第74話 vs無敵の超巨大スライム
「いきなりの【カトブレパスの瞳】ドーーン!」
これでコイツの全体を見渡してしまえばもうミッションコンプリートよ!
ピキキッ……パラパラパラ……
「あれ?」
もう一回。
ピキキッ……パラパラパラ……
「石化しない?」
………………もしかして……効かない?
何で? 効かない個体なのかしら?
「どうされましたか?」
「………………もう人質もいないから、雷魔法でドーーンと行こうか! 【過包囲雷撃球】!!」
爆散を防ぐため、無数の雷撃球体でドーム状に包囲して攻撃する。
かなり強力な雷魔法をお見舞いしてやった。水に近い性質のスライムなら跡形もないはず。
地下水路に轟音が響く。
……
…………
………………
無傷? 爆散したりもしない。水路の床面だけちょっと抉れて焦げ付いてしまった……球体状の黒い焦げが無数に……
「ど、どうされましたか!?」
「さっき倒したやつに使った攻撃が二つとも全く効き目が無い……」
人間より水分量が多い生物なのに雷が効かないってあり得るの? 予測でしかないけど多分九九.九九パーセントくらいは水よね?
無効化・学習されてる?
じゃあ、炎で蒸発だ。これはまだ一度も使ってない。
その前に焼失しやすいように風魔法で細切れにしておこう。
「【風切りの刃・乱れ撃ち】!」
風の刃で細切れに切り裂く。
すると六個の核らしきものが転がり出てきた。
「何これ? もしかしてこれが核?」
「そうですそうです! でも六個なんて数初めて見ましたよ!?」
「え? これって異常なの?」
その内の一つが光り輝き、「パンッ」と水音のようなものを立てて砕け散った。
「ア、アルトラ様! スライムの身体が元に場所に集まりつつあります! 早く残りの五個も壊さないと!」
「あ、ああ、そうだね!」
周囲に影響を出さないように結界で囲む。
「【結界内爆炎】!!」
爆音の反響が凄い……
「す、凄い音ですね……耳が痛い……」
流石にこれならもう跡形も無いでしょ。
結界内の煙が晴れてきた。
ほとんど消滅した。あとクズ鉄の中央辺りに二メートルくらいの大きさになったヤツが居るけど、これを消滅させてしまえば終わりだろう。
あ! そういえば核はどこへ行った? 五個とも無くなってるが……
「リナさん、核がどこ行ったか見てた?」
「い、いえ……爆音と煙が凄くて見てませんでした……」
まさか私たちが見てない間に再び取り込んだ?
まあ良い一緒に焼失させてしまえば同じだ。
あと一発、喰らわせれば消滅しそうな大きさではあるけど……念のため……
「もう二発行くから耳塞いでて! 【結界内爆炎】×2!!」
爆音で耳が潰れそうだ……
隣ではリナさんが耳と一緒に目まで塞いでいる。
この爆音だから、きっと地上では軽く騒ぎになってるんじゃないかしら?
「よ、容赦無いですね……」
「まあ、ヒトの害になることを考えると、ね」
事実、前の広間に食べられたヒトの頭蓋骨が転がってたし……
このまま放っておいたら、頭蓋骨が増えていくかもしれない。
煙が晴れてきた。
あれ? おかしいな、さっきと大きさが全く変わってない気がする……
まさか、これも一発目で学習された? そんなに耐性獲得が早いのか!?
「スライムって学習能力高いの? もう雷と火、それと石化攻撃が無効化されてるみたいなんだけど……多分さっき使った風も……」
「いえ! そんなの聞いたことないですよ! スライムって凄く弱い魔物なんですよ。核を壊せば溶けてなくなるので」
そういえばさっき、【風切りの刃】を使った時に六個転がり出てきた核の一つが、光った後に壊れたのを見た。
もしかしたら、あれが無効化が完了したサインだったのかもしれない。
「もしかして、核の数の分だけ無効化できる……とか?」
「核が二個以上あるスライムは稀なのでそんな特徴があるとは知りませんでした……」
「稀なの? じゃあ六個あるなんて異常事態なんじゃない?」
ただの突然変異種とかなのか……もしくはこの水路事態に異常事態が起こっているのか……
「アイツに最初に遭遇した時に雷と石化はもう効かなかった、今火が効かなくなったから、アイツは最初核を七個持ってたってことになるね」
この分だと多分風も効かなくなってる可能性が高い。
ヤバイな、分体が四体いたってことは、それプラス四個?
