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26.公園デート

 馬車で公園入口まで送ってもらう。

 アルバートに差し出された手を取り、長いドレスの裾を持ち上げて馬車から降りる。

 公園は大きな木々が陽光を遮り、少しばかりひんやりとした空気で包まれていた。

 小さな川が流れていて水鳥が泳いでいるのが見える。


 エヴァはアルバートの肘に手を置いて、寄り添いゆったりと歩いていた。

 目の前を歩く女性の、ワイン色のドレスの長い裾が風にゆらゆらと揺れている。

 木々の隙間から見える青空にアルバートは目を細める。


「良い天気だな」

「ええ、王都でもここは空気もマシですしね」

「僕が前まで住んでた場所に比べたら、王都の空気はどこも似たようなものだけどね」


 ふたりで顔を見合わせてクスリと笑いあう。

 エヴァはアルバートの横顔を見上げた。


 ずっとこんな風にアルバートとふたりで歩いてみたかった。

 

「奥様とお嬢様はお元気になさってる?」

「ああ、もうオーロラって呼ぶといいよ。オーロラはね、君がいなくなってがっかりしてるよ。あの子に言うと広まっちゃうからね、まだ伝えてないんだ。ちょっとかわいそうだけど。母上は元気になったよ。張り切って……」


 そこで言葉を詰まらせたアルバートを不思議そうな顔で見つめるエヴァ。


「何ですの?」

「あー……。うん、張り切ってるよ」

「何をです?」


 あの繊細なウォートレット夫人が張り切っている様子を想像できなくて、首をひねる。

 張り切って交霊会でも主催しているのだろうか?

 それならありそうだけれど。

 

「交霊会でも主催なさってるの?」

「はぁっ? 違うよ、違う!」


 目をぎょっと見開き否定する。


「僕の屋敷でそんなことして欲しくないよ……。それにあの地域の気候と合わないんじゃないかな。明るくて暖かい雰囲気だし、流行らないんじゃないかな。嬉しいことだよ」

「そうですね。王都では少しだけですが、向こうの街より交霊会の話を聞きますわ」

「王都は人も多いしね」


 何かを考えるように言ったので、エヴァも「どうかされまして?」と聞いた。


「母上が新しい家を探してるんだ」

「新しい家ですか?」


 エヴァが少しだけ険しい顔になってしまったのは仕方のないことだろう。

 だって伯爵家には新しい屋敷を買うようなお金はないはずなのだ。


「ああ、うん。お金は母上の自分の個人口座に取り置いてあったお金を使うって言ってるから、そんな怖い顔しないでくれよ」

「私そんな顔してました?」

「うん……」


 エヴァは気まずくなり視線をそらした。


 憂慮していた返済のことだが、支払いまで猶予があること。

 それからエヴァの持参金ですっかり返せてしまう算段がついたことから、ウォートレット夫人の口座のお金にまで手を付けずにすんだのだ。

 ならばエヴァにウォートレット夫人の個人口座のお金に関してまで口出しする権利はない。


「ごめんなさい」

「あ、いや、僕の家のせいだから……。ええとね、家の話だったね。僕らが結婚するから母上がオーロラを連れて新しい家に引っ越そうと言ってて、その家を王都も候補に入れて探しているみたいなんだ」

「王都ですか? 奥様にはもっと天気の良いところが良さそうなのですが。それに出て行かなくても良いではありませんか」

「新しい女主人はエヴァだから、だそうだよ。それに、自分がいると使用人が混乱するってさ」


 なんとなく、その言い分はわかるものだった。

 家政婦は先代ウォートレット伯爵夫人をたてるかもしれない。最初はいいかもしれないが、それが続けば現ウォートレット伯爵夫人となるエヴァを蔑ろにする行為かもしれないということだ。


「しばらくは南のお屋敷に私たちも住むのですよね? それなら奥様にもそこで探していただいた方がよろしいかと思いますわ。王都には伯爵家のお屋敷がありますもの。そのうち貸すのを止めるんですよね?」

「ああ、うん。そうだね」


 アルバートはコクリと頷いた。

 そのままゆったりと歩いていたのだが、ふと何かに気が付いたような顔をしたアルバートがエヴァをベンチに座らせた。


「ちょっとここで待っててもらえるかい? すぐ戻って来るから」

「構いませんが……」


 急にどうしたのだろう? その想いが出ていたのだろう。アルバートは何度も手を振って「そこに居てくれ」と言って、公園の奥の方へとひとりで行ってしまったのだった。


「どうしたのかしら」

 

 ひょっとしてお手洗いだろうか。

 それなら仕方ないし、深く聞くことじゃなかった。

 そう思い直すと、エヴァは公園の風景を楽しむことに集中することにしたのだった。


 小鳥の声や、小川の流れる音に耳を傾けていると、エヴァに近づいてくる足音が聞こえてきた。

 

 アルバートが戻って来たのかと思い、顔を向けるとそこにはエヴァが予想もしていなかった相手がいたのだった。


「エヴァ?」

「ア、アスター?」

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