51.試験
(試験)
走り梅雨の冷たい雨の中、試験が始まった。
教室は、蛍光灯に照らされながらも薄暗く感じられた。
良一は今日、得意の英語の試験に向かっていた。
中学の英語など、とっくの昔に終えていたが、進行形と現在完了の使い方に迷ってしまった。
「あれ、なんだったかな?」
自分は英語が得意ということでテスト範囲の復習をしなかったことが仇になった。
数学は、妙子たちと勉強したところが出た。
国語は日ごろから漢字だけ書ければいいと思っていたのであまり勉強していない。
しなくてもできるのが国語だった。
理科社会はそれなりに勉強しなければ点は取れないので集中的に勉強した。
しかし、終わってみると何故か良一の意見と答案用紙の答えとが食い違っていた。
そして、恒例になっている上位10人の成績表が掲示板に張り出された。
良一はいつもなら文句なく一番であったが、今回はなんと下がりに下がって10番だった。
周りからどよめきの声がした。早速、達也が慰めに来た。
「やっぱり三年になると、みな必死になるから……。でも、良かった。幸恵ちゃんが一番で……」
慰めになっていない達也の顔を横目で見ながら、勉強しなければこんなものさ、と心の中で、鼻で笑って自分に言い聞かせていた。
その日の真夜中……
いつものように良一は、喉をうるおしに来たふりをして、紗恵子に会いに行った。
「今度のテストで主席から転落したんだってー」
良一は、いつものように紗恵子の前のテーブルに座りウーロン茶を飲んだ。
「聞いたんですかー? あまり勉強しなかったから……」
「家事労働の刑が負担になっているんじゃないの? 無理しなくていいのよ。受験生なんだから。頑張って勉強して、私のお母さんを治してくれるような立派な医者になって欲しいわー!」
紗恵子の目は良一を乗り越えて、遠く母親のベッドに向けられていた。
「なれるといいですけど……」
良一の心の中は重かった。
自分の家の時のように思いのまま勉強がしたい。
でも、ここでは雑念と雑用が多くて集中できない。
しかし、そう思いながらも自分自身に言い訳を言っていると良一は、その考えを捨てた。
勉強は、どこでもできる。
必要なのはやる気だけ、良一の自論だった。
しかし紗恵子の風呂上りの濡れた髪とパジャマの襟元から見える白い肌を見ていると、そんなことはどうでもいいと思えてきた。
集中できないのは、やはりこのせいなのかと改めて思った。
「頑張ってねー! 先は長いわ……」
紗恵子はそれだけ言うと、今日は早々と二階に上がって行った。




