75.霊感の持ち主、紗恵子
(霊感の持ち主、紗恵子)
しかし、朝になっても良一は目を覚まさなかった。
妙子はいつしか、良一のベッドの下でうずくまるように眠っていた。
朝早くに紗恵子が見舞いに来て、床に眠っている妙子を起こした。
「妙子、風邪ひくわよ……」
妙子はまだ半分寝たままで、眠そうな目を擦りながら訊いた。
「お母さん、大丈夫なの……?」
「おじいちゃんとおばあちゃんが、昨日は泊まっていってくれて、今日も看てくれているの。良一君は……?」
「目を覚まさないの……、何処も悪いところがないのに、お父さんはお母さんと同じだって言ってたけど、担当の先生は疲労じゃないかって言ってくれた……」
妙子は床に座ったまま力なく呟いた。
「妙子、昨日はあまり寝てないでしょう。私が代わるから、一度家に帰りなさい。お父さんを連れて……」
父親は、病室にあるソファーで寝ていた。
「うん、……」
妙子は小さく力なくゆっくりと小首を傾げた。
紗恵子は妙子と父親が帰ると、ベッドの前の椅子に座り寝ている良一の手をとった。
新一、あなたでしょう。
わかっているのよ。
私にはあなたがわかるの……
もちろん姿は見えないけどね。
姿が見えればどんなにかいいのにね。
でも、見えないけど感じるの……
あなたはここにいるって……
最初は、私の思い込みで、寂しさからの空想かなって思っていたのよ。
でも、空想でもよかった。
新一が側にいてくれていると思うと寂しくなかったから……
でも、あなたが良一君に乗り移って私の部屋に来たとき、これは空想ではない。
新一は私の側にいるんだって思ったわ。
私の感じていたことに間違いはなかった。
それで、もし新一がいるのなら、あの朋子ちゃんは、本当のお母さんじゃーなかったのかなって思ったのよ。
中学生だったころのお母さん。
そのことをおじいちゃんもおばあちゃんも知っていた。
どうして中学生のお母さんがいたのかはわからないけど、新一ならできるのね。
なぜって、朋子ちゃんがいた間、新一を感じなくなったから……
あなた絶対に私が着替えているときとか、裸になっているとき、じっと見ているでしょう。
朋子ちゃんがいた間それがなかったの……
もう何処かに行っちゃったのかなて、本当に思ったのよ。
でも、お母さんが目を覚ましたとき、新一は側にいた。
だから今度は、同じことを良一君でやろうとしてるんじゃないの……
昨日一晩、新一は私の家に居なかった。
良一君の中にいるのね。
あなたは、良一君と入れ替わろうとしているんじゃーないの……?
でも、良一君は駄目よ。
良一君は妙子のものだから、妙子のものなんていうと良一君、怒るかもしれないわね。
でも、妙子の一番大事なものだから、妙子に返してあげて、妙子に私と同じ悲しみを味合わせたくないの……
あんな悲しいこと、私だけで十分だから。
それに、いいじゃない。
私と新一は、いつも一緒にいられるんでしょう。
姿形はなくても、私はあなたを感じられる。
新一は、いつも私が見えるんでしょう。
え、何、見るだけではつまらない。
良一君に乗り移って夜這いに来るくらいだから、よっぽど触りたかったのね。
でも新一、相変わらず頭が足りないようね。
どうせ乗り移るんだったら、周りに迷惑を掛けない猫か犬にしなさいよ。
でも犬や猫にしても迷惑な話だけど、少しは許してもらいましょう。
そしたら、裸になって一緒に抱いて寝てあげるから……
だから、良一君は妙子に返してあげて……、お願いだから……
紗恵子は、良一に懸命に話しかけた。
しかし、良一の反応は、やはり何もなかった。




