第558話 『旅の恥はかき捨て』って言うけどそうはいかない!
少し経って――
みんな各々ドレスアップ。
「アルトラ、どうダ?」
「お~、可愛い可愛い!」
『私はどう!?』
「良いね! 可愛い可愛い!」
「雑な感想だな……」
横で聞いていたフレアハルトからの横やり。
「あら、可愛いことに変わりはないでしょ?」
二人共まだまだ小さくて可愛い。
まあ……リディアに至っては真の姿は私より遥かに大きいし、ネッココはこれ以上成長しないのだが……
「アルトラ様は普段のお姿と違って新鮮ですね。白が映えます!」
リナさんからお褒めの言葉。
「ありがとう! リナさんも綺麗だよ! 流石マーメイド!」
「我はどうだ?」
「俺っちはどうッスか?」
普段ダラっとしているが、フォーマル過ぎないスマートカジュアルで、髪の毛も整えられてきちんと決まっている。
「うん、二人共カッコいいよ! きちんとしてる!」
「そうであろうそうであろう?」
「やっぱそうッスか? 自分でもそう思ってたんスよ!」
おだてたらすぐ鼻を高くするんだから。
「普段のダラけた姿が嘘のよう!」
「最後の一言はいらないッスね……」
「普段ダラけてるのはお主もだろ。我があくせく肉体労働しておるのに、商店街の茶屋で団子やカフェテラスでケーキをつまんでるのをよく目にするぞ? ボーッと茶をすすりおって」
「俺っちが通りかかった時には、三色団子とみたらし団子が樹の国で見たピラミッドみたいに山のように積み重なってるのを見たッス!」
う……あれら見られてたのか……
「べ、別に良いでしょ……パトロール終わった後に行ってるんだから……」
「……お主……また太るぞ?」 (第434話から第437話参照)
「まだ太ってないし! と、糖分補給しないと頭が回らないから食べに行ってるのよ! ただでさえ外国との交流やら書類やら増えて頭使う機会が増えたんだし」
『暴食』の大罪を継承したからもう太らないだろうし。
「さて皆様、準備はよろしいですか?」
みんな装いも新たに、ブティックを出て――
◇
――再びヒュプノグランドホテルに舞い戻る。
煌びやかなロビー。
こんなのは水の国でホテルに泊まろうとした時以来だ。
「すげぇッスね!」
「アルトラアルトラ! ああいう電灯はうちに付けないのカ?」
リディアが指さしたのは吹き抜けとなった遥か天井にある豪奢なシャンデリア。
フレアハルトたちと言い (第411話参照)、リディアと言い、すぐにシャンデリアに目が行くのね。
「あれがうちに入ると思う?」
平屋建てで床から天井まで二メートルちょっとしかない我が家に、シャンデリアなんか絶対に入らない。きっと電気代だってトンデモなく上がるだろう。
「…………よく考えたら邪魔だナ」
『ここも二階があるのね! あの階段、私上がって行けるかしら!?』
低身長のネッココでは上るのが大変そうである。何せ人間の赤ちゃんほどの背の高さしかないし。
「あ、大丈夫ですよ。ここにはエレベーターもありますから」
リナさんが階段以外の手段を提示する。
『えれべーたー!? 何なのソレ!? アルトレリアにもあるの!?』
「私が知る限りはまだ無いみたいですねぇ。箱の中に乗って上の階まで運んでくれる乗り物なんですよ」
『箱!? 段ボールに入ってるお野菜みたいに運ぶのかしら!?』
ネッココの真の姿は大根に似てるから、彼女が段ボール入ったら本当にお野菜運んでるかのようになってしまうな……
「いえ、お部屋みたいな大きい箱に入って運んでもらうんですよ」
『そんな大きい箱なんて見たことないから分からないわ! 早く行ってみましょ!』
リナさんを急かしているが、すぐに私が制止する。
「ちょっと待って、まだタナカさんが来ないから」
タナカさんには各部屋の鍵を取りに行ってもらってる。
そして、気付いたらフレアハルトとナナトスまでもが近くに居ない。見回してみるといつの間にか椅子の置いてある待機場所に座っていた。
「すげぇ良い素材の椅子ッスね!」
「これはいつもよりダラけてしまうな」
背もたれに斜めに座ってダラっとしている。
まるで溶けるかのようにどんどんと体勢が沈んでいく。
そして、当然お金持ちの宿泊客が多いから、あるヒトには白い目で見られ、またあるヒトには嘲笑めいた笑い方をされている……
「あれはちょっと……みっともないな……」
急いで二人に近付いてお小言。
「ちょっと二人とも! まだダラっとして良い場所じゃないから普通に背筋伸ばして座っておいて! 恥ずかしいから!」
せっかくきちっとした服を着て来たのに、お上りさん丸出しだ……
「『旅の恥はかき捨て』なのだろ?」
「かき捨てかき捨てッス~」
電車の時からなあなあだし、これ以上ダラけられても困る。一度〆ておくか……
「…………あんたたちいい加減にしなさいよ……?」
二人の目の前に右拳を握りしめ、ちょっとだけ魔力に殺気を込める。
「おぉ……」
「ひぃッ……!」
「リディアとネッココを見てみなさいよ! 子供ですら背筋伸ばしてきちんと待ってるのに!」
リディアとネッココは姿勢良くきちっと立ったまま待機。
「節度を持って!」
「お、おぅ……すまぬ、少し調子に乗った……」
「ごめんなさいッス……」
「私だって無闇に叱りたくないんだから! 次に一回で聞き分けなかったら【強制転移】でアルトレリアに強制送還だからね! その際は今あんたたちが着ている服の代金は請求するから! その服結構高いからね?」
「「 わ、分かった…… 」」
全く……年下のナナトスはまだしも、何で私が二百歳近くも年上のフレアハルトを叱らないといけないの……?
