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建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~  作者: ヒロノF
第19章 土の国ヒュプノベルフェ探訪・アルトラの解呪編
551/583

第541話 呪いを解く刀の存在

 十一月、ある日のアルトレリア――


「アルトラ様、毎度ありーー!」


 アルトラルサンズという国が興ってから、各国からやってくる行商人が増えたのは周知の事実。

 その商人たちが、自分たちが読むための新聞をこの国に持ち込むため、不要になった新聞を捨てていく者も多い。

 各国の新聞というのはそれだけで多数の情報が含まれている。

 そのため、どうせ捨てられるならとそれを拾い集めて商売にしようというトロル(ヒト)が出て来ており、ここ最近では各国の隊商に自ら進んで接触し、新聞の回収に回る動きもある。

 現在は数日遅れの新聞しか手に入らないが、いずれは各国の隊商と契約して、現時点で最も新しいものを手に入れられるようにしたいと計画しているとのこと。


 『他国の新聞を買ったところで一般市民は特に面白いわけではないのでは?』という疑問が湧くが、大使館が出来た影響でアルトラルサンズ国民も五大国が多少身近に感じられるようになったらしく、楽しんで読む者が増えたそうだ。

 また、言語が数多ある地球とは少々事情が異なっており、全ての国で統一された魔界文字で書かれていることも大きい。

 その国や民族独自の文字もあるにはあるが、統一魔界文字を勉強していれば五大国のどの新聞を手に取っても読めるのだ。


 最近はパトロール最中に各国の新聞の中から適当に選んで買い、モーニングコーヒーを飲みながらカフェのテラス席で読むのが日課になっている。

 今日買ったのは一週間前の土の国(ヒュプノベルフェ)の新聞だったらしい。


「『土の国魔王(ヴェルフェゴール)様、十一月二十一日に起床する見込み』か……」


 土の国の魔王である今代(こんだい)のヴェルフェゴールは三ヶ月ほど寝て、一週間の起床するというサイクルを繰り返す。

 ヴェルフェゴールが起床すると一気に国が活性化するため、既に土の国(ストルン)通貨の価値が上がり始めてるらしい。


「この新聞が私に買われた頃には、多分もう手を出したら損するくらい上がっているんだろうな……何せ一週間前のだし……」


 そんな時間を過ごしていたところ、今日はたまたま出勤時間と私のモーニングタイムが被ったのか、後ろからリナさんに声をかけられた。


「おはようございます、アルトラ様。今日はお早いですね」

「あ、おはようリナさん。今から出勤?」

「はい。どこの新聞読んでるんですか?」

「適当に買った国の新聞だよ。今日のは土の国(ヒュプノベルフェ)だね」


 他国の情報収集のため毎日適当に選んだ新聞を読む。

 新聞屋さんに並んでいるのは大抵一週間前から直近でも五日前くらいのものだから、もはや『“新”聞』とは呼べない。古いのだと二週間前とか三週間前のが置いてあることも……

 そんな中リナさんがとある一件の記事に注目する。


「あ、今年もあの時期が来たんですね」

「あの時期?」

「ほら、小さい記事ですけど、ここに書かれてます。『祓魔(ふつま)ムラマサ寺院』って言うんですけど」


 指さしたのは、とある寺院で行われる儀式の話。


 仏教の無いこの魔界に寺院があるのか?


「神社とか鳥居って確か水の国(アクアリヴィア)にも無いって話だったよね? ここは寺院みたいだけど、水の国にも寺院はあるの?」

「ありません。ここは魔界でも珍しい寺院です。そこに収められている『宝具』を作ったのが地球出身の亡者なので、その宝具を守るために寺院が建ったのだと思います」


 『宝具』ってのは確か……凄い力を秘めた魔道具のことだったな。クリューの話によれば『疑似太陽』と『ゼロ距離ドア』も性能的には宝具に当たるって話だったけど。 (第290話参照)


「収められてる宝具って何なんなの?」

「『刀』ですよ。名前は……『宝刀村正・祓魔(ふつま)(くろがね)』だったかと思います。村正という人が作ったので、製作者の名が付けられたそうです。宝刀は後々になって付けられたそうですが」

