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17.謎の少年、良一

(謎の少年、良一)


 校庭の桜の花も散って、葉だけが目立つようになったころ、良一の様子は相変わらず机から離れず、友達と話す姿を目にすることはなかった。


 それでも、達也だけが時々良一の席までやってきて一人で騒いで帰っていった。


 妙子は、わざと無視しながらも、他の生徒とは違う人間離れした存在の良一に歯がゆさと、口惜しさがむらむらと沸いてきて、要らぬお節介で口出ししてしまう悪い虫が妙子の胸の中を生えずり回っていた。


 そんな妙子にも新しい仲間が出来て、夜ごと日ごと集まってきていた。


 そこで妙子は両隣にいた幸恵と聡子の肩を抱いて小さく身をかがめて小声で話し出した。


「ねえ、ちょっと聞きたいんだけど、江崎君ってどんな子なの? 誰か一緒のクラスになった人いない?」

「えーえ、妙子…、あんなタイプの子が好みなの?」

 妙子の正面にいた理恵子が同じように小声で身をかがめながら迫ってきた。


 その光景はスポーツでいう円陣だ。


「ま、まっさか? でも、何か変じゃない! 机から離れないし、話もしないから……」

 妙子はわざと興味本位、推理探偵になったように、みんなの話題に乗せた。


「私、小3の時同じクラスだったわよ。不登校で二学期ごろから教室に出てくるようになったけど、今と変わらないわよ。みんなにいじめられていたんじゃないかしら?」

 そう言ったのは理恵子だった。


「はっきりいって、いじめられるタイプだし、いてもいなくてもいいって感じー!」

 聡子が小さい声をさらに小さくして言った。


「そんなに変な子じゃないわよー! 私、去年まで一緒のクラスだったし、一緒の班でやっていたから、本当は凄くやさしい子で、よく気がつくし、頭もいいよー」


 学級委員で、良一と同じ班で席も隣の幸恵が言った。


「あれ、幸恵も隠れファンって感じ?」

「そうじゃないけど、見た目ほど変な人ではないってこと。妙子の知り合いじゃないの?」


「ち、違うわよ。全然知らない人、だから訊いているんじゃないー!」


「でも始業式の後、廊下で話していたから……」


「えっ! 本当っ!」

 円陣を組んでいた女子は、思わず大きな声を上げてのけぞった。


「あ、あは、幸恵ちゃん目ざとい……、そんなとこまで見てたの。もしかして本当に江崎君が好きだとか?」

 妙子は慌てて話を幸恵の恋愛に摩り替えようとした。


「そうじゃないけど、江崎君に話しかける人なんて珍しいもの……」


「でも、幸恵ちゃんは、達也君よね?」

 小夜子が冷やかした。


「あ、ごめん。私、お笑い系はだめなのよ。何かバカにされてるようで、全然笑えないの」


「厳しい……! じゃやっぱり江崎君かな?」


 聡子の冷やかしには否定の言葉が出てこなかったが、それより先に幸恵の質問が飛んだ。


「妙子はどうなのよ……?」

 再び妙子に振られた。


「いえ、違うのよ秀才だと聞いたから、どこの塾に行っているのかなーと思って……」


「私も聞いたわよ。どこにも行ってないんですって。家で予習復習と問題集だけであの成績よ。凄いでしょう!」


「あ、ははは、幸恵ちゃん、よく知っているわねー」


「去年も同じ班だったから。何でも頼んだことは、いやとは言わずにやってくれるの。他の男子なんかみんな逃げてしまうことでも……、頼りになるわ」


「幸恵ちゃん、それで三年になっても江崎君と達也を班に入れたのね」


「達也君は余分だけどね。うるさく言うから仕方なく……」


「幸恵ちゃんって、おとなしそうな顔して、凄い計算高いのね」


「それ、褒めているの……?」


「それより、妙子はどんなタイプが好きなのよ?」


「……、妙子はやっぱりスポーツタイプの男よねー」


「ちょっと、それは私がおてんばだからとでも言いたいわけ!」


「じゃ、やっぱり江崎君が好きなんだ?」


「だから、違うって! もう、いいわー!」


 妙子が進展しない会話に苛立ちを見せたとき始業のチャイムがなった。


 円陣の仲間がそれぞれ席に戻り始めたとき、幸恵だけが妙子に寄り添い耳打ちした。


「妙ちゃん、江崎君って、本当、全然変な人ではないわよー!」

 幸恵が妙子に進めるように言った。


「幸恵ちゃんが言うなら間違いないわね。だけど、もう少し何とかならないかしら……」


「妙ちゃんには合わないわよ!」


「幸恵ちゃん、そういう意味でいったんじゃないけど、でもそれ意味深な言い方……」


「違うわよ……」


 幸恵は、恥ずかしそうに嬉しそうに笑って席に戻っていった。







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