46.ホスピスと良一
(ホスピスと良一)
ホスピタスでは、良一は毎日天気予報を見て、今日も晴れることを願っていた。
晴れていれば母と緑に囲まれた芝生広場でお弁当を持って、果物も持って、一日過ごせる。
それが良一の一番の楽しみだった。
まだ、平凡な生活しか知らない達也や幸恵たちに、あの特別な環境を理解しろと言う方が無謀な事なのかも知れない。
でも…
「でも…、このホスピスにきて、毎日夢のような生活だったけど、入って三日目くらいのときかな、今も忘れられないけど、小学生四年か五年生くらいの凄い男の子に出会ったんだ…」
良一は、久々にたくさんの仲間に囲まれて少し気持ちが高ぶっていたのかもしれない。
それとも妙子との生活が良一の氷ついた心を少し溶かして、普通の十五歳の少年に戻していたのかもしれない。
「どんな子だったの?」
幸恵が訊いた。
「病院の庭に子猫が三匹捨てられていて、この男の子が部屋で隠れて飼っていたみたいなんだ。でも二、三日ですぐに見つかっちゃって病院中が大騒ぎになったんだ。それで、子猫は看護婦さんに連れて行かれて、男の子が心配そうに、どうするのって何度も言いながら後を追っていた」
「また猫…」
妙子が科学館で出会った女の子を思い出して、つい叫んでしまった。
良一もそのことがわかったのか妙子に微笑みで返した。
「でもしょうがないわね。病院で猫を飼うわけにはいかないしね」
理恵子が同情するように言った。
「その男の子は障害を持っていて、それが病気のせいなのかどうなのかは訊かなかったけど、でも一人で入院しているようだから多分そうなんだと思う。松葉杖を突きながら、それでも足をくねらせながらも全身の力を使って追っかけていた。今にも転びそうなくらい、ぎこちなく。それでも一生懸命叫びながら追っかけていた。多分、難病なんだと思う。ぼくも気になって、遠くから見ていたんだけど、看護士の詰め所まで追ってきたその子は、まだ諦めがつかないのか、看護士のおばさんに訊いていた」
静かな良一の家で、今日は温かな風が、花の香りと共に縁側に面した座敷にも入ってきた。
良一がクラスの誰かと、こんなに親しく話しているのを妙子は初めて見たと思っていた。




