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建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~  作者: ヒロノF
第18章 発展のアルトラルサンズとその影編

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第524話 変身魔道具の検証と樹の国のもう一つの勢力

「でもまあ、これ使えばアルトラ殿をもう一人増やせますし、これで相手を油断させることができそうですね」


 実のところ、こんなもの創成しなくてもいつものように『分身体』で撹乱すれば良いじゃないかとも考えたが、銀石の粉が魔力を消し去ることを考えると、魔力で作られた分身体も消されてしまって囮の役目をこなせないのではないかと思い、考えが腕輪創成に至った。


「そういえば、銀石の粉って魔力出力を不可能にするんですよね? この腕輪で変身してる状態って魔力で変身している状態になるんでしょうか? だとしたら粉かけられたら解除されますよね? 本物の私ではないことがバレてしまうのでは?」


 もし解除されるとしたら、創った意味が全く無い。


「それと物質魔法も粉をかけると分解されるんですか?」

「物質魔法が何か関係あるんですか?」

「いえ……」


 腕輪は物質魔法と創成魔法で創ったから粉かけたら消えてしまうかもしれないと思って聞いたのだが……ちょっと怪しい言動だったかも?


「我々の研究に依れば、物質魔法は分解されません。どうやら物質化したものに関しては魔法の枠から外れるようです。なお土魔法として発動させ、例えば砂などを魔力で動かしている場合、粉に触れると動かせなくなります。それら物質化する魔法はどうやら魔力だけ吸い取って物質だけ残るようです。水も同様に操作される魔力だけが取り払われます。また水以外のエネルギー体 (※)は操作される魔力が消えるためか、いずれの属性魔法も粉がかかった時点で消滅しました」

   (※エネルギー体:ここでのエネルギー体は炎や光、電気など非物質を指します)


 ってことは私の『分身体』はほとんどが水で出来てるから、粉がかかった時点で割れてしまう可能性が高いな。

 しかし、どうやら腕輪が消えることは無さそうだ。


「では変身状態が魔法効果に依るものかも検証しておきましょうか」

「えっ!? どうやって!? まさか銀石の粉持ってるんですか!? レア鉱石なのでは!?」

「いつ役に立つか分からないので、ごく少量だけ常備してます」


 と言いながら研究道具の入った鞄の中から小瓶を取り出した。エールデさんに変身している状態だから余計に小瓶の小ささが強調されて見える……

 量にして百ミリリットルあるかどうかくらいの少量。


「ここにあるのはこれだけですね。本国の研究施設へ行けば、もうちょっと多めにあると思いますけど」

「さっき一個持ってるって言ったのは?」

「ああ、あれは個人的に一個、“鉱石の状態”で持ってるって言っただけですよ。研究機関には大量とはいかないまでも、研究素材としてそれなりの量を確保しています」


 いくら安全な箱に入れてるとは言え、そんな爆発物紛いの物をよくもまあ個人で所有しているもんだ……


「それっぽっちの量で効果があるんですか? 頭全体被るほどでなければ魔力封印効果は無いんですよね?」

「今回はこれをかけて腕輪の変身が維持できるかどうかの検証なので、この量でも問題無いのではないかと。で、誰が被ります? アルトラ殿やってみますか?」


 これにエールデさんが異を唱える。


「俺とフリアマギアとアルトラ殿の三人は部隊の指揮官なんだからまずいだろ。もし魔力出力不可能期間に強奪が決行されたらどうするんだ? 特に強制空間転移が使えるアルトラ殿が使いものにならなくなったら、最悪俺たちの捕物帖に巻き込まれて町に被害が出るかもしれん」