そんなことを考えていたところ、ナナトスがそそくさと椅子から立ち上がってリディアたちに近付いて行く。聞き耳を立ててみると……
「リディアとネッココはちゃんとしてるッスね」
「アルトラ、やったらいけないこととカ、やったら恥ずかしいことには厳しいからナ」
「家でもあんな感じなんスか?」
『私ももう慣れたのよ!』
「…………ホント、オカンみたいッスね……」
ナナトスの言うように、またお母さん度が増してしまったかもな……まだ未婚なのに……
でも、カイベルは二人に注意まではするけど、絶対に叱らないから私がお小言を言うしかないからね……
少しするとタナカさんが戻って来た。
「お待たせいたしました。何か騒がしかったようですが、どうかしましたか?」
「いえ……お構いなく……」
内輪のかき捨てられる恥の話ですので……
「では、アルトラ殿とお三方は504号室、フレアハルトさんとナナトスさんは505号室、リナさんは506号室ですね」
カードキーを渡された。
「なんスかコレ? カードなんじゃないッスか? これを渡されてどうしろと?」
「我らは『部屋の鍵を取りに行ってる』と聞いたが?」
「それ、部屋の鍵になってるから、無くさないように気を付けてね」
まあ……万が一無くしてもカイベルにお願いすればすぐ見つかるけれど……
「鍵だと!? これがか!? 我らが知ってるものと大分形状が違うぞ?」
「どう見てもカードじゃないッスか! 俺っちたちが知ってるのは複雑な形した金属の棒ッスよ?」
「電子ロックって言ってね、樹の国で泊まったホテルよりも高度な技術なんだよ」
「こんなカードでどうやって鍵かけるんスか? これをどうすれば良いんスか?」
システムによって違うが……電子技術は地球より少し遅れてるわけだから、ここで予想されることと言えば……
「多分ドアにカード挿す穴があるだろうから、そこへ挿せばロックのオンオフができると思うよ」
「へぇ~、うちとは技術が違うッスね……」
うちも近いうちにそうなるよ、きっと。ドワーフさんもうちの職人も優秀ですしおすし。
「あ、そうそう、部屋に入ったらカードキーを入れるところがあると思うからそこへ置いてね。それで電気が点けられるようになると思うから」
「言ってる意味が分からんのだが……」
「何でカード入れたら電気が点くんスか?」
「カードを入れると電気を使えられるようになる回路が作動するようになるのよ」
「う、うん、まあ見てみるッス」
一通り鍵の説明が終わると、タナカさんが発言。
「私は510号室におりますので、何か御入用の場合は部屋までお越しください。夕御飯は十八時から二十一時の間で、地下一階のレストランにてビュッフェスタイルとなります」
「『ビュッフェ』とはなんだ?」
「自分で好きな物取って食べるスタイルのこと」
「ああ、アルトレリアでもやったことあったッスね」 (第175話参照)
「じゃあ部屋へ行きましょうか」
一階のエレベーターまで移動。
『リナ! これが“えれべーたー”なの!?』
「そうですよ」
『行き止まりじゃない! どれが箱なの!? どこにあるの!?』
「今箱の中に入ってるんですよ」
『今箱に入ってる!?』
「この部屋が箱なんですよ」
『言ってる意味が分からないわ……!』
「まあちょっとじっとしてなさいって、後で絵に描いて説明してあげるから」
「五階へ参ります」
五階へ着き、扉が開くと――
「「「『 えっ!? |どういうことなの!?《|どういうことッスか!?《なんでダ!?》》 』」」」
入って出ただけなのに変わった景色に驚くネッココ、リディア、ナナトス、フレアハルトの四人。
「どうなっておるのだ……? さっきと違う場所ではないか……」
エレベーターの仕組みを知らないヒトを連れて乗ると面白いな~。
「この部屋と扉は別々になってて、部屋だけが上下に移動するようになってるのよ」
「ん? つまり部屋自体が動いておるということか? 我らは下から上に上がっただけ?」
「そういうこと」
「なるほど、だから入った時と出た時で場所が違うのだな……アルトレリアの外にはこんなものがあるのか」
「さ、ドア閉まっちゃう、早くみんな下りて」
ゾロゾロとエレベーターの外へ。
外に出た途端にネッココが目を輝かせ、私を見上げてこんなことを言い始めた。
『うちにも作りましょうよアルトラ!』
