表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/39

第6話 体育館裏に呼び出されるのは鉄板だけど

—1—


 コメントが上から下に流れていく。

 画面を凝視して誤字脱字が無いか入念にチェックを重ねること計4回。

 コメントを送信してから読まれるまでのこの時間はとても生きた心地がしない。

 そもそもオレのコメントが読まれるとは限らない。

 あれ? なんかラノベのタイトルみたいだな。

『そもそもオレのコメントが読まれるとは限らない』

 なんてネガティブで悲しい物語なんだ。


 などとくだらない考えが頭に浮かぶほど心に余裕が生まれてきた頃、視聴者数は300人を超えていた。

 金曜日の夜ということもあって、学生や仕事終わりの会社員が配信を開いたのだろう。


『続いての人生相談は、トイレの守護神さんから。毎朝学校に行く前にお腹を下してしまいます。胃薬を飲んでもすぐには治りません。何か腹痛を治める方法はありますか?』


 オレより後に投稿されたコメントが読み上げられた。

 視聴者数が増えたことでコメントも増え、オレのコメントが埋もれてしまったのか。あるいは意図的にスルーされたのか。

 真意は配信主である藤崎さんにしか分からないが、1度流れたコメントを再度投稿する気にはならない。

 しつこいと思われたくないからな。


『私も中学生の頃に腹痛に悩まされてた時期があったんだけど、腹痛の原因の多くはストレスなんだって。どういう状況でお腹が痛くなるのか。不安を抱えていることはあるか。何が不安なのか。自分自身の気持ちを理解してあげることで痛みが和らぐかもしれないから実践してみて』


 実体験に基づくアドバイス。

 相談者のトイレの守護神がコメントで『ありがとうございます。今度実践してみます!』と、お礼の言葉を述べていた。


『えっと、次の人生相談は——』


 その後も藤崎さんは雑談を交えながら配信枠の30分相談に乗り続けた。

 スマホの画面には【藤崎花火の人生相談枠】が『オフライン』となっている。


「読まれなかったか」


 勇気を出してコメントを送ってみたが、配信が終わった今振り返ると我ながら大胆な行動に出ていたと思う。

 現状維持ではなく、進展を望んで起こした行動だったが客観的に見れば暴走していた気がする。


 配信者は受け答えに困るような話題をわざわざ取り上げない。

 そんなこと少し考えれば分かるはずなのに。

 冷静になった今だからこそ色々と反省点が挙げられる。

 ベッドの上で一人反省会を開いているとスマホに通知が届いた。


『藤崎祭:もしかして配信聴いてた?』


「藤崎さん!? なんで?」


 無料で通話やメッセージのやり取りができるSNS『CROSS(クロス)』。

 クラス替えの時にクラスメイトが全員招待されたグループがあったけど、そこからオレのことを友達追加したのか?

 藤崎さんから個別でメッセージが送られてくるという予想外の展開に困惑しつつ、片手で胸を押さえながらCROSSを開く。

 これで相手にメッセージの閲覧を知らせる既読が付いたはずだ。

 と、その時、間髪入れずに画像が1枚送られてきた。


「これは……」


 ついさっきまで配信されていた【藤崎花火の人生相談枠】のスクリーンショットだった。

 画像にはオレが送ったコメントがしっかりと映っていた。

 藤崎さんはオレのコメントに気付いていたのだ。

 でも、まさか直接連絡してくるとは思わなかった。


『藤崎祭:明日って空いてる?』


 こちらの返信を待たずに藤崎さんから連投でメッセージが送られてくる。

 当然、画面を開いているからノータイムで既読が付いてしまう。

 壁に掛かっているカレンダーに目をやるが特に予定は書き込まれていない。

 買ってきたラノベの続きを読むか、原稿を書き進めるか。

 はやてが暇をしていたら映画館で劇場版のアニメを観るのもアリだなと考えていたが、それほど優先順位が高い訳ではない。


『深瀬秋斗:空いてるけど』


『藤崎祭:11時に体育館裏集合で!』


 こちらに有無を言わせぬ勢いで会話が打ち切られた。

 体育館裏に呼び出されるのはラブコメのような恋愛が絡む作品では鉄板イベントだけど、今回は明らかに違う。

 コメントを送ったから配信を聴いていたことがバレたのは分かる。

 アカウント名も『深瀬』って何の捻りも無いそのままだし。

 さて、直接会って何を言われるのか。


「口止めか?」


 藤崎さんに『分かった』と返信するも既読が付くことはなかった。

 こうして祝日に制服で学校に行くという特殊イベントが発生したのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