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第94話 この村、文字読める人がおらん……

「リーヴァント、ただいま!」

「あ、おかえりなさいアルトラ様。水の国はいかがでしたか?」

「水路が沢山走ってる街でね、凄く綺麗で発展したところだったよ。この村もあれを目指したいと思う」

「それは良うございましたね」

「いろいろ買って来たから、この集落もまた一段階発展するよ!」

「それでドワーフにアドバイスをもらえましたか?」

「それが……何と! アドバイスだけじゃなくて、付いて来てくれたの! 今川作りの作業をやってくれてるよ!」

「おお! それは大収穫でしたね!」

「これから買って来た物をそれぞれの機関に配りに行ってくるよ! それからこれお土産買って来たから、みんなで食べて」

「ありがとうございます! いただきます!」


 これで一応報告終わり。次へ行こう。


   ◇


 そのまま避難所内の食堂へ。

 当初の予定通り、ハンバームちゃんのところに行き、食材を卸ろす。


「こ、こんなにあるんですか? 見たことないものばかりで目移りしてしまいますね!」


 まだこの集落に無いものばかり買って来たから、目移りするのも無理もない。


「あ、でもこのままだと腐ってしまうものもありそうなので、ここに出すのは少しの量にして、残りはアルトラ様が保管しておいてもらえますか?」

「それで、一つ作ってもらいたいものがあるんだけど」


 さっき印刷したショートケーキのレシピを渡す。


「あ、これが噂の紙というものですね!」


 ……

 …………

 ………………

 しばらく黙ってしまった……しかも何か困ったような難しい顔をしている……何か不都合があったかな?


「………………アルトラ様、すみません、これ何て書いてあるんですか?」

「あ、ああ……『ショートケーキ』って書いてあるんだけど……」


 そうだった! この村の人たち文字読めないんだった!

 そこから教えてないといけないのか……どうしよう?

 以前文字について話題に出たことがあったけど……結局その後、何も不都合が無かったからうやむやの状態だった。

 あまり気にしてなかったけど、やっぱり文字読めないと不便ね……

 今までは勝手に色々やってくれて勝手に村が発展してたから問題無かったけど、トップダウンにしろボトムアップにしろ、今後組織が体系化してきたら何かを伝えるのに文字は絶対に必要だ。

 簡単な書き置きすら出来ないのでは、ずっと対面して口頭で伝えないといけないことになる。本人がいない場合、間に誰か挟むと、伝言ゲームみたいに、本人に伝わった頃には全然別のものになってる可能性があるし。


 勉強会を開いて、ひらがなだけでも覚えてもらうしかないか。魔界の文字も併せて覚えてもらいたいところだけど、二つ同時はちょっと難しいかも。

 いや、知性は引き上げてあるし、もしかしたら二つ同時も可能かもしれない。

 魔界の文字に関しては、トーマスやリッチは騎士だったから教養がありそうだから、彼らにも手伝ってもらうことにしよう。あとレッドドラゴンも多分読めるだろうから、彼らにもお願いしよう。


 少なくとも各機関のトップくらいは文字を読めるようにしてもらわないと困る。集落自体の運営を円滑に回すことができない。

 早いうちに夜の時間帯にでも勉強会を催そう。


「それで、どんな料理なんですか?」

「スポンジに生クリームを塗って、イチゴを上に乗っけたお菓子なんだけど」

「スポンジ? 生クリーム? イチゴ以外が全く想像付きません……」


 やっぱり写真付きのレシピを渡すべきだったかな……


 レシピの裏面に簡単にショートケーキの絵を描いてみた。


「へぇ~、これがショートケーキ。最初から三角の形してるんですか?」

「いや、元のはホール状って言って円形になってる。裏に描いた絵はそれは切り分けた時の断面を描いたもの」

「食感とかはどうなんですか?」

「スポンジの部分がフワフワで甘いの。生クリームは舌の上で溶けるような感じでもっと甘い」

「なるほどなるほど、じゃあ後で作ってみます」


 私が試しに作ってみた方が早いかな?

