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建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~  作者: ヒロノF
第20章

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第568話 拘留施設について その1

 十二月の中旬、役所にて――


「本日はみなさんに折り入って相談があり、集まってもらいました……」


 各国のとある関係者に会議室に集まってもらった。


 私、水の国(アクアリヴィア)元騎士トーマス、ドワーフ工房フィンツさん、風の国(ストムゼブブ)精鋭騎士ウィンダルシア、樹の国(ユグドマンモン)フリアマギアさんの側近クリストさん、雷の国(エレアースモ)建設作業員ガーゴイルのヘンリーさん、土の国(ヒュプノベルフェ)大使館職員のダイヤラさん、同じく大使館職員で亡者のタナカリュウイチさん、そして我が国の警察署長マーク、建築部総務のダイクーに集まってもらった。


「あんたらとは初顔会わせだな」


 フィンツさんがウィンダルシアとダイヤラさんにそう話しかけた。


「お初にお目にかかります。最近こちらに赴任してきました、風の国外交官のウィンダルシアと申します」


 実際はアスタロトから『私を守れ』という密命を受けて来ているのだが、まあ立場上は外交官だから間違ってはいない。


「皆様お初にお目にかかります、土の国大使館にて法務部を請け負う、土と光の精霊・カーバンクル族のダイヤラと申します」


 このヒトとは私も初顔会わせ。法律に詳しい方ということで、タナカさんに連れて来てもらった。

 宝石の精霊であるカーバンクルの一種で、額にダイヤが埋まっている。土の国大使のルビアンさん (※)と近似の種族で、額の宝石以外は人間のような見た目。

 宝石に受肉しているため全身ツルツルツヤツヤ。究極の美肌という感じ。もっとも……皮膚は硬いんだけど……

   (※土の国大使:ルビアンについては第419話参照)


「で、アルトラよ、騎士やら建設作業員やら外交官やらのごった煮集めて何の用だ? 意図が全く読めないんだが……?」


 とフィンツさんから。

 関わりがよく分からないメンバーが集められたための当然の疑問。


「この国に在住の他国の方々に意見を聞きたいと思って集まってもらいました」

「騎士に、建築業に、外交官にですか? 亡者の方まで呼んでいるのは珍しい」

「それにそれぞれの国の方が一人以上は列席してますね」

「少々治安維持について意見を聞きたいと思いまして。あ、マリリア、みんなにコーヒーお願いできる?」


 全員を会議室に通して役目を終えたマリリアを呼び止める。


「かしこまりました」

「ああ、俺は砂糖多めで」

「私はミルクも追加でお願いします」

「じゃあ、コーヒーとは別に角砂糖とミルクを持って来てもらえるかしら?」

「かしこまりました」

「それで私たちを集めてどんな用事なんでしょう?」


 トーマスからの質問。


「最近この町で隊商同士の小競り合いが起こっているのはご存じですか?」

「ああ、まあヒトが増えればトラブルも増えるよな。そりゃ仕方ないことだ」

「それと、なぜか泥棒が増えました。まだ万引きや無銭飲食程度で、空き巣とかは無いんですけど」

「ヒトが増えればそういう輩も入ってくるでしょうね」


 みんなすんなり納得するんだな……流石大国に住むだけある。


「むしろこの国が平和過ぎたくらいです。奇跡的な町ですよ」

「まあ人数が少ないですから」


 元々千四百人程度しかいないから、少人数だったのも犯罪が少なかった理由かもしれない。

 町を出歩けば顔見知りに会うしね。


「それで、マーク、トーマス、ウィンダルシア、クリストさんはご存じだと思いますが、先日強盗団による『ゼロ距離ドア』強奪騒ぎがあり、樹の国の捜査官がアルトレリア入りしていました」

「ああ、アルトレリア新聞で見ましたよ」


 そう、あの時はアルトラルサンズ建国後、初めての重大犯罪だったということで、アルトレリア新聞の一面に強盗団のことが掲載された。


「確か一ヶ月くらい前でしたよね?」

「そうです。深夜に起きた騒動だったんですが、強盗団は捕まえて樹の国に引き渡しました」

「そう言えば、あの日地響きもありましたが、あれはもしかして……?」

「コレに関連しています。巨人族の多い強盗団だったので」

「恐いですね……」

「あ! ある朝川の近くを通った時に違和感がある日がありました……そう言えばあの時ドアが無かったような気が……」

「はい、あの日の昼に設置し直しました。あの日の深夜に一度奪われてしまったので、朝通った時に違和感があったんだと思います」

「あれは奪われた後だったんですね……」


「傷害や小競り合いは増加の一途をたどっています……まだ幸いなことに殺人事件に発展した事例はありませんがこのままではそれすら時間の問題です。そこで考えなければいけないところまで来てしまったようです」