「うちには二階が無いでしょ……平屋のどこにエレベーター設置するの……」
が、リディアがそれに呼応する。
「もうそろそろボロくなってるシ、あの家も建て替えのタイミングじゃないのカ?」
『そうよそうよ! アルトラは頑丈だから良いけど、私やリディアやカイベルは倒壊したらぺちゃんこになっちゃうんだから!』
「う……あなたたちよく見てるのねぇ……そんなにガタが来てるの?」
『だってたまにカイベルが補修しに外に出て来るもの!』
それを聞いたカイベルまでが口を出す。
「補修にも限度があります。アルトラ邸に使われている建築資材も耐久できないところまで来ている部分が出てきていますし、そろそろ建て替え時かと」
「耐久できない部分って……じゃあ、そこはどう処理したの?」
「私が取り替えました」
じゃあ、最初の頃と資材が入れ替わってるのか……
カイベルがそこまで言うとなると本当に倒壊するかもしれない……
樹魔法と土魔法で作った時に半年くらいで倒壊するかもしれないって予想して、もう一年以上だもんな……そろそろドワーフさんに新築をお願いする時か…………いや、良いタイミングだからダイクーにお願いするか。これなら間接的にサントスにも利益が行くし、ナナトスへの義理も通せる。
まあ……仮に新築するにしてもエレベーターは付けないが……
「それよりもさっさと部屋へ行きましょう。え~と504号室は……あ、あったわ」
「じゃあ俺っちたち隣なんで、このカードをどうすれば良いんスか?」
「カードを入れられそうな穴が無い? そこに入れるだけで開くから」
「お、これッスね!」
ピッという音でロック解除の音が聞こえる。
「では私も」
「じゃあ十九時にご飯に行きましょうか」
ナナトスとフレアハルト、リナさん、タナカさんがそれぞれの部屋へ入って行く。
私たち四人も504号室へ。
大きいベッドが三つ設えられた洋風の部屋。室内にも絨毯が敷かれている。
「リディアここが良イ!」
といち早くベッドを占領。
『アルトラ、私の寝床も出しておいて!』
物質魔法で土がこぼれないように囲いを作り、その中に鉢を置く。
「あ、ホテルでは鉢から出る時に声かけてよ? 足拭いとかないと絨毯汚しちゃうから」
絨毯に土なんか落としたらカイベルの仕事増やしちゃうことになるし。
『分かったわ!』
「服脱いで良イ? この服ピシッとしてて苦しイ……」
「良いよ」
と言ったところ二人共借りた服を脱ぎ散らかす。
いつも通り、リディアは自身の身体を変形させて作った服に、ネッココは闇のドレスになった。
脱ぎ散らかした服をカイベルが伸ばしてハンガーにかける。
そんな中、リディアが大きめのテレビに注目する。
「あ! これ前に見たことあル! これテレビだったよナ?」
雷の国で見たものとソックリなブラウン管テレビが置いてある。
しかし、テレビを付けるも……
「アルトラ~、テレビあるけど白黒で面白くないゾ……」
以前、雷の国でも同じようなこと言ってたな…… (第126話参照)
土の国、つい先日テレビ放送が始まったばかりよ? (第418話参照)
置いてあるだけ上等だと思うけど……
『いつもの【千里眼】で地球のテレビ見せてよ!』
「ダメ」
『なんでよ!』
「出先では、誰が来るか分からないからダメ。いつも口を酸っぱくして言ってるでしょ? アルトレリアの住民にすら、このことは言っちゃダメだって。見るなら誰も来なくなる夕御飯後だね」
「あ! 一つ思いついタ! カイベルなら誰か来るのが察知できるんじゃないカ?」
もう一緒に生活して大分長いから、カイベルの察知能力の高さには流石に気付いてきてるらしいな……
「ふぅ……仕方ない……カイベル、誰か来る気配があったらすぐ知らせて。リディアにネッココ、誰か来たら即座に魔法消すからね」
「わかっタ」
『分かったわ!』
【千里眼】でアニメを見せる。
私は久しぶりにフィギュア製作。
今回はフォルムが簡単そうなネッココの真の姿でも作ろうか。大根に似てるから不器用な私でもそうそう失敗しないだろ。
以前はカイベル作って、リディアに「左からひっぱたいたようだ」と評されたから、今回は簡単なものを。 (第136話参照)
近々アルトラ邸も建て替えですかね……
次回は8月1日の投稿を予定しています。
第559話【白黒テレビと異食文化】
次話は来週の金曜日投稿予定です。投稿時間は二十一時付近までのいずれかの時間になります。