 でも、お菓子作りは結構手間がかかるから作ったことはほぼ無い。

 再現してくれたものに口出しして調整してもらおう。


「あ、あとこれ、水の国(アクアリヴィア)のお土産。みんなで食べて」


 お土産を渡して食堂を後にした。


   ◇


 次、畑に行って、メイフィーに種苗(しゅびょう)と稲と麦を卸す。水環境が整っていないから残念ながら稲と麦はもうしばらく出番は無さそうだけど……


「種!? こんなにあるんですか!?」

「うん、よく考えたら無理に離れた川まで行って、栽培するもの探さなくても良いんだ。魔物も居て危険だし。他国に行く良い機会があったから、ここで栽培するものを沢山買って来た」


 ブランド名が付いていないノーブランドの種苗(しゅびょう)だけを買って来た。著作権の問題とかがこの世界にあるかどうか知らないけど、人が丹精込めて美味しく作り上げた『芸術品(のうさくもつ)』を、別のところで他人が勝手に栽培するのはやっぱり良くない。


「お米と麦も買って来たから、これからご飯やパンが食べられるよ」

「ご飯とかパンがまだ何なのかわかりませんけど、楽しみにしておきます」

「とりあえず食材の第一弾は避難所の食堂に卸したから、そこで作ってもらおうと思ってる。徐々に家庭にも浸透させていく予定」

「畑も拡張しないといけませんね!」

「もうそろそろこの村の外に畑を作ることも考えた方が良いかもしれないね」

「流石にこの大きさの畑では賄えなくなってきますしね。人手ももう少し欲しいところです。出来ることなら土魔術師と樹魔術師が欲しいですね」

「紙も買って来たから、募集でもしてみる? 避難所に掲示板を設ける予定だからそこに貼り出しておけば、興味持った人が来てくれるかもしれない」

「募集……ですか……絵とかで伝えるんですかね? 私まだ文字書けませんけど……あとこの村、文字読める人いるんでしょうか? 『アルトラ邸』と『トロル村』はゼロ距離ドアに刻んであるので何となく読めるようになりましたけど」


 また、ここでも文字の問題か!!

 これはもう文字の修得は必修にしなきゃいけないな!


「今、ハンバームちゃんのところに食材卸してきて、ここに来てメイフィーに会って、両方で文字が読めない話題が出た」

「そ、それで?」

「近いうちに勉強会をやろうと思う」

「うわぁ……私勉強って苦手なんですよね~、この村に生まれて一度だって勉強したことなかったんで」


 そうでしょうね……知性上昇前のあの集落の様子見れば、多分誰一人として勉強してた人はいなかったんじゃないかしら? その日暮らしという感じで、「蓄え? なにそれおいしいの?」状態だったし。

 かろうじて、リーヴァントだけが、他の村人と比べて、ほんのすこ~~~しだけ頭良いと思ったけど。


「これはもう決定事項とします! 各機関トップくらいは参加してもらって、文字を覚えてもらいます!」

「は~い……」

「じゃあ、私は次へ行くから。あ、あとこれを。みんなで食べて」


 お土産を渡して縫製所へ。


   ◇


 縫製所にやって来た。


 服飾に関係したものを買って来たから、それを渡す。

 布、生地などの他に、針、ハサミ、メジャーに定規に、あと私には使い方がよくわからないものまで。

 デザイン用に紙やペン、鉛筆、消しゴムも渡す。

 あと、ミシン数台。ただ、これは電気が必要なんだけど……この村はまだ電気が通ってないからまた私の出番かな。


「こんなに頂けるんですか!?」

「使い方については、私にはわからないものも多いから試行錯誤して」


 もう丸投げ。だってわからないものはわからないからね! そこは自分で独学で勉強していってもらうのが一番ためになる……と思う。

 師匠に付くのが一番良いけど、師匠いないからなぁ……別の国から誰か勧誘して来ようか。まあこのド田舎に来てくれる奇特なヒトがどれくらい居るか分からないが……


「ところでエルフィーレ、あなた文字は読める?」

「はい! 読めません!」


 やっぱりね……

 読めれば道具の使い方のマニュアルでも印刷してあげられるんだけど。私の手書きを模した文字で。


 前々から分かっていたことだけど、村の全員が全員文字が読めないのはやっぱり困る。

 行くところ行くところ、住民が誰一人読めないのでは……

 指示系統が少し整ってきて、ここまで顕著(けんちょ)に現れるとは……

 これは文字修得は急務ね……


 これまでは『生活』、いや『生存』を優先に考えてきた。

 生存を考える上で、水、つまり川の整備が優先順位第一位だと。しかし、川はもう完成に向かってかなり前進してきている。大きく言ってしまえばドワーフが来てくれた時点で完成が確約されたようなものだ。

 今は文字を修得してもらうことが最優先と言っても過言ではないかもしれない。


「エルフィーレ、あなたにも伝えておきたいと思います!」

「はい?」

「近々、勉強会を催します、体調が悪いなど無ければ出来る限り出席してください! 今後文字が読めないと困る事態が必ず来ます」


 正直もうその事態は来ている……


「は、はい!」

「ではこれを」

「何ですかこれ?」

「みんなで食べてください」


 お土産を渡して鍛冶場 (予定地)へ。

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