「じゃあ私の部下で試しましょう。パトリックくん、ちょっとこっち来て」

「私ですか!?」


 応接室のドア近くの壁際に立って待機していたフリアマギアさんのお付きの片方が呼ばれた。

 呼ばれなかったクリストさんはホッとした表情で胸を撫でおろしている。


「話はずっと聞いてたよね?」

「ええ、まあ……」


 腕輪のスイッチを切ると偽のエールデさんの姿が消え、フリアマギアさんに戻った。


「じゃあこれはめて」


 そのまま腕輪を外し、パトリックさんに渡す。


「まだ中に入れた髪の毛が消化し切れてないみたいだから変身できるはず」


 腕輪を装備しスイッチを入れると、パトリックさんが変身し、再び偽のエールデさんが出現。


「おぉ!? これがエールデ殿の目線!」


 普段の自分より大分高めの目線に、パトリックさんが少し興奮気味に。


「はい、じゃあ“本物”のエールデさん、これを“偽物”のエールデさんの頭に振りかけてください。あなたは上背(うわぜい)があるので私たちでは頭上まで届きませんから」


 フリアマギアさんから、“本物”のエールデさんの手に小瓶が渡った。


「ややこしいな……普通にパトリックと言えば良いだろうに……」


 銀石の粉を受け取って“偽物”のエールデさん……もとい、パトリックさんに振りかけた。

 が、


「魔法で変身しているならここで一部分でも変身が解けるはずですが……何も変化ありませんね。ということはこの変身は魔力効果範囲外ということですね。粉の効果で解除されることは無さそうです」

「では、この腕輪を作戦に組み込むこととしよう」


 変身が解けなかったのは一先ず安心か。

 この変身が解けなかった理由、多分腕輪の中に答えがあると思う。

 腕輪の中に入れた物質に残存された魔力を利用して変身するから、腕輪の中のみで機能として完結しているんだと思う。つまり、この変身を粉によって解除するには、腕輪の蓋を開けて中に詰め込み、魔力機能を封じる必要があるのだろう。

 創った本人にすらよく分からないから、全部憶測だが。


「それで、どういう作戦で行く? フリアマギア、偽物のアルトラ殿の役をやるのに誰か適当な人物のアテはあるか?」

「私たちの側で選ぶより、アルトラ殿の意見を聞いた方が良いでしょう」

「そうですね、では私の仲間にやってもらおうと思います。肉弾戦得意な者が何人かいますのでその中から一人選出しておきます。戦闘力も並大抵ではないので、変身で欺いてそのついでにその付近の強盗団も制圧してもらいましょう」

「その方々は強盗団と戦えるほどお強いのですか?」

「相手が余程特殊な力を持っていなければ容易いと思います」


 多分レッドドラゴンたちなら数人で一個大隊くらいは相手にできそうだから、強盗団数十人の雑兵程度ならわけも無いと思う。火の国で遭った砂の精霊みたいなヤツが居れば苦戦するかもしれないが。

 ただ、彼らは腕力も脚力も強いから、気絶だけで済むかが心配だけど……火の国ではやり過ぎて一人死にかけてたし。 (第399話参照)


「頭目の相手は俺に任せてもらえないだろうか? 相手が巨人となるとこちらも俺が相手をするのが良いと思う」

「分かりました。ではアルトラルサンズにある平原に飛ばすので、マーキングさせてもらいます。これで遠隔でも飛ばせるようになります」

「ありがたい」


 ここでフリアマギアさんがどのタイミングで頭目が姿を現すかを予想する。


「さて、頭目の登場するタイミングですが、私の予想では恐らくカーデュアルさんからの『頭目が現れた』という通信後、偽のアルトラ殿を罠にハメた後に、三対のいずれかの場所に姿を現わすと思います。正確な位置が判明次第、私かエールデさんかエトラックさんが報告しますので、すぐさま強制転移をお願いします」

「分かりました」


 ……!

 …………

 ………………

 今この期に及んで気付いてしまったことがある。


「…………あの……こちらの作戦が筒抜けだったとして、相手側の作戦も穴だらけですよね? どう考えても大勢捕まる前提で作戦立ててるとしか思えないんですが……」


「「そうでしょうね」」


 二人同時に答えた。


「『そうでしょうね』って……気付いてたんですか?」

「ええ」

「もちろんですよ」


 今気づいたの、私だけかい!


