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4.亜希子のいない家

(亜希子のいない家)


 そうだったな。亜希子が死んで、お前は一週間も満足に食事もしないで塞込んだままだった。

 食事といっても出前の寿司や、コンビニの弁当くらいだったけれど……

 私もとても食べる気分になれなかったよ。

 だから、おまえの気持ちは良くわかっていたよ。

 このまま何も食べずに死んでしまってもいいとすら思っていたくらいだ。


 でも、あの時……

「お父さん、何やっているの?」


「ご飯を炊こうと思ってな……。コンビニの弁当ばかりだったから、飽いたというか、味がきついというか、何かさっぱりしたものが食べたくなった。白いご飯と味噌汁でも作ろうと思って……」


「お父さん、作ったことあるの?」


「あるさー、ご飯ぐらい作れなくてどうする。一人前の男というものは衣食住なんでもできて始めて一人前だっ!」

 とは言ったものの炊き方などすっかり忘れてしまっていた。

 お米と水と火にかけることくらいはわかっていたが、いざ作るとなると、お米と水の分量がわからない。

 確かお米の量より水の方が多いことは、なんとなく覚えていたが……


「それじゃ、水が多すぎるよ。それに水が汚いよ。お米、磨いだの?」


 良一のお釜を覗き込む顔が一瞬大人に見えたよ。

 まだ小学校三年にしかならないおまえが……


「磨ぐってなー、包丁を磨ぐんじゃないんだからな。二回三回濯げばいいんだよー!」


「おいしいご飯が食べたかったら、お米のぬかは、しっかり落とさないとだめだよ。それじゃ黄色くなっちゃうよー!」


 お前は私からお釜を取り上げてご飯を炊いてくれたな。

 そして味噌汁も作ってくれた。亜希子と同じ味がしたよ。


 それを切っかけにして、今に至るまで、お前は亜希子が乗り移ったように、毎日家事をせっせとこなして来たんだな。


 今でも時々亜希子がいるような錯覚に陥るよ。


 お前はいつも、あーちゃんを思って、あーちゃんの代わりに、この家を守ってきたんだな。






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