28.罪と罰
(罪と罰)
その朝、良一は目を覚ますと、はっとした。
確か紗恵子の部屋に居たはずである。
その後の記憶がない。不安にかられながらも下に降りていった。
もうすでに紗恵子が朝食の仕度をしていた。
良一は紗恵子の後ろから声をかけた。
「昨日の夜はすみません。あれからの記憶がないのですが、僕、変なことしませんでしたか?」
紗恵子は、突然振り向き……
「えっ! 覚えてないの?」
「……、はーあ……」
「ひどいわっ! あんなことまでしておいて覚えてないなんて……」
「え、……」
良一は、驚きとともに紗恵子の顔を真っ直ぐ見られなかった。
「どこまで覚えているの……?」
紗恵子は、恥ずかしそうに良一に背を向けて再びサンドイッチを作り出した。
良一も恥ずかしい気持ちを抑えながら、雨だれのように話し出した。
「胸をさわったところまでは、何とか……。それと、抱きついたような……?」
「それだけなの……、それからパジャマを引き裂いて、あんなことまで……。もう他人じゃないのよー!」
「え、え……」
良一は、何でそんな凄いことをしたのに覚えていなかったのかたと悔しがった。
「う、そ、よ。でも変ね、夢遊病はそんなにはっきり覚えてないものなんだけど……。良一君の場合は特殊なケースかもね。教授が喜びそうね」
良一は詰った息をゆっくり吐きながら、紗恵子が昨夜の出来事を怒っていない様子に安堵した。
それから気持ちも軽く、誰に言われたわけでもなく、朝食の準備を手伝い始めた。
「前にも、昨日みたいなことはあったの……」
「多分、初めてだと思いますが、一人だったから、寝ている間、何をしていたかわかりませんが……」
「それもそうね。一度、病院で診てもらったほうがいいかもね……」
良一は、それには何も応えずサンドイッチの乗った皿を食卓に置いた。
「永江新一って知っていますか?」
紗恵子の手が止まった。そして、またなにくわぬ様子でサンドイッチを切り始めた。




