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建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~  作者: ヒロノF
第18章 発展のアルトラルサンズとその影編
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第509話 非常に見つけ難いイナゴの王

 レストランを出て我が家に戻って来た。


「ってわけなんだけど、カイベル、アバドンの現在の居場所を教えてもらえる?」

「現在は国管理の畑に居ますね」

「は?」


 カイベル何言ってんだ? 私は今そこから戻って来たばかりなのに……


「ちょちょちょ、何言ってるの!? 私しばらくその畑の近くに居たんだけど?」

「ニートス様ほか農業従事されてる勇敢な方々が対処していますが、弱い魔物とは言え身体が大きいので対応に苦慮しているようです。畑を掘り返されて作物を食い荒らされてます」

「それ、今現在の話なの!?」

「はい。アルトラ様たちがレストランに入店されたくらいに襲来したようです」

「嘘でしょ!?」


 私が離れた直後に入れ違いで来たってことか!? 魔力の感知範囲を広げてればすぐに気付けたのかも?

 と言うか、イナゴなのに『一進五退装置』に引っ掛からないのか!?

 大きさも形も違うから別の生物として認識されてるのだろうか……?


 ちょっと待てよ? 国管理の畑に居るんなら、何でカイベルが出動しないんだ?

 三大凶虫なんて二つ名を冠してるのに、一般亜人ですら対応できるほど弱いのか?


「な、何で襲来したのが分かってるなら出動しないの? あなたの守りの優先順位に『アルトラルサンズ国民の命が脅かされてる場合』って条件が入ってたと思うけど!?」 (第97話参照)

「アバドンの目的は亜人ではなく農作物ですので、ただちに命が脅かされるほどの危険はありません。ちょうどアルトラ様が帰って来られましたのでここでお伝えすれば事足りると判断しました。それに今の私は空間転移魔法が使える条件下にありませんので現場に着くには時間がかかります」

「あ……」


 カイベルのリミッター解除条件は『私かアルトラルサンズ国民に命の危機がある場合』だから脅威ではないと判断してのことか。


 頭の整理が追いつかない最中(さなか)、メイフィーが再び我が家を訪れ玄関ドアを勢い良く叩く!


 ドンドンドンドンドンドンドン!!


「アルトラ様! 来ました来ました!! でっかい人型の虫! 今、虫の長四角の中で皆さんが応戦してるんで早く畑へ来てください」

「わ、分かった、すぐ行こう!」


 メイフィーとカイベルを伴って【ゲート】で国管理の畑へ。


   ◇


「あ、あれか……」


 緑の虫の直方体(キューボイド)の中に薄っすらとでかい生物が見える。

 直方体(キューボイド)の外には、メイフィー同様遅い時間に畑入りしようとしたが、虫の所為で畑に入れなかった農業従事者たちが集まっている。

 それと……何だか凄く汚れたヒトが一人、その脇にそのヒトを介抱しようとしているのが二人……


 私が畑に近付こうとした瞬間、中から――


 バシューーーーッ!!


 ――という噴射音のような音を立てて、“大きめのナニカ”がいずこかへ飛び去ってしまった……


「は……早っ……」


 何あの速度!!


「うおっ! 何かでっかいのが飛び去って行ったぞ!!」

「中のやつらは大丈夫か!?」

「あれがこの虫騒動の親玉じゃねぇか?」


 農業従事者たちが口々に騒めく。


「ア、アルトラ様! も、もう見えませんよ!? 中にどんなのが居たんでしょう?」

「カ、カイベル、今畑から出て行ったのがアバドン?」

「はい、皆様が言うようにあれがこの虫の大群たちの親玉です。あれを駆除することができれば騒動は急速に鎮静化します」


 このカイベルの一言に周りに居た農業従事者たちが「おおっ……!」とどよめく。


「何で飛び去って行ったの?」

「アバドンは危険を察知すると勢い良く跳躍して逃げます。百メートルを三秒ほど、時速にして百二十キロほどで、ひとっ跳びで瞬間的に移動します。農業従事者の方々だけなら危機感を感じていませんでしたが、アルトラ様が来た瞬間に命の危機を感じてこの場を離脱したのでしょう」

「それ早く言っておいてよ!」


 あの速度で飛んでった生物を探さないとイカンのか……

 まああれの対処は後で考えるとして応戦してたヒトたちが心配だ。

 何せ戦闘力は弱いとは言え、三大凶虫に数えられるヤツを相手にしていたのだから。


「みんな大丈夫? 怪我とかは無い?」


 虫の直方体(キューボイド)の中でアバドンと対峙してたヒトたちに声をかけたところ、キューボイド(結界)の内側からニートスらしき返事が返ってきた。


「だ、大丈夫です! 多少前脚で弾き飛ばされたりはしましたが、みんなごく軽い怪我で済んでます」

「そう、それなら良かった」


 どうやら本当に戦闘能力は大したこと無いらしい。まあ一般人には十分脅威な腕力ではあるが。


「……と、ところで……そこの凄く汚れたヒトは……?」


 身体中潰れた虫がくっ付いてる……何でこんな状態に……?


