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第37話 初めての彼女に浮かれている場合ではなくて

—1—


 シャワーを浴びて、朝ご飯兼昼ご飯を済ませた頃には午後1時を回っていた。

 冷房の効いたリビングでバラエティー番組をラジオ代わりに垂れ流しながらスマホに目を落とす。

 すぐにでも執筆に戻った方がいい。

 そんなことは百も承知している。

 ただ、里緒奈との件もあって、頭の中を整理させる時間が欲しかった。


 告白して振られる辛さは言うまでもない。

 しかし、振る側にも苦しさはある。

 オレはそんな当たり前のことを知った。


 里緒奈が大人な対応を取ってくれたから気まずさのようなものはあまり残らなかったが、それでも次に顔を合わせたらぎこちなさは出てしまうかもしれない。

 当然、里緒奈がそれを望んでいないことは理解している。

 だからできる限り普段通りに接することができればと思う。

 それが気持ちに応えることができなかった者の最低限の責任だと思うから。


 情報収集も兼ねてSNSの巡回をして辿り着いたのはCROSS。

 通知は0件。

 昨日の夜、颯から表紙イラストのデータが届いて以降、誰からもメッセージはきていない。


 数少ない友達一覧の中から藤崎さんを選択。

 表示されたプロフィール欄にはケーキの絵文字と『8/11』と書かれている。

 そう。今日、山の日は藤崎さんの誕生日なのだ。


 お祝いのメッセージを送ろうか迷うが、告白の返事をもらっていない手前、こちらから連絡するのは躊躇う。

 コンビニや喫茶店で使えるギフトなんかも送れるみたいだが、もし振られた時に気まずいし、こっちから連絡したことによって告白の返事を催促しているように受け取られるかもしれない。


 そんな思考を巡らせているとその藤崎さんからメッセージが届いた。


『久し振り。連絡遅くなってごめんね。今日の18時頃、南仙台駅で会えないかな?』


 すぐに既読を付けるとスマホに張り付いていたように思われかねないし、とりあえず通知を開かずに文面を何度も読み返す。

 南仙台駅はオレの最寄りの駅だ。

 藤崎さんの最寄駅からは3駅ある。

 わざわざ会いに来るのか、それとも何か用事があってこの近くにいるのか。

 いずれにせよ告白の返事であることは間違いないだろう。

 18時頃という時間の指定がある以上、いつまでも返事をしない訳にもいかず『久し振り。大丈夫だよ!』とだけ返した。


 そもそもの話になるが、告白を受けた人が返事を保留にする理由はなんだろう。

 自分も好きだったら両想いで付き合える訳だし、相手に好意がなかったら断って終わりだ。

 後者の場合は相手を傷つけない言い回しを考える為に時間を要する。

 友達とかに相談をしたりもするのだろう。

 だからいったん返事を保留にする。


 つまり、オレは振られることが確定している?

 そんな不安を胸にオレは約束の時間まで自室で原稿と向き合うのだった。


—2—


 藤崎さんとの約束の10分前。

 オレは駅に併設されているコンビニにいた。

 何も買わずに長居しても申し訳ないのでグミを1つ購入した。

 漫画雑誌の表紙を流し見して、飲み物コーナーの前へ。甘い物を飲むと余計に喉が渇くからここは無難に水がいいかな。


「深瀬くん、ごめん待った?」


 飲み物に迷っていると後ろから声を掛けられた。


「ううん、今来たところだよ」


 振り返ると制服姿の藤崎さんが立っていた。


「ここだとあれだし、外で話そっか」


 そう言って藤崎さんが外を指さす。


「そうだね」


 祝日とはいえ仕事を終えたサラリーマンや遊び帰りの中学生、高校生が改札から駐輪場の方向へ流れていく。

 話す場所と言われても駅周辺は座る場所もないし、立ち話をするにしても人目が気になる。

 かといってこのままだと人混みに流されてしまうので駐輪場とは逆方向に歩くことにした。


「急に呼び出してごめんね。それと連絡遅くなってごめん」


「大丈夫だよ」


 いつ切り出されるかと思うと心臓がドキドキする。

 隣を歩く藤崎さんは部活で使う大きめのリュックを背負っている。


「藤崎さん、今日は部活だったの?」


「うん、練習試合だったんだ。仙台まで行ってたからその帰りなの」


「そうだったんだ。お疲れ」


「ありがとう。深瀬くんは?」


「オレは小説を書いてたかな。あんまり進まなかったけど」


 はははっと力なく笑って誤魔化した。


「ごめんね、忙しい時に」


「いや、全然大丈夫だよ」


 ロータリーの端に寄り、駐輪場の方に流れて行く人を眺めながら当たり障りのない会話で繋ぐ。

 その人混みも次第に疎らになって消えていく。

 ロータリーはバスを待つ数人とオレと藤崎さんだけになった。


「告白の返事なんだけどね、まずはすぐに返せなくてごめんね。バスケ部に入ったばかりで練習試合もあって、そっちに集中したかったの。試合にも出させてもらうことになったから山田先生とチームメイトの期待に応えたくて。私自身、中途半端になるのが嫌だったから」


「そうだったんだね。試合はどうだった?」


「勝ったよ。得点もチームで1番だった」


 藤崎さんが心の底から嬉しそうに笑った。


「よかった」


 言葉に出すつもりはなかったが思わずそう漏れていた。

 お節介、余計なお世話。

 場合によってはそう捉えられても仕方がないような行動をオレは取っていた。

 それでもオレは自分の信念を貫いて、自分の考えに従って動いた。半分暴走気味だったけど。

 藤崎さんの笑顔を見てようやくそれらが報われた。


「私がまたバスケができるようになったのは深瀬くんのおかげだよ。本当にありがとう」


「オレは別に……踏み出したのは藤崎さんだから」


 隣に並んでいた藤崎さんが回り込んでオレを見上げて目を合わせた。


「ううん、きっかけを作ってくれたのは深瀬くんだから。だから、ありがとう。それで——」


 藤崎さんは言葉を探すように視線を明後日の方向に逸らしてから意を決して正面を向いた。


「わ、私も深瀬くんのことが好きです。よろしくお願いします」


 深瀬秋斗16歳。

 生まれて初めて彼女ができた瞬間だった。


 恥ずかしそうに頬と耳を赤く染めた彼女の顔をオレは今後忘れることがないだろう。

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