第61話 フレアハルトたちの正体がバレた!?
翌朝――
屈強な村の力自慢たちが集まってくれた。
塩作り三兄弟もいる。なぜか小柄のナナトスがいるけど、あれはきっと興味本位での参加かな?
村人が集まったタイミングでみんなの前へ顔を出す。
「おはよう、みんな!」
「「「おはようございます!」」」
「え~、もう担当者のリーヴァントから聞き及んでいると思いますが、今日集まってもらったのは他でもありません、本日より集落の近くへ川を引くための掘削作業を行います!」
「あの~」
「はい、そこのあなた!」
「うちの村には潤いの木がありますが、水を使うならそこから汲んで使えば良いし、別に川を引く必要は無いのでは?」
「はい! そういう質問があるとは思ってました! あれの周りには現在何がありますか?」
「え~と、水吸収の結界ですか?」
「それを設置したのは誰ですか?」
「アルトラ様です」
「では、もし私が死んだり、意識不明になった場合、あの結界がずっと存在していると思いますか?」
……
…………
………………
全員がシーンとする。
「私が死んだり、意識不明になった場合にあの結界がずっと機能していてくれれば良いのですが、もしそうでなかった場合、この集落はどうなると思いますか?」
……
…………
………………
みんな一度集落の水没を経験しているから、どうなるかは想像できるようだ。
オルシンジテン曰く、通常の魔法特性として、その場に持続していること自体あり得ないことらしい。バリア系の魔法を使って持続する時間は、普通の魔力の者で十から十五分、強い魔力を持つ者でも一時間くらい、防御魔法に特化した者で二から三時間、超特化した者でも四から六時間くらいが限度だということ。
『効果:永続』などという状態は普通ではないのだ。これを聞けば魔王レヴィアタンが疑似太陽を欲しがった理由もわかるというものだ。
なお、『効果:永続』については、もちろんオルシンジテンに聞いてみたが、禁則事項に抵触するらしく教えてもらえなかった。
「以前村を沈めてしまった落ち度は、全面的に私にあると思います。あの時は死者は出ず、こうして村も復興してきているので不幸中の幸いだったと思いますが、今後同じことが起こった場合、死人が出ないとは限りません。それを未然に防ぐためにも、あの潤いの木を別の場所に移して、川を引く必要があるのです」
ちょっと盛り下がってしまった……まあ私の所為だから仕方がない……
「そういうことで、勝手ではありますが、みんなの力を貸してください」
深々と頭を下げる。
元々は私の失敗が原因の一つではあるから、虫のいい話だとは思うけど、彼らの村の話でもあるのだから、彼ら自身にやってもらわなければならない。
「村のためになることであれば、我々の力を存分にお使いください!」
「遅かれ早かれやらなければならないなら早い方が良い」
「よ~し! みんながんばって村に川を引こう!」
「「「おー!!」」」
良かった、何とか上手くまとまってくれた。
「では、スタート地点となる火山へ向かうとしましょう」
【ゲート】を出して火山の麓と繋げる。
そういえば今回レッドドラゴンたちには何も言ってないけど、今頃どうしてるんだろう。
続々と【ゲート】で村人を通過させる。
その時――
「「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」
なに!?
