第50話 監視は終わったはずが……
翌日――
昨日の杭打ち作業は二百本まで終わったから、あと八百本か。昨日と同じペースならあと四日で終わる計算ね。
でも、昨日はフレアハルトがいたから、今日はもうちょっと捗るかも。
監視も外れてるから誰もいないだろうし、黙々とマイペースにのんびりやるか。
今日も弁当持参で、昨日中断したところへ【ゲート】を繋げる。
「うわっ!? ビックリした!!」
ゲートを通過して横を見ると、また昨日の三人がいる。今日は人の姿で。
『誰もいないだろう』そう思っていたから、昨日に引き続いてまた驚いてしまった。
「何でいるの!? 昨日監視は終わったんじゃ……?」
昨日アリサが「またいつか」って言ってた気がするんだけど……「いつか」が来るの早過ぎない?
「監視は終わった。今日は手伝ってやろうかと思って来た」
「えぇ~……」
「何でそんな嫌そうな顔をするのだ!」
「ちゃんと出来るの?」
「昨日見ておった、まかせておけ!」
私には昨日はほとんど興味無くただトボトボと付いて来てるだけに見えてたけど……一回昼寝挟んだし……
まあ、手伝いに来てくれたんなら任せてみようか。アリサさんがいるからきっと大丈夫だろう。
「じゃあ、私が百メートル間隔に火の球浮かべておくから、追いかけて火の球が浮いてたところに杭を刺してもらえるかな? 火の球は杭刺した後に消しておいて。杭打ちはこのハンマーでお願い」
樹魔法でハンマーを三つ即席で作り、三人に渡した。
「杭を埋めるだけなのだろう? 素手でもよいか?」
「素手? 素手で殴って? そんなことできるの? まあ、ちゃんと埋められるんならどんな方法でも良いよ、でもまあ一応ハンマー渡しておくよ」
素手で杭打ちするなんて、人間には到底不可能な話だ。ドラゴンなら可能ということだろうか?
私には理解が及ばない、念のためハンマーを渡す。
「いらんと言うのに……」
「杭何本持てる?」
「その大きさでしたら十本くらいなら持てると思います」
「我はもっと持てるが」
出た、男子のもっと持てるアピール!
「じゃあ……とりあえずみんなに十本ずつ持ってもらおうかな」
五か所×三人だから一.五キロくらいか。私が後半を五百メートルやって、次は二キロ地点で杭の補充をしよう。
私は三人より先行して百メートル間隔に火の球を配置していく。
◇
火の球配置だけならめちゃくちゃ早い。もう二キロが終わった。さて戻ってみるか。
よしよし、ちゃんと杭を打ってくれた、フレアハルトのところを除いて……
「ちょっと! フレハル! 何で一本だけなの!?」
「これで良いのではないのか?」
あっれ~? 確か昨日本人を目の前にして『二本ずつ打ち込んで川幅の目安にする』って説明してたと思ったんだけど……
コイツ……最初から興味無かったから聞き流してたな?
レッドドラゴン・プリンス、こんなんで将来大丈夫かな……?
「それにこれだとちょっと埋めすぎ。百メートル先から見えないといけないから」
「お主は細かいな」
『一本しか杭打ちしてないのを二本にしろ』、『埋めすぎてる』って言うのは細かいと言うのだろうか? これを細かいと言うのなら二分の一間違ってることを指摘したら、細かいと言われるのと同じな気がする……五十パーセント以上間違ってるの指摘されて細かいってお前……
戻ってフレアハルトがやったところだけ修正する。
「とにかく! 今後は二本埋めるようにお願い!」
「あいわかった」
もう! 二度手間だ!
「火は食って良いか?」
「それはご自由に」
レッドドラゴンは魔法で作られた火を自身の魔力として変換・吸収できるらしい。お腹空いてるのかなぁ?
これ以降、杭打ち後に律儀に火の球を消してた側近二人も火の球を食い始めた。この二人はホント律儀なのよね~、レイアなんかギャルみたいな性格なのにちゃんとやってくれるし。
考えてみれば仮にも王子の側近として付き従っているのだから、優秀でないはずがないのだ。ということはこのギャルっぽい言動は世を忍ぶ仮の姿の可能性も……おチャラけてるのは上辺だけで、根っこは真面目なのかも。ギャルにしては大人しいとは思っていたけど。
◇
三人が手伝ってくれたお蔭で、今日の作業は大幅に進んだ。今日含めてあと推定四日くらいかかると思ってたけど、明日には終わりそうだ。
最初こそアレだったフレアハルトだが、十二分な戦力になってくれた。
あと、この男は理解力が無いのではなく、人の話を聞いていないのだとわかった。そうするとこの『人の話聞いていない』って部分も、本当のことなのか怪しくなってくる。
それとなくアリサにフレアハルトについて聞いてみる。
「ねぇ……もしかしてフレアハルトって弟いる?」
「はい、おりますが」
「その弟って優秀な弟なんじゃない?」
「よくわかりましたね」
「『フレアハルト八世』って名乗ってるってことは、フレアハルトは王位継承権持ってるのよね?」
「はい」
なるほど、王位継承したくないってわけか。アホを演じてるんだなきっと。
自分の方が長子として生まれてしまったから、アホを演じることで、周囲に対して王様には相応しくないと思いこませ、弟に王位を譲ろうとしているんだ。
いや、もしかしたら最初こそアホを演じてたけど、今はアホが板についてしまっている可能性も否定できないけど……
「フレアハルトって頭悪いよね?」
「そんなことはありません! フレアハルト様は頭の回るお方です!」
「じゃあ実は頭良いけど、ホントはアホを演じてるの?」
「………………」
「レイアはどう思ってる?」
「………………」
二人ともにそっぽ向かれた。なるほど彼女らも協力者ってわけか。
頭悪いって言われれば自分の主君だから腹が立つけど、周囲の目も気にしなければならないからアホを演じてるという反論もできないってとこか。
あと、私フレアハルトに結構辛辣なこと言ってると思うけど、明確に「頭悪い」って言わなければ反論しないようにしてるのかな……
「私に対しては正直になって良いよ、私はどこにも属してないから」
「正直も何もフレアハルト様はあの通りのままですよ」
「そうですよ、ちょっとおバカに見えるけど愛嬌があるだけですって」
どうとでも取れるような言い方をするなぁ……
もしかしたらフレアハルトの方も私が怒ることを考慮に入れてアホを演じている可能性がある。
それはそれで腹立つけど……聞いたところで本物のアホならキョトンとするだろうし、アホの振りしてるなら恐らくはぐらかされるかキョトンとされるだろう。どっちにしても演じてるのか、そうでないのかわからない。
まあ、今の時点ではこれ以上詮索しても何にもならないからやめておくか。




