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建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~  作者: ヒロノF
第19章 土の国ヒュプノベルフェ探訪・アルトラの解呪編

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第548話 解呪の刀を振るうも……

 娘さんの寝ている部屋へ案内されたところ、やはりこの屋敷で最も嫌な魔力を感じる。予想通り発生源はここだ。

 ドアを開けて中に入るが、魔力感知出力を開いたままだと、部屋全体が漆黒に包まれていてほとんど何も見えないほどの闇の魔力。

 魔力感知の出力を抑えると、ようやくベッドに寝ている娘さんが目に入った。

 見た目は十歳から十五歳の間くらい。ドワーフや獣人が見た目通りの年かは分からないが、フィオーナさんが結婚した時期を考えるともう少し上くらいかもしれない。

 完全人型と聞いていたが、キツネのような耳と尻尾が見えている。心身が弱って普段隠すことができている尻尾や耳が露になっているのかもしれない。

 それにしても――


「これは酷い……」


 ――聞いていた通り、身体全体が真っ黒に変色していて、ひび割れ、そこから黒い魔力がガスを噴き出すように漏れ出している。闇が身体全体に行き渡るだけでは足りず、内側から傷を開いてそこから噴出し始めたのだろう。少量の血と一緒に黒いモヤが持続的に噴出している。

 表情は苦悶で歪み、食いしばり、時折痛みに耐えかねてうめき声や悲鳴に近い声を漏らす。

 可哀想に、大粒の涙を常に流しているのだろう。頬は濡れて(きら)めいている。


「うぁああぁ……うぅ……」


「「 フィリア! 」」


 娘さんのうめき声に夫妻が駆け寄って手を握るも、この二人に呪いが影響している様子はない。

 近くに風の国から招いたという治癒医師が居て持続的に治療を行っていたようだが、彼の身体も何の変容も無い。

 どうやら()()る類いの呪いではないみたいだ。

 とは言え、本当に今にも死にそうな状態。


「すぐにでも解呪します!」


 全員に娘さんから離れてもらい、『祓魔(ふつま)(くろがね)』に光の魔力を注ぎ込むと、刀は強い光を放つ。

 そして近付き、娘さんの身体を袈裟斬りした。

 斬った場所に光が満ち、そこから闇を外へ外へと押し出すように身体全体に光が広がる。

 あっという間に身体からほとんどの闇が取り払われ、亀裂が入って呪いを噴出していた肌も大部分が再生。

 苦悶の表情であった顔も安堵したような表情に変わり、スゥスゥと寝息を立て始めた。


「おぉ……」

「あぁ、解呪……されたんですね……」

「恐らくは……」


 ただ……右足首にわずかに黒いモヤのような残ってるのが気になるが……時間が経てば消えるかしら……?


「ああ……あなた……良かった……」


 安心したのか二人抱き合う。


「呪いは解除できたとは思いますが、心身の衰弱については私には分かりませんので、あとはお医者さんにお任せします」

「あ、ありがとうございます!!」

「貴女は娘の命の恩人です!!」


 カイベルから『解呪の権利は高額で転売されることもある』って聞いて、なぜこんなお金持ちの貴族が大金はたいて権利を買わないのかと思っていたけど……もう待っていられるような状態ではなかったわけね。

 娘さんの命が解呪の儀式が行われる明日まで持つかどうか分からなかったし、儀式に参加させようにも屋敷から連れ出せるような状態ではなかった。儀式のために運び出しただけで落命しそうな状態だったから、苦肉の策として盗賊団に刀ごと盗むよう依頼したってところかな?


