第554話 アリバイ作り
今回この小説の存続に関わるお知らせがあるので、よろしければ後書きまで読んでいただけると幸いです。
「ちょ、ちょっと、何を考えてるの!?」
「アルトラ、フレアハルト、そなたたちにはワシを“盗んだ犯人”として軍に引き渡してもらう。そなたたちが捕まえたことにしてな」
「そ、そんなことしなくても、私が持ってる当たりクジの一回分で相殺するよう交渉するから大丈夫だよ!」
「ほう……あれを当てたのか、そなた相当に運が良いな」
「ま、まぁね……」
本当は私の運ではないのだが……
「否定せんのか? カイベルが当ててくれたものだと」
「ほう、同行してきたメイドが当てたのか。勘が良いというのはそのメイドか?」
せっかく“部下”って濁したのに……
「フレアハルト……私たまにあなたが知ってることとは違うこと言うかもしれないけど、それはその場の作戦の可能性もあるから、その場で問いたださないようにしてもらえる?」
「お、おう……作戦だったのか、すまぬな。了解した」
フレアハルトは言葉そのままに取って、駆け引きが下手なところが玉に瑕よね……正直で良いところではあるんだけど……
「話を戻すが、今回のことは罪人が捕まらなければ丸く収まらん事態になっておるはずじゃ。何せ今から返って来るとは言え、国指定の宝具を一度盗まれておるんじゃからな。現在の血縁上ではフォルクスらとワシには何の繋がりも無い。ワシが捕まることによってその罪はワシだけのものとなる。ここでワシが犯人として捕らえられればフォルクスたちに捜査の手が及ぶことは無いじゃろう」
「罪を一人で引き受けるってこと……?」
「まあそういうことになるかの。数百年離れた遠い子孫とは言え、ワシは子孫どもの生活を守りたい。すまぬがもう少しわがままに付き合ってもらえぬか?」
ここまで言われてしまったら……断れないじゃないか……
「わ、分かったよ。協力する……フレアハルトも良いよね?」
「正直フィンツの身内が助かった後の話は我にはよく分からんし、どうでも良い話だ。お主がそうしたいならお主に従おう」
「手数をかける……そしてフォルクスよ」
「は、はい!」
「そういうことじゃから、そなたは進んで罰を受けようなどと余計な気を起こすなよ? 元はと言えばワシの身体が呪われたことが原因で数百年子孫に迷惑をかけ続けたのじゃから、全ての責はワシにある。そなたたち子孫どもには悪かったと思うておる」
「いえ……」
「ワシにはその贖罪をする義務がある。ワシの気持ちを汲んで黙っていてほしい」
「はい……分かりました……」
納得は……していそうにないな。
自身の罪を他人が被るのを心が咎めるのだろう。
「それにな、そなたが今捕まればフィリアに更なる心労がかかる。せっかく解呪ができてもそれで身体を壊しては元も子もない。良いか? 絶対に自分が関わっていることを誰にも話すな、生涯黙っておれ。フィリアは解呪刀を盗んだことを知るまい、あの子にも秘密にしておいてくれ。知ればあの子の心にもしこりを残してしまうやもしれん。奥方と使用人たちも頼むぞ!」
タマモの強い口調にフィオーナさんと使用人の皆さんが無言で頷く。
「なぁに、ワシは元より樹の国のお尋ね者じゃから、捕まったところで経歴の傷になどならん。それにそなたらならワシの能力を分かっておるじゃろ?」
捕まっても『分解転移ですぐ脱獄できますよ』ってわけか。
でも、これは魔法が封印される前でなければならないが……
「それと、この件を最後にワシはそなたらゴルゼン家と関わるつもりは無い。そのつもりでな」
「そんな……いつ来訪されてもお迎えします……貴女は娘の命の恩人も同然なのですから」
「命の恩人であると同時に、娘を死に追いやろうとした張本人でもある」
「我々はそうは思っておりません!」
「それにな、世界的に名の知られた樹の国三大盗賊の一角が、土の国の有力者と関わりがあると知れたら面倒じゃろ? ワシのためにも、そなたのためにもならん! だからここであったことは一切沈黙を貫き通せ!」
「………………わ、分かりました」
フォルクスさん、渋々ながら納得したらしい。
「……しかし、いつでも歓迎する準備は整えておきますので、秘密裏にでもご訪問いただければ……」
「気持ちだけ受け取っておこう。さてアルトラよ、帰る準備は良いか?」
「いつでも良いよ」
「アルトラ!」
話が一段落してフィンツさんから声がかかった。
「俺は予定通り、明日の二十時に駅に着くようにするからな」
「分かりました」
ムラマサ寺院に【ゲート】を繋げた。
「待て、一度転移魔法を閉じてくれ。その前に一旦第二首都の市役所に寄る」
言われた通り【ゲート】を閉じた。
「何で?」
「先ほど倒したゾンビどもは、何百年も時代を跨いで存在しておった怪物じゃからな。何の報告も無いと突然消えたことを不思議がったり、不安に思ったりする者が出てくるやもしれぬから、市役所にアレらを討伐した旨を伝えておく」
このヒト、本当に盗賊の頭なんだろうか?