今までのも含めて合計十一個もあったら致命的なダメージを与えるのが難しくなる。
「何かちょっと対策考えようか」
「ここでですか!?」
「アイツの時間を止めておく、【時間停止】」
時間魔法に耐性が無いやつと、私と同等かそれ以上の強さのやつ以外はこれで時間を停止させられると、オルシンジテンからは聞いている。
「え? えーーー!!!? アルトラ様! 時間魔法も使えるんですか!? 初めて見ましたよ!?」
「うん、まあ全属性使えるから……」
「全部使えるんですか!? そんなヒト、魔王でも聞いたことないですよ! 凄いです!! そんなヒトがこの世界に存在するなんて!!」
また尊敬圧が強くなったな……
うっかりポロっと言ってしまったけど、よく考えたらこれってもしかして知られない方が良いことかもしれないな……
今リナさん、「時間魔法使えるヒトは初めて見た」って言ってたし……
「ごめん、今更だけど私が全属性使えるのは他言無用でお願い!」
「分かりました!」
さて、時間が止まっているならこのまま攻撃を加えて核を全部壊してしまえば良いか。
「リナさん、腰の下げてる剣を貸してもらえる?」
「何をされるつもりなんですか?」
「止まったまま攻撃もされないから今の内に解体して核を壊しちゃおうかと」
お借りした騎士団御用達の剣をスライムに向かって振り下ろす。
が……『ガガンッ!』というよく分からない音と共に刃が止まった。
「か、硬った~~!」
ス、スライムなのに!? 何この硬さ!!
それどころか、斬っても斬っても傷すら付かない。
と言うか……剣の方が刃こぼれしてきてる!
「ど、どうされたんですか?」
「まさか……時間が止まってる間はこちらからも干渉できない?」
【時間停止】って足止めくらいにしか使えないのか!?
そ、そうするとあまり意味の無い魔法ね……逃げる時くらいしか使えない。
「ダ、ダメみたい……ごめん、剣がボロボロに……」
「気にしないでください。国支給の備品ですから」
このままでは処分もできないとなると、時間停止を解除するしかないわけだけど……
それに……分体と触手で繋がってるから、分体の方に攻撃加えられたらこっちのやつが学習してしまうかもしれない。
騎士団の出動は控えてもらった方が良いかも。
「リナさん、騎士団には出動しないように連絡して、ここ以外で学習されて多分もっと倒し辛くなると思う」
「分っかりました!!」
通信機で連絡を入れてもらう。
時間停止しているスライムを見ると、身体の中心から大分外れたところに薄っすらと光る玉が見えた。
「え? あれって核? あんなに中心から外れたところにあるの? まさかこのシグナルってもしかして……」
光はすぐに消え、その次の瞬間スライムが……動きだした!?
「嘘でしょ!!?」
まさか、時間停止まで無効化するの!?
やっぱりあの核が光るのが無効化のサインだ!
まずい、リナさんは通信中でまだ気付いてない! 火も雷も風も無効化された今、触手に絡めとられたらまずい!
「リナさん、危ない!」
リナさんを突き飛ばして、自分が触手に巻かれる。
「アルトラ様!」
「リナさんはこの部屋の入り口まで離れて! 今度絡めとられたら助けられないかもしれない!!」
闇魔法で触手を腐食させて脱出した。これでもう闇も通じなくなっただろう。
あと、脱出に使えそうなのは光で吹き飛ばすか、凍らせて砕くか。
いずれにしても一発で全て消滅させないと学習されてしまう。
氷で完全に凍らせて砕いてしまえば倒せるかもしれないけど、さっきからコイツの学習速度がどんどん早くなってるような気がする……砕く前に無効化されてしまうことも十分に考えられる。
そうだ! 空間魔法で別の空間に捨ててしまえば良いんだ!
「【強制転移】」
球体のゲートで包み込み、強制的に別空間へ飛ばした。
「ふぅ……」
「や、やりましたか?」
「流石にこれは対処できないでしょ」
「恐ろしいスライムでしたね……」
「もう二度と戦いたくないわ……」
ホントに二度と戦いたくない……
「さあ、子供達を迎えに行きましょう」
「はい」
!?
突然今別空間に送ったスライムの魔力を感知した。
「甘かった……まだ終わってないみたい……」
「えぇっ!?」
今【強制転移】を使った地点の空間に裂け目が!
中からスライムが零れ出てくる。
「まさか……ここまでとは……」
「ななな、何なんですかこの生物は!?」
無理矢理空間の裂け目をこじ開けてきた。まさか自力で別空間から戻ってくるとは……
これってもしかして放っておいたら魔王より強くなるんじゃない?
またさっきとは別の場所の核が光ったのが見え、すぐに消えた。
これで空間魔法耐性が出来てしまったってことか。
帰って来て、空間魔法で分断されていた分体と再び繋がった。分体のも含めて核はあと四つ。
今まで学習された属性は、火、風、雷、闇、空間、時間、あと石化がもしかしたら土属性扱いかもしれない。
まだ学習されてない属性は、氷、光。
物質属性と樹属性は物理的なものだから最初から効かない可能性が高い。
水属性は……元々スライムは水に近いから無効化しないかもしれないけど、さっき一度使っているから水圧カッターみたいなものは無効化されてるかもしれない。
こっちはあと二属性しか手札が無い、対して向こうは生存を考えるならあと四回無効化できる。結果核は二個残る。
仮に石化と土属性を別物と考えても核は一個残る。
………………これ、もう倒せないんじゃね?
