30.家事労働の刑
(家事労働の刑)
良一は朝食の後片付けを終えてから、自分の荷物を持って妙子の部屋の前まで来た。
「じゃあ、僕、帰るから、いろいろありがとうー! あと戸締りしておいたほうがいいよ……」
良一が階段を降りかけたとき、部屋のドアが開き、妙子が飛び出してきた。
「ちょっと、逃げるつもりなの!」
「え、逃げるわけでもないけど……」
「悪いことをしたとは思ってないのねー!」
「思っているけど……」
「それなら、どうして帰るのよっ!」
「僕が帰らないと、湯川さんが部屋から出られないと思って……」
「そんなことを言っているんじゃないわっ! 悪いことをしたと思っているのなら、どうやって罪を償うつもりか訊いているのよ?」
「謝ったよ……」
「謝って済むんだったら、男はみんな痴漢の常習犯よ! 今日から1ヶ月間、罪滅ぼしに住み込みで家事一切をやること。もちろん、洗濯もトイレ掃除みんなよ! わかった!」
「でも、僕が長居をすればするほど、みんなに迷惑がかかるよ……」
「その時はその時で、あなたに責任を取ってもらうわ!」
「でも、住み込みするほど荷物持って来てないし……」
「取ってくればいいでしょう!」
「学校はどうするの?」
「行くに決まっているでしょうー!」
「一緒に、……?」
「できるわけないでしょうー! 私が先に行くから、あなたは後よー!」
「クラスのみんなにばれたらどうするの?」
「その時は、その時よ! 取りあえず、洗濯物を干しといてよね……。さあ、お腹すいた!」
妙子は、言いたいことを言うと階段の途中で戸惑っている良一を抜いて、食卓に向かった。
お昼に紗恵子が帰ってきて、洗濯物が綺麗に干してあるところを見て、良一がやったのだと思った。
「お帰りなさいー!」
最初に出迎えたのも良一だった。
「スパゲティー作ったのですが、お口に合うかどうか?」
「良一君が作ってくれたの? もしかしてお洗濯も?」
「そうですが……」
そこに、ピアノを弾いていた妙子が現れた。
「私がやらせたのよ。昨日の罰として1ヶ月間の我が家での家事奉仕の刑で許すことにしたの」
「本当、それはありがたいわね。なんか妙子に利用されたといった感じだけど……。まあ妙子より良一君の方が役に立ちそうだからいいわ!」
「…はあ、よろしくお願いしますー!」
良一は、これからもお世話になると思い深々と頭を下げて挨拶した。
「じゃ、もう一つ付け加えて、今度の水曜日が私お休みだから、一度脳の検査を受けに病院に来ること。予約は取っておくから、費用はもちろんいらないからね……」
良一は返事を渋った。
「大丈夫よ。私が付き添いで連れて行くから……」
妙子が、嬉しそうに応えた。