エールデさんが義賊のようなことをやってるって言ってたから、盗賊には違いないのかもしれないが……バッチリ世のために働いてるじゃないか。
少なくとも面倒見はかなり良さそうだ。
「分かったよ」
「ではフォルクス、フィオーナ、それと使用人の者ども、達者に暮らせよ。フィリアにもよろしく伝えてくれ」
ゴルゼン家に別れを言った後、
「おお、そうじゃアルトラ、そなたに礼をせねばな。ここでは都合が悪いからまずは敷地を出よう」
◇
ゴルゼン家の敷地を出て、屋敷近辺に生えた林に入る。
「それでどんなお礼をしてくれるの? 敷地を出たってことはゴルゼン家に秘密にすることなの?」
「いや、そうではないが少々重いもの故に敷地内ではどうかと思うての。今回協力してくれた礼として、これをそなたに渡しておこう」
その場で結構大きめのキツネの石像を作り出し、ドンッと置かれた。
「な、なにこれ?」
狛犬ならぬ、狛狐といった風貌の石像。
こんな重そうなもん貰ってどうしろと……?
「今ワシの物質魔法で作った。地球の神社にはこのようなものを飾っておると聞いたことがある。アルトレリアの高台には魔界では珍しい『神社』があるそうじゃの? その土地内にでも飾っておけ。最近タイランテスのとこの強盗団に狙われたと聞いておるし、もしもの有事の際にはワシと部下が駆け付けよう」
「あ、ありがと……有事に駆け付けてくれるのは助かるわ」
『悪巨人強盗団』のことも知ってるって、もしかしてアルトレリアに霊獣旅団の団員が常駐してるのかしら……?
常に同じ魔力が周囲に居るってわけではないから、監視されてるとか、|私の後を付いて回られてる《ストーキングされてる》って可能性は無いと思うけど……
だが、タマモの性格は今回のことでちょっとだけ理解できた。彼女は盗賊とは言え、義理人情に厚く他人を陥れるタイプの性格ではないと思う。
仮に団員が町内に常駐していたとしても、害にならないうちは特定したりする必要は無いだろう。
『神社の土地内 (多分境内のこと)に飾っておけ』、『有事の際は駆け付ける』って言うけど、この狛狐に何か状況を知り得るような仕掛けでもあるのかしら?
