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第570話 三権分立と魔王の関係と亡者の行方について

 拘留施設の会議を終え、帰宅。

 その日のうちに法律についてカイベルに相談。


「――――とういうわけで、拘留施設の必要の有無を話し合って来たんだけど、日本の法律をベースにここの法律を作ってもらえないかしら?」

「分かりました。ですが、日本の法律をベースにするのは少々難しいと思います」

「何で?」

「まず、日本国憲法第1章の時点で既にここと条件が違いますから」

「その第1章って何なの?」

「『天皇』に関しての条文です」

「そ、そっか、確かに!」


 魔界には天皇陛下おらんしな……そりゃ(しょ)(ぱな)から条件に合わないわ……


「それに、魔界には決定的に違う『魔法』や『魔力』という要素がありますから」

「そうか……じゃあ魔界の法律も参考に、良いとこ取りをするってことはできない?」

「ある程度は可能です。ですが私が完成させるのではなく、草案という形にしてアルトラ様の方で調整していただくのが最良かと思います。更には実際に運営してみて変える必要がある場合に変更するという感じでしょうか」

「分かった、じゃあ草案の作成をお願い」


 ここで一つ疑問に思った。

 『行政、立法やって、あと司法にまで関わったら、私独裁者じゃね?』と……


「ところでさ、こういうのって三権分立って言うんだよね? 私、行政に関わってて立法もするって、それは許されることなのかな? 下手したら独裁者じゃない?」

「そうは言っても、まだそれらを担える者がこの国に育っていませんので、現状では仕方のないことかと。特に司法と立法は平和であったアルトレリアでは、今まで必要とされてこなかった部分ですので」

「そうなんだけどさ……」


 自分で口にしておいて、もう一つ重大な疑問が思い浮かんでしまった。

 各国で『魔王という存在』はどういう扱いなんだろうか?

 各魔王が世界最強クラスの戦力を有しているわけである。更には【魔王回帰(レグレシオン)】した場合、その能力は兵士数万人分の能力に及ぶ。

 暴力的な面を使えば、独裁も十分可能な気がするのだが……


「各国の魔王と三権分立の関係ってどうなってるの?」

「現在の魔界では基本的には三権分立で成り立っています。しかしその強大な能力の特性上、国家運営は時の魔王次第というところでしょうか。私利私欲の独裁に傾けば、それを覆そうとする勢力が出て来るのが世の常です。その結果……」

「王位を簒奪(さんだつ)するための国家転覆(クーデター)が起こされるってわけね」

「はい。魔王と大罪との相性が良ければ、欲が強くなるため独裁に傾くのはそう珍しいことではありません。各国の建国以降、長い歴史的観点で見れば七大国全てで独裁だった時期は存在します。それも何度も」

「何度も独裁国家になってるの!?」


 や、やっぱり『大罪』って言うくらいだから、相性が良いとそっち側に傾く可能性が高いのかな?


「多くの国は分権できていますが、現在の火の国と氷の国はほぼ専制国家です」

「え~と……『専制国家』って何だっけ? 学生時代ももう遥か彼方だから忘れちゃったよ……」

「『独裁者や特定の集団が国民の権利を考慮せずに権力を掌握してしまう支配体制の国家』です。所謂(いわゆる)独裁国家ですね」

「あれ? 氷の国って魔王が代替わりしたんじゃなかったっけ?」

「代替わりは起こったようですが、独裁が新しい魔王に移った(スライドした)だけで、そのまま独裁体制が続いているようです」


 それってクーデターの意味あったのか?

 頭がすげ替わっただけってことじゃないか。


「ちょっと疑問なんだけど今の言葉からすると、もしかして魔王って法律より上に位置するの?」

「はい。ですので法律に則って国家運営されれば法治国家になりますし、魔王が全権を掌握してしまえば独裁国家になります。基本的にはどの大国も魔王が最上位に位置し、いくら国民にとって有益となる法律でも魔王がNoと言えばその法律は施行できません」


 何て複雑な関係なんだろう。

 法律より上位に位置するって……とある国みたいだ……


「それはやっぱり暴力方面の力があるからってことかしら?」

「そうですね。各大国の魔王は魔界最強の七人ですので、魔王が言うことに逆らうのは難しいですから」


 そう聞くと、火の国と氷の国を除いた五大国が法治国家として成り立っているのが不思議ですらあるな……いや、風の国は魔王が居ないから正確には四大国か。


「話を戻しますが、アルトラルサンズの行政に関しては、ここ最近はほぼリーヴァント様たちが仕切ってくださっているので、少なくとも二権は分立できていると考えてもよろしいのではないでしょうか?」


