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54.もう一度、夢の中

(もう一度、夢の中に)


 その日は一日、昨日の夜の夢のことを考えていた。

 夢にしては、あの新一といい、女の子といい、普通はすぐにぼやけて忘れてしまうのが夢なのに、昨夜の夢はよく思い出せた。

 そして、あの風景……

 でも、まさかあの風景が妙ちゃんのお母さんの無意識の世界とは考えづらかった。

 しかし、なぜ今日の朝、居間で寝ていたのだろうと考えると不に落ちない。

 それに、常識では考えられないことは現実に身の回りで起こっている。

 良一は、学校から帰ると一番先に妙子の母親のところに行った。

 そして、そっと手で肩を触ってみた。

 手は、しっかりと肩を触っていた。

「なんともない……」

 でも、昨日はここに新一がいた。

 もしかすると新一がいたから無意識の世界にいけたのかもしれない。

 でも、そんなテレビのドラマの世界じゃあるまいし……

「今日の夜ご飯は何……?」

 妙子も帰ってきて、良一の横に並んで母親を見た。

「代わりはない……?」

「うん、よく寝ているよ……」

「よかった……」

「そうそう、お母さんの名前って何だっけ……?」

「朋子よ……、平凡でしょう。ラブレターでも書くの……?」

 その言葉で、良一は心臓が止まる思いがした。

「まさか、お母さんの実家って高原のような牧場やっているとかじゃないよね……」

「違うわよ。隣町の、やっぱりお医者さんよ」

「ほんと、やっぱり違うんだ……」

 良一は少し胸のつかえが降りた思いがした。

「亡くなったの……?」

「怒られるわよ……、殺しちゃうと……、おじいちゃんのところにもこのモニターいっているから……」

「え、生きているの……?」

「当たり前でしょう。おじいちゃんもおばあちゃんも元気で、まだ病院をやっているわよー」

「ほんと、……、病院やっているのー!」

「病院っと言っても内科の開業医だから小さいけどね……、おじいちゃん見てる……、妙子ですよ。お小遣い欲しいんですけど、たまにはケーキもって遊びに来てね……」

 妙子は、ベッドに付いているカメラに向かって手を振ってしゃべった。

「インターネットだから、アドレスとパスさえ合わせれば、いつでもどこでも、モニターできるのよ……」

「でも、今のって、大学病院にも送られているんじゃないの……?」

「あっそうだ!忘れてた……。ま、いいかー」

「そうなんだ……、やっぱり夢か……」

「え、おじいちゃんの死んだ夢でも見たの……?」

「いや、なんでもない。でも変な夢だった……」

「そう言えば、おじいちゃんのおじいちゃん、つまりひいお爺ちゃんは、獣医さんだったよ。それに自分でも小さな牧場やっていたんじゃなかったかな。私もあまり覚えてないけど、小さいとき遊びに行ったことがあるから……」

「うそ、それで健在なの?」

「こちらはもうお墓の中。牧場も売っちゃったし、でも最近まではあったけど、今はゴルフ場になったとか……」

「へー、少しはつながりがあるんだ……」

「ねーえ、ねーえ、どんな夢見たのー?」

「変な夢だった。前に猫の女の子にあっただろ。あのこと牧場にいたんだ。そこに子猫がいっぱいいて……」

「ほんと、そういえば、ひいおじいちゃんの牧場にも子猫じゃないけど猫がいっぱいいたわよ。猫牧場かと思うくらい」

「ほ、ほんとー!」

「それに、近くに海もあって、いい所だった……」

「そうなんだー!」

 妙子にもっとお母さんのことを訊きたかったが、このときはこれで話が途切れてしまった。


 その日の夜、みんなが寝静まってから、良一はそっと母親のベッドまで来た。

 期待していたが新一は出てこなかった。

 良一は昨日のことを思い出しながら、昼間と同じように母親の肩にそっと手を添えてみた。

 当然、手ごたえがあるはずなのに何も感じなかった。

 思わず手を上げて手のひらを確かめた。

 手のひらには何の異常もなかった。

 良一の胸は高鳴った。

 もしかすると、もしかするかもしれない。

 良一はもう一度、今度は目を凝らしながら、手のひらを肩と違う、お腹あたりを触って確かめようとそっと近づけた。

 見た目では、もう手のひらに服の感触が合ってもよさそうな感じだが、やはり何も感じない。

 手がぶるぶる震えているせいかもしれないと思い、なおも手のひらを彼女のお腹に押さえつけた。

 しかし、何も感じない。

 見ると手の指先が彼女の寝巻きの服の中に沈むように消えている。

 それでも手のひらには何も感じないのだ。

 手が消えている。

 良一がそう思った瞬間、体全体がふわりと浮いたと思ったその時、何もわからなくなった。


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