表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~  作者: ヒロノF
第19章 土の国ヒュプノベルフェ探訪・アルトラの解呪編
567/583

第557話 後乗り組と合流

 再び電車に乗って着いたのは、豪勢なお宿『ヒュプノグランドホテル』。


「おお~~!! ここに泊まれるんスか!?」

「凄いではないか! 火の国で泊まった宿とは段違いに煌びやかだぞ?」

「俺っちなんか森の中の小屋でシンプルに雑魚寝だったッスからね~。まあ首都で泊まったところはそれなりだったッスけど」


 喜ぶ二人と、それとは対照的にテンションが下がる者が居た。


 私である。

 こんな豪華なところなんて聞いてないぞ?

 かなりお高いんじゃ……?


「……タ、タナカさん、予算は抑えめでって言いましたよね? こ、これって日本じゃどう見たって一泊数万円から数十万円するところじゃないですか……!?」

「……お忍びとは言え、仮にも国家元首をお泊めするわけですから粗末な宿にご案内するわけにはまいりません」

「……しかし……」

「……大丈夫ですよ。外交名目で予算が下りてますから」


 それはそれで、そっちの税金使うんじゃないのか……?

 私としては素泊まりでも慣れてるくらいだから、それで良かったのに……


「ただ……お忍びということですので、流石に数百万するお部屋とはいきませんが……」

「いえいえいえいえいえいえいえいえ!!! じゅ、十分です!! 十分過ぎます!!」


 数百万の部屋なんて用意されたら申し訳ないどころじゃない!

 そんなとこ用意されたら、部屋の備品壊しゃしないかと一歩も動けんよ……


「……それと“()”から『アルトラルサンズの国家元首を優遇するように』とお達しを受けていますから。もっと言ってしまうと『アルトラ殿を優遇するように』と」


 何でピンポイントで私を名指ししてるんだ?

 私がここに来ようと思ったのなんて、最近の話なのに……


「ド、ドレスコードは?」

「ございます。ブティックを用意しましたのでそちらでお着替えください」


 やっぱりあるんだね、ドレスコード……そりゃそうか。高級ホテルだしね……


「何スか? ドレスコードって?」

「ホテルに入るのに『相応しい服を着て来てくださいね』ってこと」

「え!? 宿泊するだけなのに入っちゃダメな服があるんスか!?」

「着替えねばならんのか? まさか……七大国会談のような服装か?」 (第222話参照)


 あの時はフォーマルでありつつ、有事の時に防衛に転化できるように戦闘スタイルも取り入れたんだったっけ。


「あんなに戦闘を想定したスタイルじゃないけど、それなりにきちっとした服装をってことだね。タキシードとまではいかないけど、ジャケット着たりとか。今のあんたたちみたいな山も歩けるような冒険者スタイルはダメ」

「服の名前言われたところで分からないんスけど……」

「砂漠の宿は普段の服装で良かったではないか!」

「あの場所は生き死にがかかってる中継地点だからね。あそこで『ドレスコードを満たしていないので泊まれません』なんて言われたら死ぬ可能性があるし。ここは格式高いホテルだからそういうのがあるんだよ」

「面倒だ!」


 普段は自身のウロコを変化させて服にしてるから、わざわざ着なきゃいけない服は面倒なんだろうな……


「あっそ、じゃあフレアハルトは残念だけどここには泊まれないから、宿探さなきゃね。ああ残念だなぁ……きっと美味しい物も食べられるんだろうけどなぁ……お部屋もきっと豪勢なんだろうなぁ……」

「ぬぅ……お主は我の扱いを心得てきておるな……」

「もう付き合いもしばらく経つしね」

「俺っち、この服装しか持ってないッスけど……」

「ブティックで貸してくれるって言うから大丈夫よ」


 一通り話も終わったため、さっきタナカさんが言っていた引っかかった点をカイベルに訊ねてみる。


「……ねえカイベル、何で私が土の国から名指しされてるの?」

「……現時点では禁則事項に抵触します」

「は!? 何で!? こんな世間話程度のことが!?」


 と大声を出してしまったため、注目されてしまった。


「どうしたアルトラ? そんな大声出して」

「何かトラブルでもあったッスか?」

「い、いや……何でもない……」


 な、何で何でもないかのような話が禁則事項に? それにタナカさんが言ってた『()』ってなに? 王ではなく『()』?

