廃村
緑に囲まれた、小さな村。
村は小さいけど、それなりに人々はいて。
みんな他人だけどでも、村のみんな家族みたいなもので。
誰かが村から都会に行く時は、みんな「行ってらっしゃい」と涙ながら見送ってくれるし。
誰かが都会から村に帰省した時は、みんな「お帰りなさい」ってやさしく迎えてくれるし。
僕の故郷は、小さくてあったかい場合だった。
けど…だんだん。
他の地に行ってしまった村人は、戻ってこなくなり。
一人。
また、一人。
村から人々が減るばかりになっていた。
いつもおばさんたちが集まって井戸端会議をしていた公民館前は、誰も集まらなくなっていた。
年に一度村が賑わう小さな祭りも、いつのまにか行わなくなっていた。
子供の頃、おじいちゃんからこっそりもらったお小遣いを握りしめてお菓子を買いに行っていた駄菓子屋も潰れていた。
僕の通っていた小さな小学校は、ぼろぼろになっていて、小さなグラウンドは雑草がぼうぼうに伸びていた。
そしてまた、僕はなん十年ぶりにその村に帰省した。
帰省…といっても、そこにはもう僕の実家はない。
最後におじいちゃんが一人で住んでたけど…でも、おじいちゃんが亡くなった後は、もう誰もその家に住むことはなくなり。
今、かつての僕の実家は、屋根が崩れてぼうぼうとした雑草だらけの真ん中で隠れるようにして朽ちている。
僕の家だけじゃない。
他の家もほとんどが廃墟と化している。
そう…村は、数年前に廃村になっている。
家々は朽ち、緑に覆われていて自然の一部になりつつある。
僕は村の真ん中に佇み、ゆっくりと瞼を閉じる。
さああ…と、木々が風に揺れる音が静かに聴こえる。
その間から…人々の声がする。
昔懐かしい声や駆ける足音が、聴こえてくる。
──…ただいま。