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第38話 オレにしか書けない物語を紡いでいくんだ

—1—


『藤崎祭:おはよー! 今日も部活頑張ってくるね! 深瀬くんも小説ファイト☆』


 藤崎さんと両想いだったこと、付き合えたことは今でも夢なんじゃないかと疑ってしまう。

 でもこうやってCROSSにメッセージが届くと徐々にではあるが実感が湧いてくる。


 なんだこのふわふわした気持ちは。

 異能バトルモノではないが今のオレは無敵になったような気がする。

 全然全くそんな訳はないのだが。

 それでも内側から湧き上がってくる幸福感をエネルギーに変換したら無敵になったと錯覚しても不思議ではない。


 これがリア充ってやつか。


『深瀬秋斗:おはよう! 暑いから熱中症に気を付けて!』


 可愛らしい猫がファイトと叫んでいるスタンプを一緒に送る。

 スマホの画面を下にして机の端に置いた。


「藤崎さん、お盆はおばあちゃんの家に行っちゃうんだよなー」


 昨日、藤崎さんと正式に付き合うことになってから駅で少しの間雑談をしたのだが、お盆はお墓参りでおばあちゃんの家に泊まるらしい。

 夏休みも残りわずか。

 せっかくだから2人でどこかに出掛けたかったがお盆明けまで持ち越しとなった。

 そもそも原稿が残ってるから今の状況では遊びに出掛けられるか分からない。

 このままだとオレの夏休みは執筆で終わりそうだ。


 パソコンを開いて最新話の原稿を読み返す。

 書籍1冊を文字数に直すと約100,000文字。

 WEB小説は1話あたり大体2,000文字〜3,000文字が主流と言われている。

 オレの場合は2,500文字を目安にしている。

 なので単純計算すると40話で完結するように物語を組み立てなくてはならない。


 小説賞の規定文字数まであと40,000文字。

 話数で16話分ある。

 その時の調子によって執筆速度が変わるので参考程度にしかならないが、1話更新できるレベルまで仕上げるのに1日掛かる。

 夏休みは8月25日まで。

 あと14日しかない。

 お墓参りや親戚の集まり等があるので全てを執筆に使える訳ではない。

 現実的に考えて残り10日といったところか。


『先輩は物語を通して誰に想いを伝えたいんですか?』


 里緒奈に言われた言葉を思い出し、オレは改めて自分が小説を書く意味について考えていた。


 オレが小説を書き始めた原点。

 幼少期に漫画の続きを考えたり、魔法や剣をメインとしたファンタジー世界が好きだったことが挙げられる。

 自分が思い付いた展開や設定を友達に話して、それを楽しそうに聞いてくれる空間が好きだった。

 だから自分でも小説を書いてみようと思った。

 自分が作る物語を面白いと共感してくれる人が他にもいるんじゃないかと思ったから。


 自分が好きなものを好きと言ってくれる。

 そんな空間を作ることができればそれ以上に幸せなことはない。


 WEBサイトに小説を投稿し始めた頃は小説の書き方も分からず全てが手探りだった為、小学生の作文の延長線上のような酷いものだったが、それでも感想をくれる人はいた。


 キャラクターが好き、展開が衝撃的、続きが気になる。


 そういった感想がオレを小説の世界にどっぷり浸からせていった。


 WEB小説サイトのランキング上位の作品を読み漁り、お小遣いでライトノベルを買い、起承転結、会話のテンポ、地の文など独学で技法を学んでいった。


 昔から興味のあることに対してはとことん打ち込める性格だった。

 何より、脳内に浮かぶ最高に面白い物語を分かりやすく読者に届けたい。

 その思いが強かった。


 小説を書き始めてしばらくは異能力バトル系の作品をメインに書いていたが、WEB小説サイト上で開催されたコンテストをきっかけに青春SF系の作品を書くことにした。

 当時は気分転換になるかもしれないし、小説賞というお祭りに参加したい。そんな軽い気持ちだった。


 しかし、あるコメントをきっかけにオレの創作に対する考え方が変わった。


『作者様の作品に人生を救われました。夢を失ってこれからどう生きていこうか途方に暮れていましたが、ヒロインの諦めないで前に進む姿を見て私も頑張ろうと思えました。素敵な作品に出会えてよかったです。ありがとうございました』


 オレの小説が顔も名前も知らない人の人生を変えた。

 生きる希望を与えた。

 勇気を与えた。


 大袈裟に聞こえるかもしれないが、確かにコメントにそう書いてあった。


 自分の作品は面白い。共感して欲しい。

 そういった気持ちで始めた創作活動がこの瞬間から読んでくれた人の心を動かしたい。

 そう思うようになった。


 読んでくれた人に喜怒哀楽のどれでもいいから何らかの感情を抱いて欲しい。

 感情を揺さぶるようなインパクトのある作品を書きたい。

 読んだ人の人生観を変えてしまうような。

 ある種トラウマになるような。

 そんな作品が作りたい。


 作りたい。じゃない。作るんだ。

 その為には作品と向き合わなければならない。

 熱量を、時間を注がなくてはならない。


『物語を通して誰に想いを伝えたいんですか?』


 自分を含めた読者に想いを伝えたい。

 読後感の余韻が現実世界にまで影響を与えるような。

 少しでも前向きになれるような。


 作品に込めたメッセージが正しく伝わるようにオレは全力を尽くす。


 気付けば夜になっていた。

 集中していると時間が一瞬で溶けてしまう。

 小休憩がてらスマホに手を伸ばし、SNSアプリ『Z』に宣伝文を打ち込む。


『【宣伝】青春小説大賞に応募している「人嫌いなクラスメイトが茜色に染まるまで」の表紙イラストを「0→100(ゼロヒャク)」さんに描いて頂きました! 女子高生2人の成長と絆の物語です。下記リンクから無料で読めますので、是非ご一読下さい→https://○×△□.jp』


 投稿を終え、ゆっくりではあるがインプレッションが増えていく。

 颯のアカウントでも宣伝の投稿が拡散され、じわじわと数字が増えていく。

 ただ、SNSのリンクを踏んで小説サイトまで飛んでくれる人の割合は少数と言われている。

 それでも普段小説サイトを利用していない人など、幅広い人にアプローチするなら有効な手だ。


 小説の閲覧数は小説賞の選考に直接的な影響はないが、1人でも多くの人の目に触れて欲しい。

 創作者なら誰もがそう思うのではないだろうか。


 オレはスマホの電源を落とし、さらなる追い込みを掛けるのだった。

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