「強盗団の幹部たちは、囮にするメンバーには多分俺たちが潜入していることは伝えてないと思います。その上で、二対のドアにあえて『捕まっても構わない者』を大勢配置し、こちらの戦力を分散させるのが目的でしょう。対応するには人員を割かなければなりませんし、どうしても戦力分散は避けられません」

「なるほど、そこで私が三対あるうちの一対を守れば、戦力分散も最小限で抑えられるってわけですね。でも大勢って、そんなに居るんですか? 確かアルトレリア入りしたのは二十人から三十人なんですよね?」

「申し訳ありません、昨日時点では元々の強盗団員だけと考えていましたが、どうやらここまでの道中で何人も引き入れた疑いがあるとの部下からの報告を受けてます。捨て石にするつもりで引き入れたのでしょうね」

「ふ、増えてるんですか!?」

「我々の見立てでは三倍から四倍ほどになってるのではないかと」


 増えすぎだ!!

 ホントに捨て石にするつもりで、手あたり次第に勧誘したって感じか?

 じゃあ、今一体何人アルトレリアに強盗団が潜んでるんだ……お隣に泊まっていたヒトが実は強盗団だったって話にもなるんじゃ……

 これは作戦後にカイベルに聞いて、全員残らず捕まえるくらいのことしないといけないかもな……


 強盗団が関わっている以上、アルトレリア警察も動かす必要がある。逃げられる前に捕まえないといけないし、署長とウィンダルシアにかけあっておくか。

 と言うか、ここに来てもらった方が良かった。今後、こういう犯罪紛いのことがあった場合は同席してもらおう。


「一応本国に増援を要請するよう馬を走らせましたが、まだこの地には電話設備が無く、本国に到着するまで数日かかるので、恐らく間に合わないでしょうね」


 ってことはここに居る人員だけで何とかしないといけないわけか。


「捨て石を多くスカウトしたということは、狙っている本命のドアを巨人化などで手早く掘り起こして奪い、さっさと逃げる算段でしょう。アルトラ殿の空間転移魔法さえ撹乱・封じてしまえば、もう追跡できる者はいませんから、逃げられると考えてるのではと思います」


 私がいくら空間魔法を持っているとは言え、巨人という剛力を誇る種族だから大分舐められてるのかもな……

 仮に私に遭遇しても武力で押し通る自信があるのかもしれない。


「と言うことは、本命として狙うのは町中に設置されてる二対ではない可能性が高いということですか?」


 ドアの中で唯一、町の外壁の外にある『アルトレリア正門前ドア ⇔ 麦畑ドア』間の一対を狙ってくれれば町への被害は少なく済むんだけど……


「いいえ、相手は迷惑など省みない強盗団ですし、むしろ町中のものを積極的に狙ってくる可能性もあります。町を混乱させれば自分たちもそれに乗じて逃げやすくなりますしね。本命がどれであるかは現時点で予測することはできません」


 そうなのか……外壁外のドアを狙ってくれれば、こちらとしても楽できると思ったのだけど……


「では、再度強奪決行日まで待機でお願いします。我々は捜査官それぞれで監視を続けます。では本会議もこれにて――」

「あ、その前に、興味本位で聞くんですが、樹の国三大勢力のもう一つって何て名前なんですか?」

「『霊獣(スピリットビースト)盗賊団』、あるいは『霊獣(スピリットビースト)旅団』と呼ばれています」


 スピリットビースト……精霊獣って意味……かな?