どんな仕掛けかは分からないが、強力な戦力が少ないアルトレリアに有事があった際に駆け付けてくれるのは助かる。
そんなことが無いのが一番だが、現状で警戒しなければならない大国が二つあるのは確かだし。
「これ貰ったところで、どうやってあなたに有事を伝えるの?」
「ワシの爪を分解して、ワシへの魔力伝達器官として練り込んだ。これに触れて状況を話してくれればワシに伝わる。神社の者にでも教えておけば良いじゃろ」
そうなると、このヒト九尾の狐だし、何だか本当に狐の守り神みたいだな……
「な、なるほど、それは心強いわ。ありがとう」
狛狐を持ち上げて、【亜空間収納ポケット】に収納しようとしたところ……
「重たっ!」
目の前で簡単に作ったから軽めなものかと思ったら、普通に石像だ……私の力じゃビクともしない。
「多分五百キロくらいあると思うぞ?」
「え!? こんなに小さいのに!?」
高さ一メートルも無いのに……石像って重いのね……
「そりゃ持ち上がらんわ……筋力強化使ってもかなり厳しい、フレアハルトお願い」
「分かった」
【亜空間収納ポケット】に押し込んで収納完了。
「ありがと。あ、悪いけど取り出す時にもう一回お願い」
「あ、ああ……そうだな」
でも、これを貰ったことによって神社に彩りを添えられるわ。
「それと今回のことに少し関連していることを一つ伝えておくことがある。この世界にはアンデッドを使役する魔人が居るらしい」
「えっ? 濃度地帯でしか発生しないのにどうやって?」
「さあの、まだ直に確認したことはないから詳細は分からん。そういう者が居るということを聞いたことがあるだけじゃ。もし敵対するようなことがあったら注意しておけ」
さっき大蛇と戦ってた時には自我を持つアンデッドが居るかもしれないって言ってて、今度はアンデッドを使役する魔人の話か……
今まで訪問したどの国でもまだ見たことないが、私が行った国はどこも戦時中ではなかったからそういった能力を目にすることが無かったのかもしれない。戦争でも起きなければ遭遇する可能性は低そうだ。
「さて、ではルガイアへ行こう。ワシは先に行っておくから、後で来てくれ」
「何でよ? 一緒に【ゲート】で行けば良いじゃない……」
さっきから回りくどいな……何のために別々に行く意味があるのか……
「ゴルゼン家に迷惑が行かないように少々アリバイ作りが必要なのでな、そなたらと一緒に移動して来たところを見られるのは都合が悪いのじゃ」
何か考えがあるらしいが、私には訳が分からない……
「ああ、それと『祓魔の鉄』の力はワシが使ったことにして、もう使われた後だったこととしてくれ。そなたが使ったことにすると『ワシが単独犯である』ということと辻褄が合わん」
「でもあなた光魔法使えないじゃない。もし冤罪回避のために使ってみせてくれとか言われたらどうするの?」
「一度そなたが起動したのを見ておるからな、物質の精霊のワシなら光る粒子を使って似たような現象に見せかけることができる。その刀には回数制限があるから実際に解呪して見せろとまでは言わんだろうしの。誤魔化しようはいくらでもあるから心配するな」
物質の精霊って応用力高いな。
「それと市役所で討伐報告するのに、本名では発覚すると後々面倒じゃろうから偽名で討伐報告しておく。何が良いかの?」
「じゃあ『カイ』で」
「我は『フレハル』で良い」
「了解した、ではワシが行った後、少ししたら来てくれ。そうさの……五分か十分後に来てくれれば良い」
「本当に出頭するの?」
「それが一番リスクが少ない」
そう言い残して分解転移で消えた。
「アルトラ……何の話だったのだ? 我には訳が分からないぞ? アリバイとは何だ?」
「さあ……? 私にもほとんど分からないわ……まあ、私たちは市役所の場所分からないし、とりあえずルガイアまで転移して市役所の場所を探しながら行きましょうか」
◇
ルガイアの市役所前――
【ゲート】でルガイア市内に転移してきた上で、通行人に道を尋ねつつ市役所に着いた。
「遅かったな。討伐報告は終わった、これで混乱も起きんはずじゃ。ではムラマサ寺院へ向かおう」
再びキツネの面を付けている。
「何でお面を付けてるの?」
「キツネ面の人物が盗んで行ったのだから、同じ格好をしていなければ不自然じゃろ?」
確かにそうだが……でも何で今?
「では、今からワシが捕まる演技をする」
「えっ? 何で?」
「先ほど申したじゃろ? そなたがワシを捕まえたことにすると。そのためにワシが抵抗する場面の証拠作りをする。後で聞かれた時に困らんようにの。少し抵抗した上に拘束されたのを装うから、ワシを叩き伏せた後に身体をグルグル巻きに縛ってくれ」
そう言うと、腰に携えていた短剣を抜き二刀流で構える。
「ちょ、ここで抜刀!?」
衆人環視の往来で!? ここ人通りの多い市役所前だよ!?
しかし、そんなことにはお構い無く突然演技が始まる。
「なんじゃ貴様らは!? ワシが奪った『祓魔の鉄』を取り返しに来たのか!」
このセリフ……つまり私たちにも演技しろってことなのか……?