 同郷のよしみでタナカさんのことは信用しているが……何だかモヤモヤするわ……

 そういえば……土の国のヒトたちは以前から、まるで先を見通しているような発言があったような気が…… (第293話参照。また、アルトラはやり取りを知りませんが第466話、第474話などを参照)

 もしかしたら、未来予知できるヒトがいるとか? それが『()』とかいう存在?

 だから私を優遇? 何のための優遇だ? また疑似太陽関連とか? 向こうからそういった接触が無いから分からないわ……


 ……

 …………

 ………………


 …………まあ……考えても仕方ないし、トラブルが起きた時に対処すれば良い。今回はお高めな宿を用意してくれたのだから素直に楽しまないと損か。


   ◇


 と言う訳でブティックへ行くことになったのだが。

 その前にタナカさんから追加人数についての質問。


「アルトラ殿、ムラマサ寺院後から合流される方が居るとの話ですが、追加されるのは何人になりますか?」

「あ、そうか泊まるのに人数を確定させないといけないんですね」


 このタイミングでリディアたちを呼びに行くか。ネッココから『並ぶの終わったら呼べ』って言われてるし。


「じゃあちょっと呼びに行って来ますんで、少し待ってもらえますか?」

「分かりました」


 フレアハルトとナナトスはブティックに設えられた椅子に座ってくつろいでいる。

 カイベルはその近くで(たたず)む。

 全員に近付いて聞こえるように言葉を発した。


「みんな、ちょっと席を外すね。あなたたちはホテル用の衣装を選んでおいて」

「トイレか?」

「う〇こッスか?」

「…………だとしたら、わざわざあんたたちが聞いてるところで言わんわい……」


   ◇


 【ゲート】で一時アルトレリアに帰還。

 リナさんの家の前に来た。


 コンコンコン


「はい? あ、アルトラ様、お二人を迎えにいらしたんですね」


 と玄関先に出て来たのは三人居るリナさん専属メイドの一人・ドリーさん。 (メイドについては第178話参照)


「リディアとネッココはもう来てる?」


 今日のところはリナさん宅に預かってもらうということで、我が家ではなくリナさん宅に来ることになっている。

 現在十七時を回った頃、もう明日は十二月だから外は大分暗め。子供はそろそろ家に帰っている時間だが……

 まだ来てない場合は捜しに行かないといけない。


「いらっしゃってますよ。リディア様、ネッココ様! アルトラ様がいらっしゃいましたよ~!」


 リナさんの家は、簡素ながらもアルトレリアでは珍しい二階建てで建築された住居。ドワーフさんたちを引き連れて、この地に静養に来た時に二階建ては譲らなかったらしい。

 主にリナさんの生活スペースが二階に、ダイニングやキッチン、メイドたちに関連する部屋が一階にあるそうだ。


 数秒玄関で待つ。

 するとリディアが二階から駆け降りて来た。


「やっと来たナ! 待ってたゾ!」


 後から慎重に階段を下りて来るネッココ。ネッココの身長 (五十一.七センチ)では、駆け下りるのは難しいらしい。無理に走って下りようとすると多分転げ落ちる。


『随分遅かったじゃない!』

「あ~……ちょっとトラブルがあってね、それの対処に時間がかかっちゃったもんだから。でもネッココは家に居るかもしれないけど、リディアはこの時間にならないと捕まらないでしょ? 日中は町のどこに居るか分からないんだから。時間的にちょうど良かったんじゃない?」

「それで、今から土の国行くのカ?」

「準備してあるでしょ?」

「お~、いつでも行けるぞ」

『あ、私の寝床持って行ってよ!? 私あれが無きゃ眠れないんだから!』

「え!? 寝床っていつも寝る時に使ってる鉢のことだよね!? わざわざ持って行くの!?」


 ネッココが指さした方向を見ると、玄関ドアに引っ掛からない場所に鉢が置いてある。ネッココはいつも我が家でこの鉢に刺さった状態で睡眠を摂る。

 わざわざリナさんの家に持って来てあるとは……

 ネッココの身体の大きさと鉢の重さを考えると、自分で持って来れるわけないから多分リナさんかメイドさんたちが運んでくれたんだな。


『アルトラなら【亜空間収納ポケット】で簡単に持って行けるんじゃないの!?』

「まあそうだけど……」


 庭で寝てるんだから、わざわざ持って行かなくても土さえあれば寝られそうなもんだけど……

 最悪宿の庭にある土でも良さそうだが…………いや、今想像してみたが、ネッココの見た目は小人の亜人だし、亜人が土に埋まってる光景はそれなりのヤバさがある。下手したら何らかの事件として通報されかねない。(ねどこ)は持って行くべきかも。

