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37.遠い記憶
(遠い記憶)
「紗恵子、なに一人で飲んでいるのよ……」
カウンターの端でつまらなそうにグラスを傾けていると、この詰まらない状況を作り出した張本人、律子がやってきた。
「ねえ、もう帰っちゃだめかな?」
「いい男はいなかったの?」
「まあね……」
「あんまり選り好みしてないで、適当に捕まえて、楽しくやればいいのよ。紗恵子は考えすぎなのよ」
そう言って私の隣に座ったのは、親友の山崎律子だ。
「ご高説もっともで……」
「まさか、まだその死んだ彼のことを思っているの?」
「え、う……、どうかな……」
私は少し酔っているのか、けだるそうな眼差しで、微笑みながら律子を見た。
「何よその笑いは……」
「……、今ねー、ちょっといいことがあるの」
「また仕事の話じゃないでしょうねー」
「違うわよー。家にねー、彼がいるの……」
「うそっ! そんなこと訊いてない。何処までいたのよ?」
「えー、……」




