24.金縛り
(金縛り)
良一は再び自分の部屋に戻ると、紗恵子の生々しい湯上り姿を見たせいなのか、その夜はなかなか眠れず、昨日の出来事を思い出していた。
そして、紗恵子のことも……
突然、良一の上にのしかかってくる誰かに気が付いた。
良一は思わず払いのけようと布団から起き上がろうとした。
しかし体が動かない。どうしたんだ……?
「これが金縛り、なれない環境で心と体のバランスが崩れているのか……?」
良一は、金縛りに逆らわずに体の力を抜いた。
「良一、良一、江崎良一、……」
頭の中で誰かが呼んでいる。
「誰……?」
思わず良一は、心の中で叫んだ。
「良一、君は生きている。体が温かい……」
「これは夢なんだ。ちょっと疲れていたかな……」
良一は今の状況を自分なりに説明を付けた。
そして、夢だと思うと心が軽くなり、体が宙に浮いているような心地よい気分を味わうことにした。
「僕は生きているよ。君は死んでいるのか?」
「そう、僕は死んでしまった……」
「死ぬってどういうこと?」
「君は頭を柱とか何か出っ張りのようなものにぶつけたことはないかい? ぶつけた瞬間、鈍い音と共に目の前が真っ暗になって、ジーンとする痛みと共にまた回りが見えてくる。それとこぶもだ……。でも、あの時、頭がつぶれていく鈍い音と暗闇は覚えているけど、あとの痛みはなかったよ。生きることがそれぞれ違うように、死ぬときもそれぞれ違うと思うけど……」
「でも、人は死ぬと天国とか地獄とか極楽とかに行くんじゃないの?」
「君は生まれた時のことを覚えているかい?」
「覚えていないけど……」
「じゃあ、眠る瞬間は?」
「眠くなるのは分かるけど眠る瞬間は意識できないよ……」
「もちろん、寝ている自分なんて見られないよね。それと同じで、多分、死ぬ瞬間も思い出せないと思うよ」
「つまり、どういうこと?」
「つまり、生も死も、起きるも眠るも同じこと。毎日朝起きる時が生まれた時、夜眠る時が死ぬ時と言うように考えるとしたら、毎日毎日生と死を繰り返している。そして、歳を取りよぼよぼの爺さんになって死んでゆき、またどこかで産声を上げる。そして年と共に死ぬ。人は本質的な魂というか命というものは何も変わっていないんじゃないかと僕は思うよ……」
「何かわかるような気がする。でも、そうすると君の存在は何なの?」
「僕の存在……。僕は、鈍い音と共に目の前が真っ暗になってから、気がつくと僕は紗恵子の横に立っていた。それで紗恵子と声を掛けても返事がない。よくよく自分を見たときに何もなかった。そして何も感じない。ただの心だけになってしまっていた。紗恵子を思う心だけになってしまった。」
「だから……?」
「だから僕は、本当は死んではいないんじゃないかと思う。でも生きてもいない。でも僕は目が覚めるように生まれた……」
「だから、何……?」