「精霊って盗賊にならないんじゃないんですか? トリニアさんからそう聞きましたけど……」 (第314話参照)


 まあ……火の国で砂賊やってた砂の精霊が居たから、必ずしもそうではないのだろうが……


「確かに樹の国で純粋な精霊の盗賊はお目にかかったことがありませんが、ソイツは純粋な精霊ではありません。精霊は非生物を受肉体とするのがほとんどですが、稀に死んだ生物の魂が精霊に昇華し、生物の死体を受肉体とする精霊が居ると聞いたことがあります。その者はその類いで、ヒト種族の魂が昇華し、獣人の死体を受肉体として蘇った者と()われています」


()われている? 確定事項ではないんですか?」

「我々には魂が見えないので、昇華という現象は視認できません。なので魔界で受肉している精霊から聞いたことから想像するしかないのです」

「なるほど」

「一度死んでいるとは言え、蘇った者なので生物として生命活動をしますし、純精霊と違って魔力だけで生きてるわけではないため食物の摂取が必要不可欠です。また生物的な思考回路を持ちますので、悪の方へ振れてしまった結果、盗賊へと身を落としたのではないかと考えられます。そういう経緯ですので、他二つの強盗団の頭目同様、とても強力なため中々捕まえるには至らないのです」


「死体を受肉体に? ってことはアンデッドなんですか?」

「いえ、ヤツは見た目は獣人、一応分類上は『精霊』に当たります。常に薄い魔力の膜に包まれているので見ればすぐに普通の生物とは違うと分かると思います。アルトラ殿は稀に身体が薄く光って見える生物を見たことはありませんか?」


 薄く光ってる生物……ちょっと心当たりはあるが……


「それって野生動物にも起こり得るんですか?」

「起こり得ます」

「そう言われると……たまに赤い狼(ガルム)の中にちょっと他と様子が違うヤツが混じってることがあったような……」


 そんなの知りもしなかったから大して気にも留めていなかった。私たちの食料になったヤツの中にも精霊化した獣が居たってことなのかな?

 ゲームで言うところの所謂(いわゆる)レアモンスターってやつだったんだろうか?

 今思い返してみると、他のと違って少し頭が良かったような気も……


「生物の魂から昇華した精霊は普通の同種族より強い力を持ち、それがことヒト種族の生物となると高位精霊やドラゴンと同等、またはそれ以上の能力を得ることがあります。また、純精霊には不可能であった、後天的に別属性の能力を発現する可能性も秘めています」


 そういえば精霊って、先天的に持って生まれた属性とは別の属性は習得できないって言ってたな。

 例えば溶岩の精霊なら火と土、砂塵の精霊なら風と土しか扱えないという具合で、その後にはどうやっても別の能力は生まれないんだっけ。

 ただ、その分他生物よりも強い力を出せるって話だったけど、生物から昇華した精霊は二つの種族の良いとこ取りをしているわけか。


「ところで名前なんですけど、“盗賊”団? “強盗”団ではなくて?」

「まあ、ヒトから奪い盗るので厳密に言えば強盗に間違い無いんですが、この盗賊団、基本的に殺しはしないんですよ。頭目自身が『無闇な殺しは許さない』と宣言していて、団内でもかなり厳格に律してるようで、殺人に及べば、その理由の軽重によって罰を与えられるとか。義賊に近いですが、必ずしも私腹を肥やした貴族やお金持ちだけを狙うわけではないので義賊ではないという微妙な立ち位置にいる盗賊団です。ですので、我が国では凶悪度で強盗、盗賊と分けて呼ばれてるんです。しかし一大勢力には違いないので要注意人物としてマークされています」

「なるほど」


 他二つの団とは方針がかなり違うわけか。

 危険度は他二つと比べると格段に低いわけね。


「別名で“旅団”と呼ばれているのはどうしてなんですか?」

「この盗賊団の団員は樹の国に留まらず、あちこちで目撃されるのです。ですので『旅をする盗賊団』、略して『旅団』と。噂では火の国のレジスタンスとも関りがあるとか……」


 義賊っぽい行動もあるわけね。


「さて、他に質問はよろしいでしょうか?」

「はい」

「では本会議はこれにて終了とさせていただきます」


 三度目の会議もお開きに。

 ここから、私は各所へ個別に依頼をしに行くことに。

 同じ人物が二人になると……色々とややこしい。


 次回は12月9日の20時から21時頃の投稿を予定しています。

  第525話【各所への応援要請】

 次話は来週の月曜日投稿予定です。

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