「考える? 何を?」

「この国には拘留施設が存在しません」

「ああ! なるほど! そう言えばそうですね! 我々の国では普通に拘束施設が存在しているので気付きませんでした」

「非常に残念なことですが、罪を犯した者を収容しておく施設が必要になって来たと考えられます。皆さんの国と比べてみたら、我が国はどうでしょうか?」


 水の国で尋問官を担当していたトーマスがまず話し出す。


「私はそういった捕まえる部署で働いていましたから、今後を見越しても必要と考えます」


 彼は犯罪者を捕まえて、ごうも……尋問にかける部署に居たからこういうのは詳しそうだ。

 続いてウィンダルシア。


「抑制機関が無ければ、この間のような争い合う事態にもなりかねませんし、私も必要と考えます。この国にも警察組織が存在しているとは言え、捕まえた被疑者を収容しておく場所が無いのでは、捕まえる意味がありません。現状のこの国は小競り合いが起こって警察が治安維持に動いても、小競り合いを起こした者には何のお咎めもありませんから」

「ダイヤラさんはどうでしょうか?」

「今後、アルトラルサンズに訪問者が増えることはあっても減ることは無いでしょう。増加に伴って犯罪者も流入しますし、犯罪を犯す者も増加するのが見込まれます。私の意見も拘留施設は必要と考えます」

「クリストさんはどうですか? 法律関連の知識を修められているということですけど」


 そう、フリアマギアさんの右腕のこのヒト、実は法律関係に明るい。彼女が暴走した(やらかした)時の面倒事を一手に引き受けている苦労人。また、暴走する前のストッパーも兼任している。

 フリアマギアさんは、自分の興味を持った物には研究一直線の性格なのでトラブルにならぬように司法に明るいヒトが傍らに置かれているようだ。


「私も皆さんと同じ意見です。ただ、同時に有罪無罪、罪の軽重を判断する裁判所の設置も必要になってくると思います」


 そっか、罪人を裁くには裁判所も必要なんだ。


 マリリアがコーヒーを持ってきてくれた。みんなの前に配ってくれ、中央に角砂糖の山とミルクポット、おかわり用のコーヒーポットが置かれる。


「ありがとうマリリア」

「はい。では失礼します」


 コーヒーを置いてすぐに出て行った。

 クリストさんが角砂糖を三個コーヒーに放り込み、かき混ぜながら続ける。


「この国の法律はどうなっていますか?」

「お恥ずかしながら、まだ法律というものは定まっていません」

「だとすると、そちらも制定する必要がありますね。裁判官の育成は?」

「うぅ……お恥ずかしながら……」


 法律が無いのだから、裁判官も居るはずもない。

 予想はしていたが、この国で裁判はまだ難しそうだ……


「それはちょっと難しいですね……冤罪が多く出てしまうことが予想されます。考え得るのは適宜、その場その場で精査しながら犯罪を取り締まるくらいでしょうか……」


 冤罪か……カイベルに聞けば、罪を犯したかどうか一発で分かるから冤罪は有り得ないんだけど……

 問題なのは、それを彼らに言うわけにはいかないところ。

 私も冤罪で一度捕まったから、冤罪だけはできる限り避けたいとは思うが……


「でも、裁判所があっても絶対に冤罪にならないってことは無いですよね? 誰しも間違いは起こしますし」

「まあそれはそうですが、それでもそういった機関は調べ上げる能力が高い分、裁判所が有ると無いのでは結果は大きく違ってくると思います。それに法律を元にして罪を判断するので、間違いが起こりにくくなります」


