39.男なんて
(男なんて)
「でも、紗恵子は自宅通勤でしょうー。彼となんか暮らせないじゃん」
律子は疑り深く紗恵子を見た。
「でもいるんだなー、これが……」
紗恵子が、じらすように笑った。
「まさか、ペットでも飼いだしたの?」
「違うわよ。ちゃんとした人間よ。それも理想の男性……」
「またまた、夢でも見てるんじゃないの?」
「ほんとよー! 可愛くって、やさしくって、おまけに家事万能よ。私なんか家に帰っても何にもすることがないんだから。後やることとしたら子作りだけねー」
「ちょっと、なにそれ本当なのー? 子作りしてるのー?」
「子作りねー、今考えているんだけど。ちょっと回りの目もあるから。結婚しちゃおっかなっていう感じ……」
「うそ、私を一人にしないでよー!」
「知るかっ! あなたは、あそこの坊ちゃんたちを捕まえて来なさい!」
紗恵子は遠くの席に見える今日の合コン相手の男性陣を指した。
「あの子達ねー、本当にお坊ちゃんって感じねー」
「でも、もう大学出てるんでしょう。いい年じゃないの?」
「同じ年……」
「うそっ! 見えない……」
「少しは興味が出た。紗恵子は同級生好みだから……」
「バカ、そんなんじゃないわよ。でもあれじゃ大変よ。まだオムツがいるんじゃないの?」
「そうか、紗恵子の目にはまだ子供に見えましたか。最近、あそこの様な、大人の子ども系の男子がもてるのよ!」
「やっぱり子供なんだ……」
「おばさん、それを言っちゃおしまいよ。母性本能をくすぐられない?」
「いやよ。恋をする前にオムツを返るのは、お坊ちゃまたちのママ代わりにされるのが落ちよ」
「それって、男の面倒をみるってこと、みてあげなさいよ。手取り足取り……、あそこの坊ちゃんたちなら、今から調教しだいでは理想の男性に仕立てることが出来そうじゃない。素材はぴか一よ!」
「そうかな、余計に乳離れできそうにない予感がするけど。でも、律子は、そういうタイプね。私の母もよくお父さんの面倒をみていたな。自分じゃあ箸ひとつ動かせないっていう人だったから。その上女医で仕事も一人前以上にやって名医だとか言われて、ますます仕事して、あれじゃ頭の血管が切れても不思議じゃないわね。可哀想なお母さん」
「もう、そんな涙涙のお話は、そっちに置いといて、たまには陽気に男遊びをしましょう」
「私は十分楽しくやってますって……」
「あっそうだった。子作りか……」
「後は、あなただけよ」
「今度あなたの彼氏に会わせてね」
「家にいるからいつでもいらっしゃい。きっと美味しいコーヒーを入れてくれるわよ」
「じゃあ、もう一押ししてくっかなー」
星のまたたく夜……
月明かりもなく真っ暗な森の小道で落としてしまった金の指輪を探している。
何も見えない。
何処を探していいのかわからない。
ただしゃがみこみ膝を着き、両手をいっぱいに伸ばして手探りで探している。
落ち葉をかき分け、ときより掴んでしまった小石を投げ捨てて、
どうしても見つけなければいけないの!
それは私の一番大切なものだから……