 確かに。

 アルトレリアに町の名前が変わる前くらいから、『私にお伺い立てる必要は無いから自分たちで考えて進めてほしい』と言ってあるから、私の知らないところで町がどんどん発展して行ってるし。

 その面だけ見ても行政の部分は成功していると言えるかもしれない。


「極論を言ってしまえば、三権を悪用さえしなければ、アルトラ様が全て掌握して独裁体制を敷いても良いわけです」


 でも、私自身も人間であるわけだから欲ばかりだ。全ての権限を掌握したらどういう運営の仕方するか分からないしな……


「更に言うなら、悪用さえしなければ私腹を肥やしても問題ありません。全てに優先されるのは国民の幸せですから、国民が幸せと感じているなら独裁体制でも、私腹を肥やしていても何ら問題ありません。問題なのは国民が飢えて困っているのにそちらを見ようともせず、自身が甘い汁を啜るために他国へ富や重要な情報を流すことです。これでは優先順位が違います。国民は国の礎、それを蔑ろにしていてはその国に未来はありません。まずは国内の問題を解決してから外国を見るべきなのです」

「な、なるほど。確かに……国が憂いてる状態では他国に目を向けてる場合じゃないよね」


 まあ、貧困国のアルトラルサンズ(うち)が外国に支援するなんて何十年先になるか分からないから、今はそんなこと考えなくて良いんだけど……


「もっとも……独裁というのも自分本位の独裁なら好き勝手やれば良いわけですが、国民の幸せを考えての独裁となるとその労力は途方もないのでお勧めはしません。恐らく神経すり減らして寿命を縮める結果になるでしょう」


 多くの国民の幸せを考えての独裁なんて……それは壮大な滅私奉公のようだ……間違い無く過労死一直線……


「一番良いのは、それら三権の長を速やかに育て上げることでしょう。行政部分は大分育っていますので、今後は司法・立法の分野に力を入れる必要が出てきた時期と考えます。国会や裁判所の建設もしなければなりません」


 初期の基礎的な部分の立法はカイベルで何とかなるにしても、司法については外国に勉強のために派遣させるか、司法に明るいヒトを招致して教えを請うくらいしかないかな……

 司法については複数人人手が要るし。

 クリストさんにお願いしてみたらどうだろう? やってくれないかしら?


 ……

 …………

 ………………


 一区切りしたのであの話を聞いてみる。


「ところでさ、さっきの会議で疑問に思ったから答えて。人間って死んだら冥球(ここ)か天球へ行くんだよね?」

「そうですね」

「じゃあ、冥球(ここ)のヒトたちって死んだら精霊界へ行くんだよね?」

「そのようですね」

「その後はどうなるの?」

「分かりません。精霊門までは魂であっても挙動が追えますが、そこ以降は神域の話になりますので」


 ダメか……


「ただ、魔界でも罪を犯す者はおりますし、精霊界の方にも地獄や天国に当たるシステムがある可能性は高いと考えられます」

「じゃあ、魔界に人間以外の亡者が居ないのはなぜ?」

「転生のシステムが人間と異なるのでしょう。恐らく罪を濯いだ後の『保釈期間』が存在しないのではないかと予想されます」


 あ、そうか。魔界に保釈された亡者の時間って、地球への転生前段階の『準備期間』なんだっけ。


「何で存在しないの?」

「さあ? 神様ではありませんので私にも分かりません。あるいは精霊界での裁きと保釈期間がセットになっているとも想像できますが、証拠が無いので何とも……」


 私たち人間と違って、元から『肉体が無く、幽体の状態』だからとかも関係してるんだろうか?


「う~ん……カイベルに聞いても解決まではできないか……」

「申し訳ありません」

「いやまあ良いんだけどさ、神域のことは分からないんじゃしょうがないし。じゃあもう一つ疑問に思ったんだけど、亡者ってどうやって保釈されてるの? 地獄門から誰か出てくる時は脱走したヤツか、お盆の季節くらいだし」

「少々お待ちください」


 ……

 …………

 ………………

 また一点を見つめて停止した。

 多分今検索中か。


「…………過去の歴史をさらって見たところ、どうやら地獄で刑期を終えた時に魔界のいずれかの場所へランダムに転送されているようです。そこに居なかったはずの亡者が突然一人現れるのを確認しました」

「突然現れるなら異世界からって可能性もあるんじゃないの? 以前フレアハルトが救われた時のミスティアさんみたいにさ」 (第497話から第499話参照)