「村正!?」


 クリューからこの名前を聞いて、後々カイベルに訊ねようと思ってたのにすっかり忘れてた! (第290話参照)


「村正ってまだ生きてるの?」


 こういう聞き方は合ってるかどうか分からないが……

 なぜなら亡者って、死人のことだしね……

 この魔界では、死人が動いて普通に生活しているというややこしい状態。と言っても、魔界に居る保釈亡者はきちんと肉があって思考能力もしっかりしているためアンデッドとは呼ばれないらしい。

 『アンデッド』と呼ばれる現象は別にあるそうだ。


「もう生きてなかったかと。随分前に亡くなられたと思いますよ」


 あれ? クリューは『生きてる』みたいな感じに話してたと思ったけど……担当死神から聞いた程度だって言ってたから死んだのを知らなかっただけなのか。

 『魔界(こちら)で亡くなること(イコール)地球への転生』だし、そりゃ地球で生きてたのも何百年も前なんだから、魔界(こっち)での保釈期間も終了して地球へ行ってる可能性は高いか。

 宝具と製作者の名前が寺の名前になって『祓魔(ふつま)ムラマサ寺院』ってわけか。


「実は私もこの刀のお世話になったことがあります。母が一時期重い病だったんですけど、ここで解呪してもらった今はスッキリ健康体ですよ!」

「解呪……そういえばクリューも解呪の刀って言ってたっけ。確か傷を付けず、呪いだけ斬る刀だったよね?」

「そうですそうです!」


 刀なのに身体を斬らないで呪いだけを断つって……そんなもの作成可能な人が私以外にも居るんだな…… (『斬治癒(きりちゆ)丸』のこと。詳細は第322話から第326話参照)


「解呪に興味がおありなんですか?」

「私も解いてもらいたい呪いがあるのよ」

「呪いって……アルトラ様が呪われてるんですか? どう見たってこの町で一番の健康体なのに……」

「ま、まあ痛みとか、苦しみとか、そういう類いの呪いではないんだけど、ちょっと不都合があるやつでね……」


 行動が制限されるタイプの呪いってところが……


「その呪いってアルトラ様の能力では解除できないんですか? 光魔法だって使えましたよね?」

「それが無理だったんだよねぇ……」


 私の解除したい呪い染みたものは、魔界(ここ)に来たばかりの頃にオルシンジテンのステータスで、状態耐性欄にあった『蘇生耐性Lv10』と非常時発動スキル欄にあった『冥獄(めいごく)(かせ)』。

 『冥獄(めいごく)(かせ)』は、『冥球から出ることができない』という効果がある。

 地獄の亡者には一年に一回だけ地球に帰れるお盆があるのだが、私に至ってはその日ですら帰ることができなかった。 (第105話参照)

 これを解除してお盆時期だけでも地球に帰りたいと思っている。


 そして『蘇生耐性Lv10』は、『もし私が死に瀕した場合に蘇生“させられない”』というBAD(バッド)効果を持つ、何のために存在しているのか分からない能力。

 もし溺れて心停止にでも陥ってしまえばもう一巻の終わりだ。私は亡者だからこの先は魂が消滅するだけだから、これを解除して蘇生してもらえるようにだけはしておきたい。 (二つのスキル効果については第7話参照)

 二度死にかけて意識を失いかけたことがあるが、どちらも意識を失う前に助かったために現在まで生きてこられている。 (第324話、第485話参照)


「じゃあ、ちょうど良い時期なんで行ってみたらどうですか?」

「これって、もしかして去年も開催されてた?」

「はい、この宝具は毎年十一月の三十日に御開帳されてますよ。祭典は三十日と十二月一日の二日続きます」


 去年知ってれば、今年のお盆には地球に帰れてたかもな……

 まあ、仮に去年解呪できてても今年の八月は各国大使派遣やら、医者の派遣やらで忙しくてそれどころじゃなかっただろうが……


「何で一年に二日間だけなの? お金でも取って自由に使わせてくれれば良いのに……」

「宝具に魔力を溜めなければ使えないそうなので、その溜めのために一年費やすみたいです。一年間厳重に封印され、その間に僧侶の方々が魔力の回復を図るのだとか」


 そんなに魔力を使う魔道具なのか。

 呪いを解くって中々力の要ることなのね……


「じゃあその日に行けば解呪してもらえるってわけね!」

「ただ……呪いを解きたいヒトって沢山いるので、毎年三百人ほどしか解くことはできませんけど……」

「三百人? 呪い受けてるヒトってそんなに居るの? 結構多いのね」

「いえいえ、呪われてるヒトの数ではなくて、『解呪してもらえる人数』です」


 ん?