「アルトラ、助かった! お前さんが来てくれなきゃ姪っ子は死んでいただろう。感謝する!」


 普段ユーモアがありつつも、基本ぶっきらぼうなフィンツさんだが、事ここに至っては大いに感謝された。


「いえ、偶然ですよ。助けられて幸いでした」


 そう、全て偶然だ。

 あの日、日付が一週間前の土の国の新聞を購入しなければ三十日の祭典に気付けなかったかもしれないし、

 たまたまリナさんの出勤にかち合わなければ解呪の儀式があることすら知らなかったし、

 自身の呪い染みたものを解呪しようと考えなければ土の国を訪れることはなかった。

 目の前で『祓魔(ふつま)(くろがね)』が盗まれなければ追いかけるイベントは発生しなかったし、

 ズルする目的でカイベルを連れて来なければこの屋敷の場所すら分からなかったし、

 私たちが追いかけたタイミングでフィンツさんがちょうど屋敷に着かなければ屋敷に入れてもらえず門前払いだっただろう。

 それに『祓魔(ふつま)(くろがね)』が“斬れない”刀であったことも幸いだった。これがもし真剣なら『本当に斬っても大丈夫だろうか?』という疑念が湧いて斬るのを躊躇したかもしれない。

 偶然が幾重にも重なって、姪っ子さんを助けることができたのだ。


「それじゃあ私はこの刀を返しに行きますので」

「ああ、色々ありがとうよ。本っ当に助かった! 感謝する! 俺も明日の二十時には駅へ行くからそこで合流しよう」

「はい」


 フィンツさんに背を向け、姪っ子ちゃんの部屋を出る。


「それにしても、この宝具凄いな……あれだけ黒かった呪いが一瞬で浄化されるなんて……」


 再び少しだけ鞘から引き抜いて見ていると、フレアハルトが数字の異変に気付く。


「おい、その数字、さっきは『三〇〇』ではなかったか?」

「え? ホントだ!」


 刀身に刻み込まれていた『三〇〇』の傷が『二九九』に変わっている。


「まさかこれって解呪カウンターかしら? デジタル表示でもないのに変化するなんて……」


 多分解呪を行なったからカウントが一つ減ったのだろうが、刀身に刻み込まれてる傷ごと数字の形が変わるなんて不思議な刀だ。『宝具』と言われるだけある。


「じゃあフレアハルト、これを返しに行きましょうか」


 カウントが『二九九』になってしまっているが、寺院側にはカイベルが当ててくれた私の分で何とか補填してもらえるよう交渉しよう……どうせズルして手に入れた権利だし。

 とは言え……はぁ……地球に戻れるのはまだ先か……


「だがあの娘、まだ黒いモヤが見えるが大丈夫か?」

「あなたにもそう見えるの?」

「右足首辺りだろ?」

「私にもその辺りに見える……放っておけば消えるかと思ったんだけど……やっぱりまだ終わってないのかな……?」


 どうするべきか悩んでいたところ――


「うぅ……」


 ――喜びも束の間だった……再び姪っ子ちゃんがうめき声を上げ始めたのだ。


「「 フィリア!! 」」


「ど、どういうことなんだ!? 『祓魔(ふつま)(くろがね)』なら解呪できるんじゃないのか!? アルトラ!」


 夫妻とフィンツさんが愕然とした声を上げる。


「わ、分かりません……解呪は上手くいったはずなんですが……」


 右足首にあった黒いモヤがまた広がり始めていた。


「やはりまだ終わっておらぬようじゃな……」


 後ろに立っていた頭目の声。

 振り返って質問する。


「…………どういうことですか?」

「この呪いには発生した原因がある。ワシがあの娘を助けようとしたのもそれが理由じゃ。すまぬが、そなたの力を見込んでもう少しだけお付き合い願いたい。謝礼はしよう」


 盗賊団に協力?

 あまり気は進まない……しかもキツネのお面も被ったままだから、顔も見せずに信用しろというのも……

 でも黒いモヤは依然として今にも全身に広がらんとしているように見える。

 これを放置して帰ったら、多分訪れるのは確実なる死……


「………………」


 私が黙って考えを巡らせていると……


「失礼であったな、本来なら顔を晒して願いを請うべきであった。この通り頼む」


 キツネ面を外して深々と頭を下げられた。

 晒された顔は凄い美人。

 地球では日本にしろ中国にしろインドにしろ、古来より狐に化かされる話が多くあるが、それはこの美貌も手伝ってのことだろう。時の権力者が籠絡されるのも分かるというものだ。

 顔を晒すにもリスクのある盗賊団の頭目が、隠していた顔を晒して願い出たのだから応えるにも値するだろう。


「……話してもらえますか?」

「ああ、呪いの発生源にも心当たりがある。まずはそこへ向かう、行きがけに全部話そう」


 解呪刀を早く返せればと思ったのだが……どう見てもまだフィンツさんの姪っ子、『フィリア』ちゃんと言ったか、彼女の命の危機は去っていない。

 それに呪いの大元のところに行くなら、まだこの刀必要なんじゃ……?


