第97話 万能書物『オルシンジテン』を人型にモデルチェンジした!
「オルシンジテン、これからあなたを人の形に再形成します」
「はい」
創成魔法で、表面はフィギュアをイメージ、肌の質感は人と同じくらいの弾力に。関節は関節人形をイメージ、容姿は執事……と思ったけど、今までのしゃべり方からすると女性の方が合いそうだ。メイドをイメージ、服装はリナさんのウォルタ邸別邸にいたメイド服を参考にイメージする。
本の姿のオルシンジテンが、メイド姿の女の子に変化した。
この女の子……生前の私に似てる気がするな……ちょっと若いけど。
髪をポニーテールにして、眼鏡を作ってかけてみた。
そっくりだ! 鏡で若い頃の私を見ているみたい。無意識にこの形を再現したってことは、まだ生前に未練があるのかな……
眼鏡をかけると生前の私にそっくり過ぎるから外した。ポニーテールもほどいた。
頬っぺたを押さえてみる。
うんうん、ちゃんと人みたいな肌だ、これならそうそう人形と気付かれることもないだろう。ただ……フィギュアをイメージしたためか、物凄く綺麗な肌をしているけど。
一応ヒトとして振舞わせるなら全身調べておいた方が良いかしら?
「オルシンジテン、服脱いで下着姿になって」
「はい」
見た目が生前の私だから、自分の身体調べるみたいでちょっと嫌だな……
一応肌の各部位を触って確認する。
身体の各部分柔らかい。特にお腹の部分はちゃんと凹む。対して胸骨や鎖骨がある部分はちゃんと硬い。
腕、手、お腹、胸、背中、腰、お尻、脚、足先、特に手先と足先は細かい部分だし、常に露出しているから念入りに調べておく。
大丈夫、見た目は完全に人の身体だ、指紋まである。この指紋もしかして生前の私のかしら?
「口開けて」
「はい」
歯も舌もちゃんとある。
唾液は……無いみたいだけど、口の中なんて見られても一瞬のことだから特に問題無いだろう。
「目も見せて」
「はい」
「ちょっと光を当てるね」
光を当てたら瞳孔が収縮した。これ完全に生物にしか見えないわ。光の入る量を自動で調節してるってところかな。
「………………」
胸とか股間周りとかどうなってるのか気になるけど…………調べるのはちょっと抵抗がある。
とは言え、胸は不意に見られる可能性があるから調べておくか。
「ちょっとブラ下げて」
「はい」
乳首は……ちゃんとある。
下は……お風呂入る機会が無ければとりあえずこのままでも良いか。そんな機会があった時に考えよう。人間の女の子をイメージして作ったから、それほど大きく間違ってることもないだろう。
「一応聞くんだけど、あなた排泄器官とかある?」
「ありません。内臓もありません」
じゃあ、汚れることも無いだろうし調べなくても良いや。
「骨や肉はあるの?」
「それはあります。骨が無いと空洞が多過ぎて形を保っていることができません。肉に当たる部分は肉と感触が似ている『人工肉もどき』で作られています。ただ、腐敗はしませんし、衝撃も吸収してくれるのでよほど強力な攻撃を喰らわない限りは破損もしないと思われます」
なに、その猟奇的な名前の物質……人工肉……もどき?
フッととあるゲームのトラウマ工場の缶詰を思い浮かべてしまった……
人間界で作られたことがない物質だから、こんな変な名前を急遽宛てたって感じかな?
「脳に当たる器官はあるの?」
「ありません。思考能力、演算能力、記憶能力はオルシンジテンから引き継いでおり、このボディ自体が記憶媒体です。ですので壊されても、一部分さえ残っていれば元の状態に復元可能です」
それ凄いな。
「活動エネルギーは?」
「魔力です。心臓に当たる場所に魔力貯蔵機関が存在しており、アルトラ様の魔力によって動いています。また、脳に当たる場所に魔力貯蔵の予備機関があります。心臓部分の方に魔力が無くなった場合に、脳部分から補給して活動できます。二ヶ所同時に壊されなければ、片方が壊れても修復して復活できます。ただし片方が壊された際、もう片方を全力で守るため、ある程度修復されるまで機能が停止してしまいます。生物で言うところの『気絶』という状態でしょうか」
何か私が全くイメージしてない形に作り替わっていくんだけど……これもオルシンジテンが自身で最適化して作ってるのかな?