 現在のアルトレリアに法律に詳しいヒトが居るはずもないから、法律関係はカイベルにお願いして作ってもらうくらいしかないか。

 クリストさんにお願いすれば作ってもらえるかもしれないが、法律(この部分)を他国のヒトに任せるわけにもいかないだろう……


「裁判所が無い現状では目の前で明らかに犯罪を犯した者を現行犯逮捕して、数日拘留して反省を促すくらいしかできないですね」

「ところで、現状はどこに拘留してるんだ? 施設は無くても拘留する場所はあるんだろ?」

「警察署内に牢屋がいくつかありますね」


 フィンツさんの質問に署長のマークが答える。


「ただ、それも長くて三日拘留する程度です。ずっと入れておくというわけにはいきませんから」

「何だそりゃ、酔っ払いを泊めておくんじゃないんだぞ?」

「そうは言っても専門の施設がありませんから、新たに入れるには先に入ったヒトを出すしかないですからね……」

「俺が呼ばれた理由は何ですか? 俺は防衛の部分にはタッチしませんが……」


 ダム建設の事後育成で残ってくれたヘンリーさんが疑問を呈す。


「ヘンリーさんはダムという堅牢な施設を作ってますので、もし留置所や刑務所を作るとした時にどうするのが良いか意見を聞きたいと思いまして」

「なるほど。作るとなると留置所は警察施設の近く。刑務所は逃げ難く、かつ一般人が住まない場所が良いでしょう。また軽犯罪者と重大犯罪者によっても扱いが異なります。特に重大犯罪者に対してはアクセスが難しい場所が理想的ですね。脱出できないように孤島や山岳地帯などに作ってしまうのがベストですが、そうするとここからの輸送と管理・監視も中々大変ですからね。それにこれには問題があって、俺のような空を飛べる有翼種族は簡単に脱出できてしまうので、それを縛る魔道具か対応した魔法技術による設備が必要になってきます。もしくは……翼を切断してしまうのも対処法の一つですね。片羽さえ切ってしまえば飛べなくなりますから」

「そ、それはちょっと……残酷ですね……」

「刑務官ではないので詳しくはありませんが、雷の国(わがくに)でも殺人罪などで有罪になった犯人、例えば故意に何人も殺しているような重大犯罪者に適用することがあると聞いたことがあります」


 日本でやったら人権侵害だってうるさく言われそうな対処法だな……

 それに、地球と違って空飛べる種族が居るから、『空』という要素が混じるだけで各段にややこしくなっている……

 そう言えば樹の国には翼を無効化するような魔道具があったな。

 確か……フリアマギアさんが新技術だって言ってたような……いや、新技術は縮小魔法の方だったか? 先日の強盗団の時にも使われたけど、新技術ってことはまだ国家機密に当たりそうだし、流石にあの技術を教えてもらうのは難しいだろう……


「フィンツさん、翼を無効化できる拘束用魔道具って作れますか?」

「ああ、それなら作ったことがある。翼に流れる電気信号を阻害してやれば良いからな」

「それって、例えば私やヘルヘヴン族のように、平常時は翼が見えてなくて、魔力で翼が出現する者でも拘束できますか?」

「無理だな。それはまた別の技術だ。魔力を遮断するために『インバリスト銀石』 (※)って鉱石が必要でな、それを首輪や腕輪に加工して阻害の魔道具とする。だがな、この鉱石、使ったことはあるがこれが結構危ないから俺は持ち合わせていない」

「あ、それ知ってます! 先日の強盗団騒動でも使われたので!」

「なに? 本当か?」

「必要なのは魔力封じの粉の方ですよね?」

「あ、ああ」

「フリアマギアさんにお願いすれば、粉くらいなら融通してくれるかもしれません。どうですかクリストさん!」

「わ、私がこの場で返事をするのは難しいですね」

   (※インバリスト銀石:第523話参照)


 決定権はフリアマギアさんに有りか。


「ところで、ヘンリーが建築関係で呼ばれたってことは、俺もそっち方面で呼ばれたってわけか?」


 ダイクーからの質問。


「そうだね。現地民であるトロルからの意見も欲しかったから、建築方面であなた、防衛方面でマークに来てもらった」


 そしてマークが一言。

 拘束施設についての各キャラの意見はこんな感じで良いですかね?

 ここがおかしいとか、ここをもっと加えた方が良いとか、何かしら意見がある方はコメントいただけるとありがたいです(^^)


 次回は10月10日の投稿を予定しています。

  第569話【拘留施設について その2】

 次話は来週の金曜日投稿予定です。投稿時間は二十一時付近までのいずれかの時間になります。

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