第55話 再び襲来レヴィアタン(『創成魔法』が奪われた!?)
「ところで、あなた随分変わった能力身に着けたのね。あの外にある他の場所と繋がってるドア、アレあなたが作ったものでしょ?」
「まあ、そうね、どうしてもあのドアを作らないといけない事情が出来たから作らざるを得なかったんだけど……」
「本当に!? カマかけてみただけだったんだけど……」
「え……?」
何だ? どれが言っちゃいけないことだったんだ?
「空間魔法系の魔道具って魔界でまだ見つかってないのよ。つまりアレをあなたが作ったってことは……」
しまった! 『ゼロ距離ドア』自体が極秘事項だったのか!?
自分自身でも知らないことだったから、秘密にしなければいけないことにすら気付けなかった!
「あ、あのこれは……」
「相手が私で良かったね。私、口硬いから安心して。とは言え、次に誰かに指摘された時を考えて言い訳を考えておいた方が良いかもね。でも……羨ましいな~、その能力欲しいなぁ~」
「取れるもんなら取ってみたら?」
なんて、全属性使用可能特典だから、おいそれと修得は出来ないと思うけど……
そう考えると、私のは転生当時からあるから、本当に『特典』って感じね。
「あ~あ、言っちゃった」
「えっ? 何を?」
その直後に私の周りに光が現れ、その光がレヴィアタンに吸収された。
「あなたの能力『創成魔法』っていうのね、今貰っちゃった」
「えっ!? どういうこと!?」
「私の大罪スキル『駄々っ子』は、私が少しでも嫉妬して欲しいと言ったものを、相手が少しでも了承すると奪えちゃうのよ。それが物でも能力でも……命でもね」
しまった、魔王にはそんな能力があったのか…!!
ホントだ使えない!
まずい、最重要スキルを奪われた!
どうする!? なるべくなら魔王と事を荒立てたくない! しかも女王様だし!
下手したら国との全面戦争に……私個人で済めば良いけど、そんなことになったらトロル村のヒトたちの命まで脅かされちゃう! でも彼女を倒したからと言って『創成魔法』が戻ってくる保証は無い!
そもそも魔王は別格だって言ってたし倒せるのか?
でもこの能力を奪われたら今後の集落の発展に支障があるかも!!
かくなる上は――
「お願い! ホンットお願いします! 『創成魔法』返してください! それを奪われちゃうと今後集落のためにやれることの幅が狭くなってしまいます!」
ジャンピング土下座でお願いする。でも敢えて「一生のお願い」は使わない。
「え~、どうしようかなぁ?」
「何卒!!」
「ふふ……冗談冗談、冗談よ。ちょっとビックリさせてあげただけ。私としてもこんな能力一つであなたに嫌われたくはないしね。いいわ、返してあげる。私が返却を了承すれば返してあげられるから、もう一度私に向かって『創成魔法を返して』って言って」
「………………創成魔法を返して」
「いいよ」
その返事を合図に奪われた光がレヴィアタンから返って来た。
ホッ、良かった戻って来た……
あ~~ビックリしたぁ……
でも、こんな便利な能力を簡単に返してくれたってことは、ベルゼビュートだった頃は随分親密な関係だったみたいね。
「でも二度目は無いから注意してね。それから同じようにスキルを奪うことができる能力も存在するかもしれないから気を付けてね。まあ私のもののように強制力が強いのはほぼ存在しないと思うけど」
まだそれほど使うシーンは無かったけど無くなるのは絶対に不便だし。
『ゼロ距離ドア』や『死生審判の門』を作った時みたいに、他の魔法で代用できないことも存在する。
「その『駄々っ子』の能力って自動発動なの?」
「そうよ、だから返事する時には気を付けて」
「そんな能力の根幹に関する能力を他人にしゃべっちゃって大丈夫なの?」
「まあ……そうね、あなたは裏切らないと思ってるから」
「でも、私は以前のベルゼビュートとは違うのよ?」
「大丈夫、私勘が良いのよ。でもこの能力の詳細を知ってるヒトは少ないから他言無用にお願いね。魔王で知ってるのはあなたと、あともう一人だけだから」
もう一人はきっと雷の国の魔王かな。何で私がそんなに信用されてるのかわからないけど……
自動発動って、本人的にも不便じゃないのかな?
でも、この『駄々っ子』の能力って、かなりの初見殺しよね。特に自信満々な相手に対しては。
例えばレヴィアタンが「あなた強いから〇〇に仕えさせておくのは勿体ないわ。私の部下にならない?」なんて言ったとする、相手が強さに自信を持ってる相手なら「俺を倒せたらお前の手足となって働いてやるよ」などと言ったとする。もうこれだけでレヴィアタンは〇〇に対して嫉妬の感情を向け、彼は『少しの了承』をしていることになるから部下にならざるを得ないわけだ。心まで元の主人を離れるのかはわからないけど、何せ『命』まで『嫉妬』と『少しの了承』だけで取り上げられる能力だから心ぐらいは変えられるのかもしれない。
逆に警戒心が高い相手にはちょっと難しい能力かも。
どちらかと言ったら『強欲』に近い気がするけど、「目の前の相手or対象を所持している者を『嫉妬する』」ってところが能力発動のキーってとこかな?