「……分かりました。案内してください」

「感謝する」

「本気かアルトラ!? そやつは盗賊なのだろう!? 信用するのか!?」

「このヒトから騙してやろうとか、罠にハメてやろうとか、そういう悪意を感じない。言ってることも辻褄が合ってるし、フィンツさんの姪っ子が危機的な状況なのは変わらないから断るべくもない」

「…………まあお主がそうすると決めるならそれに従おう。今回は護衛だからな」

「ありがとうフレアハルト」


 チラっと夫妻とフィンツさんの居る方を見ると復活しかけている呪いで三人とも狼狽している。

 この呪い、今フィリアちゃんの近くに居る治癒医師さんがある程度抑えていたと言っていた。

 と言うことは光魔法が使える私でも抑えておけるというわけだ。二人がかりで抑え込めば一人一人の負担も軽減できるだろう。


 【分身体】を発動。


「おぉ!? そなた、余程変わった身体を持っておるようじゃな……分身する亜人など初めて見たぞ」

「アルトラ、分身してどうするつもりだ?」

「ちょっと考えがある」


 分身体が夫妻とフィンツさんの背後に近付く。


「フォルクスさん、フィオーナさん」


 二人を呼ぶと悲壮な顔をして無言でこちらを振り向く。

 夫妻はまず、目の前に居た分身体を見て、その背後に立っている本体(わたし)へと視線が移動した。


「え!? アルトラ様が二人!?」

「どうなっているのですか!? 双子……ではないですよね?」

「私の持つ能力の一つです。今から分身体(わたし)が光魔法を使って呪いが広がらないように抑えます。分身体(わたし)が抑えている間に――」

「――本体である私が呪いの原因を突き止め、排除します!」

「そんなことできるのですか!?」

「この盗賊さんには心当たりがあるそうなので、まずはそこを当たってみようと思います」


 この心当たりが外れてた場合はカイベルのところに戻って教えてもらえば良いし、解呪できない可能性はゼロと言っても過言ではない。


「アルトラ、呪いの根源を潰せると信じて良いんだな?」


 フィンツさんも不安げだ。


「任せてください。必ず完膚なきまでに消し去ってきますから!」

「さて、それでは腹は決まったな。行くぞ」

「敬語も煩わしいから、ここからは少し崩させてもらいますね」


 神秘的な光を携えるその容姿に思わず敬語で話していたが、考えてみれば盗賊団の頭目に敬語もおかしな話なわけで……


「言葉遣いなどどうでも構わん」

「分かった。それで、どこへ行くの?」

「この国で通称“吹き溜まり”と呼ばれている場所じゃ。この場所から西へ四十キロほどになる」

「歩きで?」


 このヒト、狐獣人だから飛べないよね……四十キロを歩いて行くんだろうか……? 大分時間がかかりそうだ……


「バカを申すな、飛んで行くに決まっておろう。歩いて行ったらどれほど時間がかかるか……そなたらも飛べるのじゃろ? だったら空から行くのが効率的じゃ」

「だってあなた狐の獣人なんだよね? 羽なんて無いんじゃ?」

「ワシは狐獣人の中でも九尾と呼ばれた最上級の狐獣人じゃぞ? 変化(へんげ)能力も図抜けておるわ」


 豪語する通り、あっという間に背中に翼を生やした。


「そ、それって変化(へんげ)能力なの?」


 変化(へんげ)能力で飛べるようになるものなのか?

 それって全然カモフラージュじゃないじゃないか! もはや実用的じゃないか!