「三百人が呪いを解いてもらえる? じゃ、じゃあ、それ以上が解呪を希望した場合どうなるの?」

「寺院で抽選されまして、当たった方だけが解呪の権利を得られます」


 つまり、抽選に漏れたら次の年ってことか……


「何で三百人?」

「宝具に蓄えられた魔力が空になるのが三百人ほどと聞いています」


 なるほど、消費魔力の関係で三百人ほどにしか使うことができないってことなのか。


「それで、毎年どれくらい来るの?」


 これはかなり重要だ。千人くらいなら三分の一くらいの確率で当たる可能性があるが……さて、どうだろう?

 しかし、私の予想虚しく――


「私が聞いたのはもう二十年近く前なのですが、その時は十万人くらい抽選に集まったと聞いたことがあります」


 ――次にリナさんの口が開いた瞬間、聞いたその数に度肝を抜かれてしまった……


「…………じゅじゅじゅっ、十万ンンンッッ!!?」


 十万人集まって、そのうちのたった三百人!?

 〇.〇〇三パーセントしかないじゃあないか! ソシャゲーのガチャだと絶望的に当たらない確率だ……

 ピックアップされてないキャラをピンポイントで当てにいくようなめちゃくちゃ低い確率……


「私の母の時の数なので、今はもっと多いかもしれません」


 今の一言でガチャ確率が更に下がった……運営のサイレント修正が今起こった……


「私たちの時は運良く抽選に当たりましたけど……」


 〇.〇〇三パーセントに当たったなんて、すっげぇ剛運! 流石御令嬢だけあって運が良いわ!


「〇.〇〇三パーセントは望み薄かな……ちなみに、みんなが解きたい呪いってどんなのがあるの?」

「ほとんどは悪縁ですね、妻と別れたいとか、夫と別れたいとか、愛人と後腐れなく別れたいとか、嫌な上司から別れたいとか、付きまといを何とかしたいとか、病気から別れたいとか」


 何か人間界の悩み事聞いているみたいだ……どの世界でもこんな悩みがあるのね……

 妻とか、夫とか、愛人とか、そんなのは勝手にやってろよ……解呪を何だと思ってるんだ!

 というか、悪縁も呪いのうちなのか?


「何か……凄く矮小な気がしてきたんだけど、本当に強力な呪いも解除できるものなの?」

「出来ると思いますよ。凄く重い呪いの話で私が聞いた限りでは……身体中がただれる呪いが治ったとか、黒くなって徐々に壊死する呪いが治ったとか、日ごとに傷が増える呪いが治ったとか、これらは呪術師が絡んでいたり、とある土地に淀んだ強い呪いを拾ってきてしまったものだったと聞いています」


 それはちょっと期待値上がった。私の呪いも何とかしてくれるかも。


「呪術師が絡んでるってのは、もう一度呪ったりはしないの?」

「さ、さあ? そこまでは私ではちょっと……ただ、呪術師もタダでそんなことするとは思えませんし、法外な金額を要求される……とか?」

「確かに……要求されるのが大金だったら二度払えない可能性もあるか」


 この手はズルいからあまり使いたくないけど……


「お金積んでなんとかってのは?」

「無理だと思います」


 くっ……イェンの価値が暴騰してきてるし、樹の国やら風の国やらから貰った報奨金で、今の私はちょこっとだけお金無双なのに……

 かくなる上は……!


「じゃ、じゃあウォルタ家(リナさんち)知名度(ネームバリュー)で何とかってのは……?」


 水の国名家の口添えなら何とかなるのでは?