「いえ、地獄に入獄する記録がありますから、それと照らし合わせれば入獄された方だと判断できます」

「なるほど。道理で地獄門から出獄するのを見たことないはずだわ……転送された後はどうするの?」

「その現地国で保護を求めるという感じでしょうか」

「『亡者』って魔界でも『罪人』と広く知られてるのよね? 保護に応じてくれるの?」

「魔界では昔から“亡者は勤勉”と認識している者が多いので、保護を求めても断られることはまずありません。断られたら別の国へ行くわけです」


 さっきの会議で言ってた『地獄で罪を濯がれた状態』だから『勤勉』ってやつか。


「なるほど。あと、日本人以外の亡者と関わらないんだけど、それは何で? 例えば『アメリカ人の亡者』だって存在するんだよね?」

「存在しております。これに関してはただ単にアルトラ様とのご縁が無いだけだと思われますよ。水の国などへ行けば普通に路上を歩いてるのを見かけると思いますが……」

「ホントに!?」


 あ、でもハロウィンの時には確かに地獄から出発するのを見たし……魔界に居ないわけがないのか……


「もしかしたら髪の色や肌の色が日本人と違って見えるのと、魔界には多種多様様々な生物がおられるので、幻想世界の住人と混同しているのでは? 例えばエルフは金髪の方が多いので、視界に入ってもそのように勘違いしてるとか」

「あ! 確かに! 私の認識不足かも!」


 以前、レヴィがカイベルを見て『生きている黒髪は珍しい』って言ってたから (第116話参照)、日本人を見慣れているために外国人のことが頭に無くて『黒髪=亡者』、『金髪=エルフ』のように見えていたのかもしれない……

 外国人を見かけても当然のように“魔界の住人”という目で見ていたのかも。


「次からは注意深く見てみるわ」


   ◇


 その日の夜――


 コンコンコン


 カイベルが私の部屋を訪れ――


「草案が出来ました」

「もう!? 流石カイベルね……」


 ――私が普段使っている机に書類をドサッと置かれた。


「こんなにあるの!?」

「いえ、まだこの十倍あります」

「え……そ、草案だよね? じゃあカイベルの部屋って、今書類だらけなんじゃ……?」

「法律というのはケースによって大量に用意されているものですので。これらに目を通しておいてもらえますか?」


 私が頼んだ以上Noとは言えない……


「わ、分かったよ……」


 この後、年末まで二週間ほど缶詰になることに……


 そして二週間かけてこの大量の草案から、今アルトレリアに重要となりそうなものを選別した。

 リストにするとこのような感じ。

 【※読み飛ばし可】


  ・生命と身体の尊重

    殺人と傷害の禁止。

  ・所有権の概念

    窃盗の禁止。

    土地の権利の明確化。

    財産の所有権の明確化。

    遺産相続の行方の明確化。

  ・魔法使用の規制

    他者を傷付ける恐れのある魔法の他者への使用を禁ずる。

    特定の個人を操作する、特定の個人の深層に入り込むような精神魔法の使用を禁ずる。

    ただし、医療目的であればこの限りではない。

     自動発動特性である場合は、その特性の申し出と出来る限りの配慮をお願いする。

  ・多種族について

    異種族間の差別の禁止。

    文化的な慣習の尊重。

     ただし、それをすることによって迷惑がかかるなど度が過ぎる場合は

     双方に配慮してもらって落としどころを決める。

      決められない場合

       片方が自国民だった場合、外国の方に帰国を促す、または強制退去。

       双方が外国からの来訪だった場合、双方に帰国を促す、または強制退去。

    共通魔界言語の使用。

     アルトレリアでも共通魔界言語の併記を定める。

  ・所属国の概念

    帰化の概念。

    国籍の扱い。二重国籍を認めるかどうかの有無。

  ・その他いろいろ

    電気事業についてだったり、水道事業だったり、道路交通法だったり、

    食品安全法だったり、税金の徴収方法だったり、商売の法律だったり、

    銀行法だったり、労働基準法だったり、奴隷法だったり、

    教育に関わる法だったり、裁判制度だったり、刑事訴訟法だったり、

    出入国管理法だったり、条約締結法だったり、犯罪人引渡法だったり、

    災害対策基本法だったり、公衆衛生法だったり、環境保護法だったり、

    医師法だったり、魔法医療従事者法だったり


 【※読み飛ばしここまで】


 これを元に、有識者を集めて判断を仰ごうと思う。

 架空の法律を小説に絡めるのって大変ですね……昔、実際に建国した人って凄い。

 ここに並べたもの以外に、「なになにが必要じゃないか?」ってのがあったらコメントいただけるとありがたいです(^^)

 あと、「ここがおかしい」って指摘もしていただけるとありがたく思います。


 次回は10月24日の投稿を予定しています。

  第571話【立法についての議論】

 次話は来週の金曜日投稿予定です。投稿時間は二十一時付近までのいずれかの時間になります。

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