多分今私が考えたセリフも上の句の「あなた強いから〇〇に仕えさせておくのは勿体ないわ」を言わずに下の句の「私の部下にならない?」だけでは部下に出来ないんじゃないかと思う。
大罪スキルってことは、ベルゼビュートである私にもあるのかな?
「ねぇ……その大罪スキルって私にもあったりするの?」
「他人の能力だから私も詳しく知ってるわけじゃないけど『食べ奪う』ってスキルを持ってたよ。確か『喰らった相手の能力を使えるようになる』だったかな。あと『喰らった相手に変身できる能力』もあったと思う」
相手を喰らわないといけないのか……物騒な能力だな……じゃあ言葉しゃべる生物は食べたくないし、フル活用することは無さそうだ。
「それを奪おうとは思わなかったの?」
「付き合いが浅い時は思ったよ、凄く便利だと思ったし。でも七つの大罪って宿主になっていると、二つ目の宿主にはなれないからね。あと七つの大罪同士の能力は通じないことが多い」
へぇ~、そうなのか。堕天使同士が喧嘩でもするのかな?
「でもベルゼビュートは、この能力ほとんど使わなかったのよね。言葉をしゃべる生物は一切口にしなかったと思う」
悪魔らしくないな。でもヒトを食べなかったってところは好感が持てる。レヴィアタンが親しくしてくれてるのも、こういうところがあってのことかもしれない。
ってことは、私は今まで喰らったガルムやカトブレパスに変身できるってことか。
「あ、でもちょっと待って、私ってここ来る前に二回転生してるけど、まだ七つの大罪の宿主になっているもんなの?」
「あっ…………それもそうね。確かに死んだら別の者に移るんだった。死んだ時に近くにいる者の中で最も強い者に移宿するはずだから……あなたが死んだ時の記憶があればわかるんだけど……」
前々世の記憶すら無いのに、そんなのわかるわけないから困るな……
以前オルシンジテンで、私のステータス照会した時も『食べ奪う』ってスキルは持ってなかったから、多分今の私には無いのだろう。
「私の能力の一つに『スキルドレイン』っていう相手のスキルをコピーして修得する能力があるんだけど……」
「何その能力欲しい!」
「あげないよ。これって私が適当に思い付きで使った魔法だったから、魔法使えるヒトみんなが使えるのかと思ってたんだけど……」
「そんなわけない! そんな能力あったら便利過ぎてみんなが使ってるはずよ」
確かにそうよね……自分の首が三つになる能力とか意味がわからないし……
「多分それは七つの大罪『暴食』の一部じゃないかな。元々の所持者だから今でも薄い繋がりがあるのかもしれないね。もしかしてその強さも繋がりの一つなんじゃない? 元の魔力を持って転生してきた魔王はお目にかかったことがないからそれも私の予想の範囲でしかないけど……」
そうなのかな?
でもそれだけじゃない気がする……あの『神の恩寵』ってのを見る限り。 (第7話参照)
「じゃあ今は『暴食』を誰が持ってるの?」
「………………そういえば誰が持ってるんだろ? アスタロトは持ってなかったみたいだから、別の誰かが持ってるんだろうけど……」
「七つの大罪を宿主にしてる人が次の王様なんじゃないの?」
「そのはずなんだけど……前々世のあなたが死んだ後にも何度か会ってるけど、アスタロトはずっと王様代理だって言ってた。アスタロトが宿主になってるなら名前もベルゼビュートに変えてるはずだし……もしかしたら国の中に持ってる人がいないのかも……」
「まさか……行方不明? 約三十年も!?」
「風の国の大罪だから私が関知することじゃなかったし……それはもうアスタロトに聞いてもらうしか……」
別の誰かが持ってたら、そいつは『暴食』をフルに使って被害を与えてる可能性もあるんじゃ……
極端な話、ヒトではなく獣や虫なんかに宿っていることはないのか? 宿ってたらどうなるんだ? ヒトが使うよりよほど危険なんじゃないだろうか? 三十年も行方不明ってところを考えると、ヒト以外が持ってる可能性は十分にある。
それはアスタロトってヒトと会った時に聞いてみることにしよう。
「じゃあ魔王全員がそれぞれ七つの大罪を持ってるの?」
「持ってるよ。ただ、必ずしも所持者のメリットになるスキルばかりではないみたいだけどね。さっき言った土の国はヴェルフェゴールの大罪スキル『真価の眠り』で国が停滞してしまうらしいし」