『究極の生命体スライムの誕生』なんじゃね?
物理的な力で核を壊せば倒せるって話だったから、外側から槍とかで壊すことができれば倒すことができるかもしれない。
でも、核が全く見えないこの真っ茶色の中、ピンポイントで核だけ攻撃できるだろうか?
スライム質の身体は弾力性と粘性が強い上、この巨大スライムは厚みが凄い。普通の攻撃なんて届かない可能性が極めて高い。
更に、絡めとられたらもうスライムから離れることができなくなるから、チャンスは実質最初の攻撃だけに限定される。核の場所を読んで、スライム質の身体を押しのけて一発で破壊しなければならない。
それに、核まで届かない可能性すらあるこの厚みなのに、核を破壊できるほどの勢いが出せるだろうか?
「さっき六個転がり落ちてきた時に踏み潰しておけば良かった……」
物理的要因で破壊できるなら踏み潰しでも十分壊せたはずだ。何であそこで魔法使って消滅させようとしたのか……核より身体の方が体積が多いからそっちを破壊しないといけないとでも思ってしまったんだろうか?
判断を間違えた……
魔法は効かなくなった、物理は届かない、核の位置まで不明瞭、しかも残ると予想される核はあと二つ……
これもう積んでね? 無理ゲーじゃね?
「ア、アルトラ様……? アルトラ様、触手が来てます!!」
思案を重ねすぎて、気付かぬうちに無数の触手に絡めとられた。
もう何回目だ、この状態にされるの……
もう倒す方法も無い……
このままだと溶かされてしまう……でも私再生能力高いから、コイツに絡めとられたら、この動けない状態のまま永遠に生き続けなきゃならないかもしれない……しかも、コイツは私から養分吸い続けてどんどん肥大化するかもしれない……
しかし、汚ない触手だなぁ……せっかく買ってくれたドレスがドロドロで真っ黒だ……
そういえば、スライムって単細胞生物なんだっけ……
単細胞生物って、単一の細胞で構成された生物だったんだっけ……?
脳とか無いんだなぁ……
脳が……無い? 脳に当たる器官が無いのか。
もしかしてこれって、創成魔法の適用範囲なんじゃ……?
………………ってことは、創成魔法で作り変えられる!
スライムに引きずり込まれながらも、創成魔法を発動させる。
作り変える条件は、
『亜人を襲わない・亜人を消化できなくなる』
『核を三つ以上所持できない』
『常に身体内を清潔に保つ・核の数の分相応の綺麗な身体の形を保つ』
『他のスライムと融合した時に学習・無効化した属性耐性が半分以下に薄まる』
『スライム同士で融合した時と分体を生み出した時にこの条件を遺伝させる』
トイレのバクテリア作りの時に散々失敗したから、条件を組み込むイメージはしっかりできている。
この五つの条件をイメージして、巨大スライムの作り変えを試みた。
すると、茶色く汚かったスライムがどんどん清浄化され、透明に近い白の状態に変化した。無駄な細胞を削ぎ落としてどんどん小さくなっていく。
核から削ぎ落とされた無駄な細胞部分は水路の水へ溶けて消えていった。
更には、触手が繋がっていたスライムの分体にもこの特徴が遺伝していくのが清浄化される過程をもって確認できた。
「ふぅ……」
「アルトラ様! 大丈夫ですか!?」
「何とかね……」
「あの透明になったスライムは?」
「無害化させた……もう亜人を襲うことはないと思う」
「無害化ですか? どうやったんですか?」
「それは企業秘密ってことにしておいて」
創成魔法を説明するのは面倒だ。
透明になったスライムは、無駄なぜい肉を落としたためか身軽になってどこかへ移動して行く。
「どこかへ行ってしまいますよ? 放っておいても良いんですか?」
「うん、むしろ放っておいてあれの特徴を全スライムに遺伝させてもらった方が良い。そうすればもうスライムが亜人を食べることはなくなるから」
今まで戦ったのはフレアハルトが一番だったけど、比べ物にならないくらい疲れたわ。
もう絶対に! 二度と戦いたくない! 二度と!!
「あーー! 疲れたーー! クタクタだ……」
「お疲れ様でした」
「……さあ、子供達を地上へ送り届けようか……あと、この前の部屋にあった頭蓋骨も弔ってあげて……」
「わかりました」
「後処理は騎士団の方々にお任せして良いかな?」
「はい! お任せください!! 連絡を入れておきます!」
子供達を迎えに行き、連れて地下水路入り口へ戻る。