 お伺いを立てるように聞いてみたものの……


「すみません、この寺院は裏でお金を受け取ったとか、有名人の口添えで融通してもらったとか、そういう話を聞いたことがないので多分抽選で当たらないとダメですね……」


 詰んだ……

 いや、そもそも他人の名声にタダ乗りしようって、私の考えが卑しかったか……


「じゃ、じゃあ、とりあえず行ってみるしかないわけか……まあ解呪の希望が見えたってだけでも儲けもんだ、ありがとうリナさん」

「いえ、それじゃあこれから仕事なので失礼しますね」


 リナさんは縫製所へと出勤して行った。


「十一月三十日か……これは行ってみるしかないな。上手いこと解呪できれば地球に帰って親や親友の墓参りくらいはできるかもしれない」

「聞いたッスよ! また面白そうなところに行くみたいッスね!」


 ナナトスか。


「アルトラ様呪われてるんスか? また外国行くんなら俺っちも行ってみたいッス!」

「え……? ま、まあ別に良いけど。今回は特に危ないところではないだろうし」

「じゃあ、三十日と一日ッスね! スケジュールを開けておくッス!」


 何かナナトスに渡すもんがあったような……あ!


「ちょっと待って、樹の国から頼まれてあなたとロクトスに渡すものがあったんだった」 (【EX】380.5話参照)


 【亜空間収納ポケット】から、樹の国から血清のお礼にと預かっていた二つの木のケースを取り出す。中には一千万ツリンずつ入っている。

 以前カイベルに聞いた時の樹の国とアルトレリア通貨のレートは、一ツリンが三百三十三兆イェンで、一千万ツリンだと三十(がい)イェンとかいうバカみたいな数字だったけど、ここに来てイェン通貨のレートも安定してきてるし、そろそろあげても良いだろう。 (当時の通貨価値についても【EX】380.5話参照)


「なんスかコレ?」

「樹の国で血清の製作に協力してくれたお礼だってさ。片方はロクトスに渡して」

「樹の国のお金なんスか? いくら入ってるんスか?」

「一千万ツリンずつ入ってる」

「価値が分からないんスけど……イェンでいくらになるんスか?」


 確か今のレートだと……


「多分一千五百万から二千万イェンの間くらいじゃないかな?」

「は!?」


 それを聞いて突然震えだした。


「そそそそ、そんな大金貰って良いんスか?」

「うん、あなたへって言われてるから」

「ホ、ホントに!? 返さないッスよ!?」

「用途は任せるけど、あまり派手に散財したりしないでね」

「でもこれアルトレリアで使えないんスよね?」

「それは銀行で替えてくれるから」

「わ、分かったッス! ありがたくいただいておくッスよ!」


 二つのケースを持って去って行った。

 ちゃんとロクトスに渡してくれるだろうか……? まあ彼は兄たちを大事に想っているようだし信用しよう。


 さて、同行者が一人決まったか。

 今年の年始に『超吉』を引き当てた男だ。その運にあやかりたいところだわ。


 二日間だけとは言え、他国に行く以上一応リーヴァントには言っておくべきかな。


   ◇


 そういうわけでリーヴァントに報告。


「十一月三十日と十二月一日の二日間ですか」

「そう、その二日間はアルトレリアに居ないから承知しておいてね。外交のスケジュールとかも入れないように」

「分かりました。では護衛はこちらでお願いしておきます」


 別に付けなくても良いんだけどな……でも、それ言ったら「ダメです。あなたは要人なので (以下略) ただでさえ先日大怪我して(以下略)」って言われるから言わない。


 「うん、お願い」


 さて……超吉のナナトスが付いて来るのは決まったけど、あと誰に付いて来てもらおうか。

 そう言えば、抽選ってどうやって決めるんだろう? クジとか? だとしたら……

 0.003%のガチャ確率……一体いくら課金すれば出てくれるのでしょうか……?(笑)

 10万分の3ですから、10万円で出てくれるわけがないですよね……


 次回は4月7日の20時から21時頃の投稿を予定しています。

  第542話【カイベルに聞いた祭儀の実態はもっと……】

 次話は来週の月曜日投稿予定です。

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