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第12話 弾き語り

—1—


 廊下に出ると柔らかいギターの音色と優しい歌声が聞こえてきた。

 階段を見上げると里緒奈が踊り場にあぐらをかいて弾き語りをしていた。

 オレと目が合い、嬉しそうに頬を緩ませる里緒奈。

 普段なら飼い主を見つけた犬のように勢い良く近寄ってくるのだが、音楽に向き合っている時の彼女は違う。


 真剣にただひたすらに自分の理想の音楽を表現することだけに集中している。

 サビに入り、心に訴えかけるような力強い地声と透き通った裏声が校舎に反響して鼓膜を刺激する。


 耳が喜ぶとはまさにこのことだろう。

 オレはトイレに行くことも忘れ、歌い終わった里緒奈に拍手を送っていた。


「放課後はここで練習してたのか?」


「毎日ではないですけど、本校舎と比べると静かなのでここはお気に入りの場所です。秋斗先輩は図書室で何を?」


「颯と打ち合わせだ。小説大賞に応募してる作品のイラストの依頼をしてたんだ」


「そうだったんですか。今度の作品はどんなお話なんですか?」


 里緒奈がBGMの代わりにギターを弾き出した。


「人間不信に陥ったクラスメイトと向き合う女の子の話だ。女子同士だから恋愛には発展しないけど、同性だからこそ描くことができる高校生の青春を詰めていく予定だ」


「これまでとはちょっとテイストが違うんですね」


「ああ、市場の流行を取り入れてみようと思ってな」


 今までは男女の恋愛模様とSF要素を掛け算してストーリーを組み立てていたが、ここ数ヶ月の書籍化作品やアニメ化作品でヒットしているタイトルの傾向を分析するに女性主人公+女性ヒロインが共通点として挙げられた。

 消費者の求めている物が明らかになっている以上、それに寄せて作るのも立派な手法だ。

 需要があるなら供給するに越したことはない。


「完成したら読ませてくださいね!」


「ああ、その時は感想を聞かせてくれ」


「任せてください」


 里緒奈がトントンと拳で心臓の辺りを叩いた。


「里緒奈もオリジナル曲が出来たら聴かせてくれよ」


「それは、どうでしょう……」


「行き詰まってるのか?」


「実は歌詞がうまくまとまらなくて。あははっ」


 里緒奈は力無く笑い、


「でも大丈夫です。なんとかするんで!」


 じゃーんと力強くギターを弾いてみせた。


「そうか。あんまり無理はするなよ」


「はい、ありがとうございます」


 スランプに陥っている時は我武者羅に打ち込んだところで解決するとは限らない。

 WEB小説賞で銀賞を受賞して以来、大した結果を残せていないオレもまたもがき苦しんでいる。


 何かきっかけがあればスランプから脱することができるのだろうが。

 そう都合良くきっかけが訪れるはずもないので目の前のことを1つずつこなしていくしかない。

 それが人生というものだ。


「じゃあ、オレに何か手伝えることがあったらいつでも言ってくれ」


「分かりました」


 再び強烈な尿意に襲われ、オレはトイレに急ぐのだった。

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