47.ホスピスと子猫
(ホスピスと子猫)
「ねえ、どうするの……?」
看護士はめんどくさそうに……
「しょうがないでしょう。ここは病院だから、処分するしかないでしょう」
「処分ってどうするの……?」
「そういうところがあるのよ」
「どこにあるの……?」
「今から調べるのよ」
その話が、男の先生の耳に入ったのか奥から出てきて、
「いいんじゃないのかな。勉君がちゃんと面倒を見てくれるのなら……」
「先生……、そんなことできるわけないでしょう。ただでさえ衛生管理を厳しくするように言われているのに……、病原性大腸菌なんか出たらどうするんですか!」
「でも自分の体すら不自由している勉君が、その障害を越えて猫の世話をしていたということは、大変なリハビリではないですかね。ただ部屋で寝ているよりも、猫の世話でも何でも体を動かしてもらえる方が、彼のためですから。それに、ここは普通の病院じゃない。ホスピスなんだから……。患者さんの気持ちを第一に考えましょう」
「そこまで言うのでしたら、しばらく様子を見てもいいですけど……。ただし部屋の外には出さないことと、檻の中で飼うこと……」
それから何日かたって、彼が車椅子の上に猫の餌なのか大きな袋を三つも四つも積んで、やっぱり体をくねらせながら一生懸命に車椅子を押して廊下を通っていくのを見たよ。その顔はとても嬉しそうだった。
「難病って、大変な病気じゃないの?」
「僕もそう思ったよ。見るからに自分の体のことで精一杯のはずなのに、それでも子猫の世話をしようと思う彼の気持ちに驚いたよー!」
「それからどうしたの?」
幸恵が訊いた。
「勉君には何度か行き会ったけど、話はしなかった。僕もお母さんのことで頭がいっぱいだったし、今から思えば何か話しておけばよかったかなって思うけど……」
「お前は人見知りするからなー」
達也の冷やかしの声。
「でも、いい話ね……」
幸恵が、下を向いて指で目頭を押さえているようだった。
「じゃあ、いじめられていたわけじゃないのねー?」
良一は軽く頷いた。
理恵子は、少し良一のイメージが変った気がした。




