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第93話 『オルシンジテン』に印刷機能を付けた!

 水の国(アクアリヴィア)で買い込んできたものを各機関に配ろう。

 配る場所は、避難所、食堂、畑、縫製所、建築部。

 あと配るものとは別にドワーフに鍛冶場の制作もお願いしているから、その報告に行ってくるか。


 避難所は、そろそろ名前を改めて『役所』にしようかな。

 書類に使う用の紙も購入できたし、避難所の玄関付近に掲示板を作って村中に周知しよう。回覧板制度も始められれば、他の村人も村の様子や発展状況を知れるようになる。

 これだけ乏しい村だと小さな変化や情報でも活力になるはずだ。


 紙とペンは全ての場所で要るだろうから、全ての行政機関に配る。

 あとは……雑貨屋を作りたいところね。村で足りなくなったものをここで買えるように出来れば良いけど……問題は流通よね……

 大国が無視できないくらいの経済状況になれば、それなりの物流が確保できると思うけど、ここまで極貧の村ではきっと見向きもされない。

 仮に懇意にしてくれているレヴィアタンに水の国(アクアリヴィア)との交易を打診したとしても、生産物が少ない我が集落では一方的に迷惑をかけるだけになるだろう。つまり相手側には損失しかない。

 と言うよりメリットが無さ過ぎて一〇〇パーセント断られると断言できる。


「空間魔法で買い出しできるのは私くらいだから、やっぱりある程度定期的に買い出しに行かないといけないことになるのかな……」


 ゼロ距離ドアで水の国(アクアリヴィア)と繋げて、買い出しが可能に出来れば良いんだけど、これはあまりに危険な気がする。

 まず、私の能力が大勢に知られてしまう。少数に知られて徐々に広まっていく程度ならまだしも、一気に大勢に知られるのはその後の予測が出来なさ過ぎて怖い。

 それに中立地帯なのに、水の国(アクアリヴィア)の国民ばかりが流入するのもまずい。

 どこか、誰も来ないような場所にゼロ距離ドアを設置して、そこからアクアリヴィアを行き来するというのも考えられなくはないが、もしこの村以外の誰かしらがゼロ距離ドアの存在に気付いてしまった場合、これを広められてしまう危険性もある。


 それに……一番のネックが仕入れのための通貨を持っていないこと。

 黄金を作って売ろうか? いやいや、それはやらないって決めたことだし。

 最近は良質な作物も育つようになってきたから、それを路上販売とかすれば、多少のお金を稼ぐことができそうだけど……

 でも作物がようやく村中に行き渡ったり始めて、各家庭の食卓が潤い始めたところって状態なのに、その根幹となってる作物を売るってどうなんだろう? まだまだ食料が潤沢にあるわけではないから、そんな余裕は無い。


 この中立地帯をアクアリヴィアに取り込んでもらえば、そこの通貨を使うということが出来るようになると思うけど、そんなことは他の六大国が絶対に許さないだろう。下手をしたら争いの素になりかねないし、それが大きくなると戦争にまで発展してしまうかもしれない。ここはあくまで中立地帯でなくてはならない。

 もっとも……中立地帯とは言え、あちこち(いじく)り回して、かなり私色に染まって来ているが……


 いろいろ街作りのアニメや漫画見てきたけど、彼らはどうやってこの通貨の問題をクリアしてるのかしら?

 パトロン?


 ………………いや、そうか、私の置かれているこの状況が特殊過ぎるんだ!

 あっちの国の通貨を導入しようとすると、こっちの国が怒る、こっちの国の通貨を導入しようとすると、あっちの国が怒る。

 この中立地帯ってところで街作りをしようとしているからこの通貨問題が発生してるんだ!

 これはもうどうしようもないな……やっぱり中立地帯には中立地帯で使うことのできる独自の通貨が必要になるってわけか。

 もしかしたら、今まで熱すぎてここに住み着く亜人がいなかったから、通貨も生まれなかったのかもしれない。

 今はこの話は保留にしておこう。もしかしたら時が解決してくれることもあるかもしれない。


 とりあえずハンバームちゃんのところに、アクアリヴィアで大量に買い込んできた食材を卸ろそう。

 その前に――


   ◇


 我が家へ戻った。


「ねえ、オルシンジテン、あなた印刷能力ってある?」

「ありません。必要なら付けてください」


 ですよね……そんな機能付けた覚えないし。

 付けろって言っても、印刷機の構造がわからないからな……

 ん? 待てよ? そもそもオルシンジテンには、何で文字やら絵やらが浮かび上がるんだ? これは私が『魔法的存在』と認識して作ったからそういう仕組みになってるんだ。

 ということは、印刷技術を無理に機械に落とし込まなくても良いのでは?

