気持ちいい。

 ふと、鏡の中のオーロラの表情を見て首をかしげる。


「なんてお顔をなさってるんですか? 可愛い顔が台無しですよ」

「え? 可愛い?」


 言われた言葉に照れたように頬を高揚させたが、すぐにまたぶすっとした顔に戻ってしまった。


「だって、今日またお兄様目当ての女が来るんですもの」

「女だなんて。女性と言いましょうね」

「わかってるわよ!」


 顰め面を作ると黙り込んでしまった。

 どうせ兄がらみで不機嫌になっているのだから、機嫌を取るなんて無理なのだ。エヴァは気にせずオーロラのドレスを取りにクローゼットへ向かった。

 今日はプリムローズのような薄黄色のドレスと、ラベンダーのような紫色が基調のドレスを持っていく。

 どちらがいいかを見せると、薄黄色のドレスを指さされた。

 合わせて同じ色のリボンも用意する。


「薄黄色の素敵なドレスですね。プリムローズみたいな色で可愛らしいです」

「……今日のお食事相手は、大伯母様のお知り合いの女性なんですって。私も会ったことがないけれど、どんな方なのかしら」

「さぁ、どうでしょうね」

「私は一緒に食事が出来ないから、エヴァが代わりに見てきてね」


 子どもの夕食は子ども部屋で食べるのが一般的だ。

 そもそも子どもと大人の夕食の時間が合わないから。

 たまに三人で一緒に食べているようだけれど、今日は初めてのお客様が来るのできっと子ども部屋だろう。

 

「私も見られないと思いますよ」

「それでもよ。ちらっと、部屋に出入りする姿とか、食事の時の会話とか聞こえるかもしれないでしょ?」


 エヴァは、支度の終わったオーロラを全身鏡の前に立たせて最終確認をする。

 鏡の中から期待を込めた目がエヴァを見つめていた。


「そもそも、本当にお嬢様の言うような目的でしょうか?」

「どういうこと?」

「ただご挨拶に来ただけとか」

「まさか、そんな訳ないわ。だって大伯母様なんて私お会いしたことないし、わざわざ女性連れで来るなんてそうとしか思えないわ。ねぇ、エヴァいいでしょ? 早く知りたいのよ。エヴァが見に行かないなら、自分でこっそり見に行っちゃう」

 

 エヴァは息を吐きだすと、渋々頷いた。

 これくらいの我が儘なら可愛いものだと思うのだ。





 

 夜になり、静かな屋敷が少し落ち着かない雰囲気になっている。


 普段は自室に引きこもっている奥様も今日は華やかなドレスを着て、髪を結い上げている。

 顔が青白いのは、薄暗い光のせいだろう。

「こっそり見に行っちゃう」と言っていたオーロラだったが、今は家庭教師によって子ども部屋に抑え込まれているようだった。

 

 適齢期の女性に対するオーロラの勝手な妄想かとも思っていたが、使用人たちの噂話によるとオーロラの想像は当たっていたようだった。


 そうなると、田舎で娯楽も少ない屋敷の中だ。

 どことなくわくわくと面白い話題が来たぞ、という雰囲気で使用人達も浮足立っているようだった。


 エヴァも食堂に入って行った一行を、遠くから他の使用人たちの邪魔にならないように注意しながら様子を伺う。

 エヴァが配膳担当だったら堂々とお客様たちの姿を見ることもできるのだけど。

 どっしりとした扉が閉じられ、話し声も聞こえそうにない。

 後で使用人仲間から話を聞いた方が良さそうと判断する。

 

 エヴァがその場から立ち去ろうとした時、使用人が出入りの為に開けた扉の向こうから、甲高い笑い声が聞こえてきた。

 引きつったような、鳥の鳴き声のような。

 多分、ほとんどの人が耳障りだと思うような声だったと思う。


 聞きなれない声に、ビクリと身体を震わせたエヴァ。

 扉の方に視線を向けると、部屋から出てきた配膳係がこそこそと喋っているのが見えた。


「あの笑い声を間近で聞いてる奥様は、きっと明日も寝込んでしまうわ」

「旦那様の耳も壊れてしまわないか心配ね」


 ふたりはこっそりと笑いあいながら台所に戻っていった。

 エヴァもその場を後にすると、オーロラへの報告する言葉を考えていた。

 でも考える必要もないくらいだと思う。

 

 ――旦那様はお選びにならないと思いますよ。


 多分。

 間違いなく。

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