77.子猫
(子猫)
しばらくして良一は目を覚ました。
「……、紗恵子さん……」
「良一君ね、本当に良一君ね!」
「もちろんですよ……」
良一は、まだ半分夢の中のような、うつろな目で呟いた。
「じゃ証拠見せて……、私の胸、触って……」
紗恵子は姿勢を低くして胸を突き出した。
「また、胸ですか……?」
良一は、この前の日曜日に妙子に胸を触って証拠を見せて、と迫られたことを思い出した。
「あら、触りたくないの?」
紗恵子は、なおも迫った。
「触りたいですよ……」
「じゃあ、誰も見ていないから……」
良一は右手を出して紗恵子の膨らんだ胸を触ろうと腕を伸ばした。
「……、駄目ですよ。また家事労働の刑が延びちゃうから……」
良一は、伸ばした腕を慌てて引っ込めた。
「……、残念。少しは学習しているのね。じゃ今度はもっと凄いので誘うことにするわ。でも、元に戻って、本当に良かった」
「……、僕どうしたんですか?」
「修学旅行から帰ってきたら、急に倒れたのよ」
「……、そうなんですか。よっぽど疲れていたんですねー」
良一は苦笑いして見せた。
まもなく良一も退院して、湯川家にはいつもと変わらない日々が訪れていた。
妙子は相変わらず寝起きが悪く、良一は相変わらず家事に追われていた。
やっと家事労働の刑が終わると思ったが、抜け目の無い妙子は、あの日抱きついたことも数に入れられて、いまだに帰るに帰れない。
それと、新しいことと言えば、母朋子が、にぎやかな食卓に着くようになり、良一の仕事も少し増えたけれど……
しかし、それは良一にとっても嬉しい仕事だった。
母朋子は早く仕事に復帰したいとリハビリを始めた。
そんなある日、一匹の子猫が迷い込んできたのは、夏休みに入ってしばらくたった時のことだった。
おわり