「ホレ、さっさとせい置いて行くぞ?」


 置いて行ったらそもそも私が付いて行く意味が無いんだが……


   ◇


 目的の場所へと飛ぶ道中――


「あなたのこと何て呼べば良い?」

「『タマラ』という名じゃが、盗賊として活動する時には『タマモ』を名乗っておる。何でも構わん、好きに呼んでくれ」


 カイベルが言ってた通りの名前だが……盗賊団の頭目なのにいきなり本名を明かすのか。この展開は予想してなかった。


「分かった、じゃあタマモって呼ばせてもらうわ。私は――」

「アルトラじゃろ?」


 あ、そうか、フォルクスさんに自己紹介した時にさっき近くで聞いてたのか。

 ところがその次に続く言葉に驚いた。


「新興国アルトラルサンズの国家元首アルトラ・ヒューム・地野(チノ)

「!? あ、ああ……はい、そうです」


 他国の人物にここに来ているのがバレていることに驚き、思わず空返事してしまったが……いつから気付かれてたんだ……?


「そっちは『フレアハルト・レッドドラゴン・エイトプリンス』。赤龍峰出身のレッドドラゴンじゃったな?」

「!? よく知っておるな、我の出身地などアルトレリアの連中くらいしか知らんぞ?」

「あとお供として土の国を訪れたのは『ナナトス・トロル・セブンス』、『カイベル・ヒューム・識本(シキモト)』、土の国大使館職員『タナカ・ヒューム・リュウイチ』、それとゴルゼン家を訪れた『フィンツ・ドワーフ・ウォール・ソイル』じゃな?」

「何で同行者の名前まで!? しかも名字と種族名まで完璧に……」


 名字なんて普段言葉にしないから役所名簿見るくらいしか知る術は無いのに……

 まさか他人の記憶を読んだり、カイベルのような遠くのものを知る能力がある?

 俗に言うサイコメトリー能力とか、アカシックレコードとか?


「ワシは全世界に情報網を持っておる。顔と名前と種族を知るくらいは朝飯前じゃ」

「情報網……」


 随分細かいところまで記憶されている。だとしたら私の素性は相当調べられてるようだし、相手も本名を名乗ってることから信用に足る人物とは思われてるのかもしれない。

 だからさっき「ムラマサ寺院の使いで来たわけではない」と否定してもすんなり『祓魔(ふつま)(くろがね)』を返してくれたのか。

 でも、私がここへ来たのは偶然でしかない。その私の顔と名前を憶えてるってことは……


「ま、まさかムラマサ寺院を訪れていた客全員の名前と顔が分かってるの……?」

「全員は無理じゃが……あの時クジ引き付近に居た者の顔と名前くらいなら分かっておるよ」

「ホントに!?」

「名を挙げてみようか?」

「い、いや、誰かも知らん名前聞いたところで、どうせ分からないからどうでも良い……」


 情報網が凄いのは分かったけど、記憶力まで凄い……


「おい、アルトラ! ホントにこやつを信用して大丈夫か? よく知りもせんヤツにお供の名前まで知られておるなど、少し怖いぞ?」

「わ、私の勘は信用して良いと言っている」


 どうせここだけの協力関係だろうし、もしこれが罠だったとしてもこの場にはアルトラルサンズの特機戦力が二人居るんだから大抵のことはどうにかなる。と言うか、たまたま訪れた私たちを罠にかける必要性が無いから、その可能性は全くと言って良いほど無い。

 ただ、霊獣旅団の頭目、警戒はしておいた方が良いのは違いない……他二つの肉体派の頭目と違って威圧的ではないし。物腰も様子もかなり違うから戸惑うわ……

 何事も無く戻ったならカイベルに信用に足る人物かどうかだけは聞いておこう。世界中に情報網を持つなんて、それを使えば情報操作なんてお手の物だろうし、恐ろしすぎる。

 フィリアを呼ぶ時に、『娘さん』とか『姪っ子ちゃん』とか作中で度々呼び名が変わってますが、ちょっと分かりにくいでしょうか?

 この関係がちょっとややこしい。ゴルゼン夫妻から見れば娘だし、フィンツから見れば姪っ子だしと。

 もし分かりにくければ統一しようかと思うので、分かりにくい場合はコメントいただけるとありがたいです。


 次回は5月23日の投稿を予定しています。

  第549話【フィンツさんの姪っ子を侵している呪いの根源】

 次話は来週の金曜日投稿予定です。投稿時間は二十一時付近までのいずれかの時間になります。

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