 まあ現地で鉢買わなくて良くなるから別に良いか。もし【亜空間収納ポケット】の魔法を使えなかったらこんな重くてかさ張る物を持って行くなんて絶対に御免だが……


 ネッココの(ねどこ)を【亜空間収納ポケット】に入れる。

 二人と話していたところリナさんも二階から降りて来た。


「リナさんも準備できてる?」


 この時のために一緒に行くかどうか事前に聞いてある。


「はい、準備OKですよ! エルフィーレさんにお願いしてお休み貰いました!」

「よし! じゃあ行きましょうか」

「今日泊まる予定のホテルは何と言うところなんですか?」

「え~と確か……『ヒュプノグランドホテル』」

「あ、じゃあドレスコードあるところですね」

「流石リナさん、よくご存じで」

「何度か泊まったことがありますから。じゃあドリー、今日明日と旅行行ってくるから家のことよろしくお願いね」

「かしこまりました。行ってらっしゃいませ」

「じゃあ、三人とも準備良いね?」


 ドリーさんをしり目に【ゲート】を開こうとしたところリディアからの質問。


「なあアルトラ~、クリューはどうするんダ? 今日の夕飯大丈夫なのカ?」

「昨日言っておいたし、書置きと温めて食べられるご飯を冷蔵庫に置いて来てるから大丈夫でしょ」


 【ゲート】で土の国の宿へ。


   ◇


「タナカさん、お待たせしました」

「三人追加ですね。お部屋はどうしますか?」


 これだけのホテルなら三人部屋でもそれなりの大きさがあるはず。

 リディアとネッココは小さいから二人で一人分くらいのスペースあれば良いでしょ。最近は寝ぼけて巨大化するってこともしなくなったし、部屋壊すことは無いと思う。

 ネッココは寝床が鉢だから睡眠スペース取らないし。


「四人で三人部屋って泊まれますか?」

「少々お待ちください、聞いてみます」


 すぐに帰って来た。


「四人分支払ってもらえれば特に問題は無いそうです」

「じゃあ、私、リディア、ネッココ、カイベルで三人部屋でお願いします」

「かしこまりました」

「あの……このお支払いってどうなってるんですか?」


 と言うリナさんの質問に――


「わたくしども土の国で持つことになっております」


 ――とタナカさんが答える。


「じゃあ私は自分の分は自分で出します。元々旅行のつもりで来たわけですし、アルトラ様の護衛というわけでもありませんので」

「分かりました」


 タナカさんはホテルへチェックインを済ませに行ってくれた。

 その間に前乗り組と合流。


「アルトラが『ちょっと席を外す』と言ったのはお主らを迎えに行ってたからか」

「おお、待たせたナ! 皆の衆!」


 リディア、何だか時代劇に出てきそうなセリフ回しだな……

 『皆の衆』なんて、現在の日本ではほぼ聞かない。


「待ってるも何も、来ること自体知らなかったッスけど」

『面白いところだけつまみに来たのよ!』

「あの地獄の満員電車を知らずに面白いところだけつまみに来るなんて……そんなことできるなら俺っちもそうしておけば良かったッス……」

「あ~、私も小さい頃話に聞いてます。解呪刀ご開帳当日の電車の混みようは常軌を逸してるそうですしね。私たちの代わりにクジ引きに行ってくれた使用人が大変な目に遭ったと言ってましたよ」


 とリナさん。

 この様子からすると、クジ終わった後に現地入りしたってところか。流石お金持ち。まあお母さん病気なら満員電車なんて乗れるどころの話ではないが……

 さっきの程度で『常軌を逸してる』なら、それを超えていた日本のバブルの時代は何だったのかしらね……?