「タイレンさんですよ」

「このヒトがタイレン!? 村外れに住んでるって言う!?」


 久しぶりに会った……気がする! (第16話参照)

 農作業要員だったのか。


「それで……どうしてそんな ((きったな)い)有様に?」

「きょ、巨大な虫に振り払われて畑の外へ飛ばされてしまいました……」


 ああ……虫が張り付いてる直方体(キューボイド)の中から強制的に投げ出されたから、虫を下敷きにして身体中に潰れた虫がくっ付いたわけか……


「け、怪我は?」

「強い痛みなどはありません」

「そ、そう……ご、ご苦労様……は、早いとこ洗い流してきた方が良いよ……」


 そう言うとどこかへ身体を洗い流しに向かった。

 アバドンと対峙した彼らの様子を見るに、どうやら本当に亜人には (食用としての)興味が無いらしい。

 この辺りが、カイベルが危機が薄いと判断した理由か。


 さて、それじゃあアレの対処を考えるか。


「アバドンが見つかった国はどうやって退治してるの? あんなに早く移動されるんじゃ退治も一苦労じゃない?」

「運良く見つけられたものを退治するか、死ぬまで退治されないかのどちらかですね」

「死ぬまでって……それまでに農作物とか食料とか食い尽くされちゃわない?」

「大勢で対応して、アバミニオン(イナゴやバッタ)たちを退治していけば、非常に労力はかかるもののある程度は守ることができます。また、アバドンが移動すればそれと一緒にアバミニオンたちもくっ付いてその地を離れて行くので、運が良ければ食料を食い尽くされる前に移動して行くでしょう」


 運が良ければって……

 火の国の属国ファーイオで発生したって言うけど、その国は大丈夫だったんだろうか……? (第228話参照)

 もしかしたら今飢饉が発生してるのでは?


「アバドンってどれくらいで死ぬの?」


 一週間とか二週間とか、その程度の短い寿命なら対処できなくてもいずれは消えてくれるだろうけど……


「十ヶ月ほどですね。普通のイナゴの大体三倍ほどの寿命です。今回の発生が火の国で一月中旬頃ですので、もう残りひと月ほどで寿命を迎えるでしょう」

「一ヶ月先!? それじゃあアルトレリア中を食い荒らされちゃうよ! 何とか見つけて退治したい! 今はどこに居ると思う?」

「私の勘に依れば……三十キロ離れた麦畑の方に向かったようですね。凄い早さで南西に移動してる……ような気がします」


 レッドトロルを迎えに行った時のように、“勘”であることを強調する。 (第191話参照)

 が、この一年ちょっとの間にカイベルに様々な相談をしていた農民たちは、その勘を信用しているため直方体(キューボイド)外に集まっていた農業従事者たちはすぐに行動を起こそうとする。


「みんな! あの虫の親玉がこの騒動の元凶らしい! カイベルさんの勘が麦畑の方と言ってる! みんな先回りするぞ!」


「「「おーー!!」」」


 しかし、意気揚々と麦畑への『ゼロ距離ドア』へ向かう農民たちに、カイベルが待ったをかける。 (麦畑への『ゼロ距離ドア』については第286話参照)


「お待ちください。大した戦闘力は無いとは言え、特別な戦闘技術の無い皆様が時速百二十キロで移動する巨虫相手にぶつかられたらただでは済みません。待ち伏せは危険でしょう」


「た、確かに……」

「襲われた者たちも大した怪我ではなかったため勘違いしていたかもしれないな……」

「俺たちは兵士じゃなくて農民だしな……」


 カイベルが言葉を続ける。


アバドン(あれ)の対処は私たちでしますので、皆様は小虫の方の駆除をお願いします」


「「「分かりました!!」」」


 集まった農民たちは、自分たちにできることをと、直方体(キューボイド)の虫の駆除を始めた。

 一通り農民たちへの対応が終わったのを見計らってカイベルに話しかけた。


「それで、どうするの? 警察に要請する? フレアハルトやクリューやウィンダルシアに救援要請する?」


 この国にはまだ兵士が存在しない。自警団から格上げされた警察組織が一番武力を持っている状態だ。

 もっとも……最大戦力のフレアハルト、アリサ、レイアだけで他の国の兵士のかなりの部分を賄えるほどの戦力ではあるが……

 そして魔王回帰(レグレシオン)状態の私と渡り合ってたクリューを加えれば恐らく各国の軍以上の戦力になる。


「いえ、今回は私とアルトラ様だけで十分でしょう」

「十分って……下手したら何ヶ月も猛威を振るう相手でしょ? 二人で何とかなる?」


 カイベルに小声で話す。


「……それなら場所が分からない私が行くより、場所が分かってるカイベルが行って倒しちゃってくれた方が早くない?」

「……残念ながら、私ではあの速度に追いつけません。私は一応人間を模して創られてますので、私の脚ではせいぜい百メートルを十秒 (※)ほど、時速にすると三十六キロほどです。風魔法で移動速度を強化してもせいぜい六十キロほどにしかなりませんので到底追いつけません」