どんどん私の知らないナニカになっていく気がする……
「わかった、服着て良いよ」
「はい」
思考能力や演算能力、行動原理は今までのをベースに、私をやんわりと引き立ててくれるような命令を組み込む。
戦闘能力はそこそこ欲しい。
私の今ある魔力の八割から九割ほどを注ぎ込む。
ただし時間魔法と空間魔法を使用可能魔法から除外。この二つは付与するには危険すぎる。それ以外の十属性の魔法を使用可能に。
いや、時間魔法と空間魔法はもしものためにオンオフできるようにしておくか。時間魔法と空間魔法はデフォルト設定ではオフで。オルシンジテン自身が必要と判断した場合に限り解除できるようにしておこう。
あ、戦闘能力にも制限を付けておこう。通常は四分の一の能力で稼働するようにし、対応し切れない場合は、半分の力、全力と段階的なリミッター解除を容認。
さっき聞いた話に依れば、よほど強力な攻撃を受けなければ破損することはないと言ってたけど、念のためバリア系の魔法をこれでもかと付与する。
これでもうかなりの戦闘能力を有するはずだ。
戦闘可能条件と相手にどの程度の力で対応するかは、
・この村に被害が及びそうな時、村民にただちに命の危機があると判断された時
(ただし内輪の諍いは除く)。
・仮に村民同士の諍いで殺人に発展しそうなバイオリズムを感知した場合に
制止に入る。
・相手の能力を見定めて、相手を制圧できる程度、戦意を喪失させる程度に
抑えて攻撃する。
戦意喪失しない場合は気絶も容認。その後捕縛。
オルシンジテンには相手の能力が見えてるからこれも可能だろう。
・決して殺すことはせず、生殺与奪の権利は私に委ねる。
・『村民に命の危機』の中にはオルシンジテン自身も含める。
ただし守るべき優先順位は『村民 (子供)≧村民 (女)≧村民 (男)>
村民 (戦士)>>オルシンジテン自身≧私』の順。
私はオルシンジテン以上に頑丈だから優先順位は最後でも良いだろう。
戦士の基準は、オルシンジテンの判断に委ねる
これも多分人工知能が最適化してくれるはず
まだ正式に村民ってわけではないけど、フレアハルトたちも組み込んでおくか。レッドドラゴン三人とアクアリヴィアの騎士二人を『村民 (戦士)』に、リディアを『村民 (子供)』に、ドワーフ四人を『村民 (男)』、ヤポーニャさんを『村民 (女)』にそれぞれ組み込んだ。
ああ、もう一つ、無いに越したことはないけど、もし村から離反者・裏切者が現れた場合は『守るべき対象から除外』、と。
組み込む命令はこんなところか。
あと、メイドだからご飯の支度、掃除、洗濯もやってもらおうか。
そういえば、オルシンジテンって寝ることがあるのかな?
「オルシンジテン、あなた寝ることってあるの?」
「ありません。疲れることがないため、睡眠は必要ありません」
人型に形成しても疲れることが無いなら、睡眠のことを考えなくても良いんだけど……私やリディアが寝ている間に横で作業されるのもうるさいよね。
私が寝てる間は休眠状態になる機能を組み込む。現在は私の魔力だけで活動してるらしいけど、休眠状態の間に大気中の魔素から魔力を取り込めるように改良しておこう。
おっと、朝の食事とか目覚ましとかはお願いしたいから、時間で目覚めるように設定しておこう。五時くらいで良いかな?
また、魔力残量が極端に少ない場合も休眠状態になるようにする。ただし、優先順位で村人に命の危機がある場合は、停止する可能性があったとしても命を守ることを優先するように命令を組み込む。
これで私からしばらく離れても機能停止することは無いでしょう。
あ、人型にするとなると『自然漏出する魔力を隠匿する機能』は、消しておいた方が良いかもしれない。
フレアハルトやリディアなら一目見ただけで、『あり得ない生物』と見破ってしまう可能性が高い。
生物なら魔力は少しずつ漏れ出すのが普通だから。
というわけで削除。
とりあえずこんなところかな。
いや、ちょっと待てよ? ヒトとして振舞わせるなら食べることができないとおかしいのでは?
う~ん、どうするか……消化器系は作ることは出来ると思うけど、生物の領域だから多分機能しない。
「どうかしましたか?」
「うん……全く物を食べないのでは生物らしくないから、そこのところどうしようかなと思って……」
「では、こういうのはどうでしょうか? 食道に相当する場所辺りに【亜空間収納ポケット】の入り口を設置するというのは」
「ああ、オルシンジテンが食べたものを【亜空間収納ポケット】内に直接入るようにするってことね!」
「【亜空間収納ポケット】に入った食べ物は、後でアルトラ様なり、リディア様なりでお召し上がりください」
それは良い考えかも!
「その際、口内、咽頭咽喉部分は防汚処理をお願いします」
「OK! その方法で行こう!」
創成魔法で、食道付近に【亜空間収納ポケット】の入り口を設置し、食べた物が【亜空間収納ポケット】内に入るようにした。同時に口内、咽頭咽喉部分を防汚処理。
これでご飯が食べられる人形の完成だ!
オルシンジテンが食べた物は、後で我が家で美味しくいただこう!
よし、オルシンジテンも人型に出来たし、リディアを迎えに行くか。