 この世界ではこの世界のルールで印刷技術を作れれば良い。

 ちょっと試してみるか。


「オルシンジテン、今からあなたに印刷能力を付与します」

「はい」


 創成魔法で『魔力で紙に文字や絵を焼き付けられる機能』をイメージする。


「印刷能力は付いたかしら?」

「やってみましょう。何を印刷しますか?」


 そうねぇ……とりあえず無難にショートケーキのレシピでも印刷してみようか、米も麦も乳製品も大量に買い込んできたから作れそうだ。イチゴは以前メイフィーが採って来てくれたものが畑で栽培されている。


「じゃあ『美味しそうなショートケーキ』を検索」

「少々お待ちください………………これでよろしいですか?」


 ホログラムには『美味しそうなショートケーキ』の画像とレシピが表示されている。


「とりあえずこのケーキのレシピを印刷してみて」

「やってみます」

「で、どこに紙を入れれば良いの?」

「そこのテーブルの上に置いてください」


 あれ? どこかに入れなくて良いのかな? 印刷って言ったら紙を挿入口に入れないといけないんじゃないの?

 まあ、とりあえず指示された通りにテーブルの上に置く。


 バシュッ!


「うわっ!? もう印刷できた!? おぉ!? これ完璧じゃない?」


 ショートケーキのレシピが、材料、分量、手順共にきっちり印刷できている。しかも写真付き!

 印刷だから、ウィーンガタガタガタガタみたいな感じで印刷するのを想像してたんだけど、こんな一瞬の光で印刷するとは……


 実は今回、明確に印刷機能を付けるイメージを込めなかった。なぜなら本 (オルシンジテンのこと)に印刷機能をどうやって付けたら良いか明確なイメージが出来なかったからだ。

 とりあえず「印刷機能付け」ぐらいに考えて創成魔法で付与しただけだったが、オルシンジテンが独自に判断して自分のシステムとして組み替えてくれたようだ。

 これまで色々付与し過ぎて、自身で考え出すような構造に変質してきたのかもしれない。

 この間の称号『ボストロル』の冗談もそれの一環なのかも? (第43話参照)


「よし! これからは村中に色々と伝えやすくなるな。あ、でも印刷能力はオルシンジテンとは別のものにしておかないといけないか。この本(オルシンジテン)は他人にバレるわけにはいかないから」


 と言うわけで、印刷能力だけを持った魔道具を作……ろうかと思ったが、途中で気付く。


「ん? ちょっと待てよ? 印刷能力だけある魔道具作ってどうするんだ? インターネットみたいに調べられる機能が無きゃ印刷するための素材とか写真とかはどこから持ってくるの? 印刷だけ出来ても意味が無いんじゃないかしら?」


 重大なことに今気が付いた……オルシンジテンの存在をバラせない以上、この印刷能力も知らせたらダメなんじゃないか?

 ゆっくりと膝から崩れ落ちる……


「せっかくみんなに伝えやすくなる良いものを作れたと思ったのに……」


 とりあえず出来たこの超綺麗なレシピは泣く泣く火魔法で証拠隠滅。

 でも、全く無用の長物を作ったとなると何か悔しいな……

 文字だけのレシピなら書けるかな?


「オルシンジテン、私が手書きしたようにショートケーキのレシピを書ける?」

「可能です」

「じゃあ写真は一切付けずに、そういう感じに印刷して。レイアウトはさっきみたいな感じでお願い」

「文字の色はどうしますか?」


 黒いペンと赤いペンしか買って来てないからな……


「適当なレイアウトで赤と黒を織り交ぜて書いて」

「わかりました」


 バシュッ!


 出来たレシピは……う~ん味気ない!

 さっきのパソコンで作ったような文字を見て、飾られた写真を見て、完璧で綺麗に整ったレシピを見ているから、今出来たコレが物凄くしょぼいモノに見えてしまう……と言うか……私、字あまり上手くないなぁ~……別の意味でこれを他人に見せられるものなのか?

 めちゃくちゃ持て余してるこの超印刷技術……! いつの日か、この印刷技術が日の目に会うことを願う……


 まあ、レシピ作ったからにはハンバームちゃんに見せに行こう。

 再現してくれれば、この集落にまた新たな甘味が誕生する。

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