ドミノ倒しに近い勢いで全員戻って来た。
「みんなどうしたの!?」
「巨大な怪物が!!」
確認に行ってみると、そこに居たのは――
レッドドラゴン三人……今日も来てたのね……
「おお、アルトラ! やっと来たか」
一度ゲートを消す。他の村人に彼らと話してるの見られるのも厄介だ。
「本日もよろしくお願い致します」
アリサとレイアがドラゴンのままで深々お辞儀。
「今日何するか伝えてなかったはずだけど……それより何でドラゴン形態なの? みんな恐がって逃げちゃったじゃない……」
「すまぬな、今飛んできたばかりだったのでな。予定を何も聞いてなかったからとりあえず杭を打ったところから村までのルートを飛んでみようかと思ったところ、この地上付近に【ゲート】による空間の裂け目が開いたのが見えたから下りてきたのだ」
「………………今日も予約は取ってないけど……」
「良い! 最近はお主に関わること自体が楽しくなってきた」
「手伝ってくれるのはありがたいんだけど、まだ見返りを上げられるような状態ではないけど……」
「ではこれは貸しにしておいて、あとで頂くとしよう」
ちゃっかりしてるわ。
「OK、じゃあありがたく労働力として使わせてもらうよ。とりあえず人型になってくれる? 今逃げてった彼らを呼び戻したいから」
ドラゴン形態から人型へ変身する。
「待て! 逃げなかった者がおる! しまったな、お主に気を取られて気付くのが遅れた。今のを見られてしまったぞ……」
「え!?」
『ガララッ』という石の崩れる音と共に現れたのはナナトスと……誰だ? 私にとっては新顔だな。
……いたのか……全員村へ戻ったとばかり……
「アルトラ様……そのヒトたちは……?」
見つかってしまったんなら仕方がないな。
「ナナトス、このことはみんなには秘密にしておいてもらえるかな?」
「そのヒトたちって、ここ最近村に来てる火山付近に住んでるっていう亜人ッスよね?」
フレアハルトの眉がピクッと動いた。相変わらず「亜人」と呼ばれるのは好きじゃないんだな。
見られてしまったからには、もう言わざるを得ないだろう。
「実は彼らレッドドラゴンだったのよ。それで――」
「そ、そのヒトたちを使ってどうするつもりッスか!? まさか村を乗っ取るつもりじゃ……」
乗っ取る? ナナトスは何を言ってるんだ? 私、現領主よ? 立場的な意味ではもうほぼ私が支配しているようなもんだと思うんだけど……
しかし、ここで私の悪戯心に火が着いてしまった。
「ふ……ふふふ……ふぁっはっはっは!!」
「ま、まさか裏切ってたんですか! アルトラ様!!」
二人とも腰を抜かして動けなくなっている。
「その通りよ! このレッドドラゴンたちを使ってお前たちを支配してやろう!!」
「む、村に報告を! 対抗策を考えないと!」
「お前たちの力ごときで余を倒せるとでも思っているのか!」
「余」なんて人生で初めて言ったわ! 一般人が言うには中々恥ずかしめの一人称ね……
「ひぃぃぃ!!!」
「殺される~ッ! 殺されるッス~!」
二人とも泣き出してしまった……ちょっとやり過ぎたかな。
「アルトラ……お遊びもそれくらいにしておいたらどうだ?」
「「え?」」
「あはは、ごめんごめん、まさか泣き出すほど恐がると思わなかったから」
「「え?」」
ナナトスたち二人はポカーン顔。
フレアハルトの従者二人は笑いを堪えている。
「このヒトたちこんな怪物みたいななりでも無害だから」
「村の支配は?」
「村の支配も何も、もう私が領主なんだから実質支配してるようなもんだと思うけど。今の生活って不満かしら?」
「いえ……昔よりずっと住みやすくなりました」
と答えたのはナナトスの友人。
「それにあなたたちをどうにかするなら、最初に村に来た時点でやってるわ。皆殺しにねぇ~」
と、まだ悪戯心を出してしまう。
「こ、今度も冗談ッスよね?」
「もちろんよ。何でどうにかしようとするヒトたちの行方不明事件を解決して石化を解いて、頭まで良くして、色々と助けてあげないといけないの?」
「う……確かに……自分が浅はかだったッス……」
「今後も信用して良いんですか?」
「裏切らないと約束する、ところでナナトスじゃない方のあなたは初対面ね?」
「はい! カンナーと言います! 今後ともよろしくお願いします!」
「レッドドラゴンについて、リーヴァントにだけは既に話してあるから、疑うなら彼に聞いてくれれば教えてもらえるよ。でも、このことは他の誰にも言わないでほしい。今明かすとさっきみたいに逃げてしまう可能性があるから。出来ることならもう少し村の住民に慣らしておいて、無害だということをしっかりアピールしてから正体を明かしたい」
「了解ッス!」
「わかりました!」
彼らがちゃんと黙っててくれると良いけど……特にナナトスの方は見るからにチャラいからなぁ……偏見かもしれないけど、バレるなら彼からの方が可能性が高い気がする……偏見だけど……
何で知性上げる前はみんなアホみたいに同一な話し方だったのに、知性上げたら個性が出てくるのかしらね?
さて、一応話もついたし、さっき逃げてった屈強な男どもを迎えに行くか。
再び【ゲート】を出して集落と繋げる。