 世界を見れば日本なんて比じゃないような人数乗ってる国だってあるし……


「リナさんは話に聞いてるだけで経験はしてないんスか? だとしたらあれは一度味わってみるべきだと思うッス」


 何でよ……


「いや! リナさんだけじゃなく、全世界の亜人たちはあれを味わってみるべきだと思うッス! あの苦しみを!」


 初めて経験したナナトスは想像できてないんだろうけど、そこで生活するヒトはそれを毎日経験してるんだけどな……

 まだゆったり時間の流れるアルトレリアならではの感想という感じだわ。


『その地獄を詳しく話してよ!』

「あれは今朝方の六時頃…… (中略) ……ってわけで、ネッココがその場に居たら踏みつぶされてるかもしれないッスね」


 そう考えると連れて行かなくて正解だったわ。リアルに“圧死アワー”になっていたかもしれない。


「お~、大変だったんだナ……」

『大丈夫よ! 私小さいからカイベルかフレアハルトに肩車してもらうから! ね!?』

「お、おぉ、そうだな……」


 小さいのにフレアハルトたじたじ。多少強引だから言い返せないのかもしれない。

 ネッココはちゃっかりしてる。


 それにしてもコイツら仲良いな。

 私の与り知らんところで、凄く円滑な関係が構築されている。理想的な関係性だ。

 問題なのは、今後色んな国のヒトがもっと沢山流入するだろうから、円滑な人間関係が続けられるかどうかってところだけど……

 地球では残念ながら色々と問題が上がっているからな……最近は日本でも……


「さて、あなたたちも服を決めてもらわないとね。あ……ネッココは土落としてきた?」


 今からお借りする服を土で汚すわけにはいかない。


『大丈夫よ! リナの家に居る時はちゃんと身体洗ってから入ってるわ!』

「だったらうちでもちゃんと洗って入ってほしいんだけど……カイベルが頻繁に土埃を掃除してるよ?」


 ネッココが居候するようになってから、明らかに土埃の量が増えた。昼間は庭の土で寝てるし、夜は(寝床)の土で寝るから……

 庭には花畑に水あげる用の蛇口も置いてあるし、そこで身体洗って入って来てもらえれば良いし。寝床の周りには足洗い場でも置いておこうかしら。


 余談だが、我が家は町から五十キロも離れた山の上に建っている家なので、当然水道が通っていない。

 庭の蛇口から出る水は我が家の横にタンクが設置されていて、そこから汲み上げて使っており、庭だけでなく家の中の台所、トイレ (手洗いだけ)、風呂などにも使われる。

 このタンクには毎朝カイベルが水魔法で水を入れてくれている。

 以前は、川工事の時に創った『潤いの木があるカルデラ湖の湖底に水源がある魔道具』 (第92話参照)を庭に突き刺して使っていたが、これもある意味空間魔法系の魔道具なので、国が開かれた今、誰かに気付かれて騒ぎになる前に普通の蛇口と入れ替えた。


 更に余談だけど、生活排水 (下水)については、魔界に堕とされた初期の頃は山から下界へ捨てていた。 (トイレに限ってはバクテリアが分解してくれるるためその他の生活排水)

 浄化スライムを入手してからは、我が家の下に水路を掘って台所やお風呂で出た生活排水をスライムで浄化し、庭の蛇口へ合流させている。


『じゃあこれからそうするわ!』

「今さらだけどリナさんの家泊まってる時どこで寝てるの?」

『メイドたちに頼んで玄関に(ねどこ)を運んでもらってるわ! 初めての時は庭の花壇で寝させてくれれば良いって言ったんだけど、それだとみんながヘンに思うかもしれないからって止められちゃったから……!』


 あの(ねどこ)って毎回運んでもらってたのか……だとしたら大分迷惑かけてたわ……

 鉢は結構円周あるし、土も入ってるから、大きさとしても重さとしても我が家からえっちらおっちら持って行くのは中々大変だったろう。

 これから預かってもらうのお願いする時は私がきちんと(ねどこ)を持参しよう……


「あ……朝は?」


 寝床が土なんだから朝起きたら土まみれだろう。それはどうしてるのか?


『一旦外に出て、身体を水で洗ってから家に入るわ!』


 ならうちでもやれよ!

 私が特に何も言わなかったからかしら?

 もしくは我が家で生活するうちに気を遣うことを覚えた? 多分うちでの態度は、“習慣化していた”から『土まみれでも(それで)良い』とでも思っていたのだろう。

 『これからそうする』って言ったし、今後はうちでも土落としてから家の中に入って来るようになるだろ。

 ネッココ土まみれって言ってますけど、考えてみれば昔外へ遊びに行く猫飼ってましたけど、土とか落としてくるわけがないんですよね……

 あの頃は家の中土まみれだったのかなぁ……


 OFUSEにて古代遺跡捏造編の第7話『検出された毒は何だった?』を投稿しました。

  『https://ofuse.me/ba6eedd7』の『投稿』タブから誰でも見られます。


 次回は7月25日の投稿を予定しています。

  第558話【『旅の恥はかき捨て』って言うけどそうはいかない!】

 次話は来週の金曜日投稿予定です。投稿時間は二十一時付近までのいずれかの時間になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