「……おいアルトラ、何だこれは?」
「……どうやら犯人確保の演技しろってことらしい……」
突然始まった演技に、私は元よりフレアハルトも戸惑いを隠せない。
「……早ぅ演技せい……!」
「……仕方ない……」
『斬治癒丸』を出して、しばらく市役所前で剣戟の大立ち回りを繰り広げる。
大きく移動しながら、市民に被害が行かないように細心の注意を払って演技をする。
「え?」
「なに!?」
「刃物振り回してるヤツらがいるぞ!?」
すると住民が抜刀に気付き声を上げた。
「みんな避難しろ!! 巻き込まれたらヤバイ!」
「今『祓魔の鉄』を奪ったとか言わなかった?」
「そう言えばさっき駅前で号外配られてたぞ?」
「街頭テレビでも宝具が奪われたって速報入ってた!」
「じゃああの争ってる片方が犯人?」
「キツネ面の方か!?」
「とにかく巻き込まれないように逃げろ!」
住民たちが声を上げたことで、避難していく者と野次馬としてその場に残る者の二通りに分かれた。
刃と刃が衝突する金属音が『キンキンキンッ!』と鳴り響く。
一分ほど剣戟を続けた後に私とフレアハルトにだけ聞こえるように声がした。
『ワシの能力でそなたら二人の鼓膜を揺らして語り掛けておる。フレアハルト、今からそなたに近付くからワシの襟首を掴んで遠くへ投げつけろ』
「お、おお……分かった……」
『返事はするな、不自然じゃ。アルトラは斬りかかった短剣を弾いてフレアハルトの方へ突き飛ばしてくれ』
指示通り斬りかかって来られたため、短剣を受け止めて、フレアハルトの方向へ弾き飛ばし、そこに弾き飛ばした方向に居たフレアハルトがタマモの首根っこを掴み、投げ飛ばした。
「くっ! おのれ!」
翻って着地し、演技を続ける。
更に一分ほど剣戟を続けた後に再びタマモの声が響く。――
『足を払って、ワシを叩き伏せろ。その後に拘束を。今じゃ!』
――という合図で、最後に足を払って転倒させ、顔を地面に押し付けて取り押さえた。
そのまま樹魔法のツタでグルグル巻きに縛る。
「くそっ! 放せ!!」
という演技を続けながらも小声で話しかけてくる。
「……よし! ではワシは抵抗して捕まったごとくぐったりしておくから、フレアハルト、そなたはワシを担いで連れて行ってくれ」
「……あ、ああ、了解した……本当に突き出して良いのだな?」
私同様にフレアハルト自身も、本当に捕まえるべき相手なのかどうか迷っているようだ。
「……アルトラもそなたも何度も聞いてくるようだが、二言は無い」
戸惑いながらもタマモを担ぎ上げ、左肩に背負う。
「……じゃあこれで準備は良いのね?」
「……今の騒ぎで警察や軍関係に連絡が行っておるはずじゃ、もたもたしておると来てしまうかもしれんから早う行くぞ。引き渡されるのは寺院関係者の前でなくては困る!」
「……何で?」
「……ワシは一度警備員に捕らえられても難無く『祓魔の鉄』を奪って逃げた盗賊じゃぞ? そのワシが捕まりもせず解呪刀だけ取り返されると思うか? 都合良く数時間後に返って来たのを怪しんで、下手をすれば何らかの繋がりがあるとそなたに疑いが向く可能性はゼロではない」
な、なるほど。
「……だから『祓魔の鉄』返還と共に、奪った本人であるワシが寺院関係者の目の前で軍に引き渡されるのが肝要なのじゃ! さあ、分かったら早う寺院に転移じゃ!」
「……あ、ああ、はい……」
再び【ゲート】を出現、今度こそムラマサ寺院へ。
【ご支援のお願い】
以前も活動報告に書いたことがありますが、少々金銭的に困窮してきて、もはや自分ではどうすれば良いか分からない事態になってしまいました……
詳しい話は今日の活動報告に書いてありますので、そちらを見ていただけるとありがたく思います。
現在事実上放置状態である第440話の『古代遺跡捏造編』の続きについても書いてあります。
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/2200059/blogkey/3462771/
次回は7月4日の投稿を予定しています。
第555話【解呪刀の返還】
次話は来週の金曜日投稿予定です。投稿時間は二十一時付近までのいずれかの時間になります。