   (※百メートルを十秒:めちゃくちゃ早い。世界記録が『九秒五八』なので、カイベルは大分オーバースペック気味)


 百メートルを三秒で移動するヤツ相手じゃ全く追い付けもしないか……


「……リミッターを解除すればこの限りではないですが、解除の条件に当てはまりませんので」


 う~ん……ここでもリミッターか。カイベルのリミッターって私かアルトラルサンズ国民に命の危機が無いと解除できないんだよな……今は到底命の危機がある状況では無いし。

 解除条件を変えてしまえば良い話だけど、そうなると今度は頻繁に解除された場合に“生物じゃない”ことがバレそうで怖い……


「また、相手は生物ですので常に直線移動するわけではありませんし、臨機応変に向きを変えます。跳躍速度も早いので予測して捕らえるのは困難です」

「カイベルが追い付けないってことは、速度に相当自信があるヒトじゃないと捕まえられないんじゃない?」

「魔王ほどの身体能力なら風魔法の補助でかなりの速度を出せますが、普通の亜人に捕まえられる者はほぼ皆無でしょう。捕まえられるとすれば火魔法か雷魔法を身体強化に使える魔人か精霊か、特殊な魔法を持つ亜人くらいです」


 それって追いつけるのは魔人種とか精霊種に限られてくるってことじゃないか……?


「もっとも……一番厄介なのは、非常に見つけ難いというところなのですが……。アバドンにはこの『見つけ難い』という特徴があるため、下手をすれば何ヶ月も猛威を振るうことがあるのです」

「何で見つけ難いの?」

「アバドンは自身の魔力を隠蔽します。周囲に居る小虫と大して変わらない程度まで隠蔽するので、魔力感知に長けた者ですら見つけづらいのです」


 魔力感知しても小虫に紛れてしまうってわけか……


「先ほど遭遇された時に何か気付きませんでしたか?」

「そういえば……逃げ去る時だけ一瞬魔力が上がったような……畑で食い荒らしてる時は虫の隙間から巨体のシルエットが僅かに見えたからアバドンだって判断できたけど、見えなければ居るのかどうかさえ分からなかったかも」


 何て厄介な性質だ……猛威を振るうはずだ……


「でもその点はカイベルが居るから問題無く見つけられるよね?」

「はい。僅かな魔力さえあれば捕捉可能です」


 よし、じゃあ一番厄介な『見つけ難い』って部分はクリアできてる。

 あとは駆除手段の方だけど――


「じゃあ駆除の話に移るけど、各国ではどうやって駆除されてるの?」

「アバドンの速度を凌駕できる方が居る場合はその方が追いかけ回して倒すようです。居ない場合は、大抵は他国からそういった能力を持つ方を派遣してもらうようですね。その手段も取れない場合は、見つけ次第アバドンに気付かれる前に広範囲を四方八方から焼きます。熱に極端に弱いため、直接火に当たらなくても焼き殺せます」


「『見つけ次第』って、非常に見つかり難いんじゃないの?」

「魔力による追跡は難しくても、他の小虫と違ってサイズが巨大ですので例え小虫に紛れていたとしても目視は容易です。見つけられさえすれば双眼鏡などで空からの追跡は可能ですので、地上と上空で連携しながら遠く離れたところから広範囲を焼きながら囲い込みます」

「でも、それをやったら物凄い広範囲を焼き尽くすことになっちゃわない?」

「そうですね、延焼規模は馬鹿にならないと思います。しかしそれくらいやってでも駆除しないと、その後の農作物への被害は比較にならないほど甚大になります。――」


 是が非でも倒しておかないと!!


「――ただ、現在では三大凶虫が出たら協力して駆除に当たるという協定のようなものが各国で結ばれていますので、近年はこの方法ではまず行われません。先述のように大地や農作物への被害規模が馬鹿になりませんので」

「あ、でも、そこまで燃やさなくても、上空からのピンポイント爆撃とかじゃダメなの?」

「先ほどの危機察知能力をご覧になったと思いますが、上空から火魔法を放ったところで、着弾する頃にはもうそこに居ないと思います。相手は三十秒後には一キロ先に居るような速度で移動しますので」


 ホント厄介だな……逃げるのに特化したような能力だ……


「そうならないようにアルトラ様が対処していただくのが最適解かと思われます」


 なるほど……私が追い掛け回すよりほか無いわけか……

 風の魔王の能力を得た私ならそれが可能ってわけね。


「……分かったよ……」

「では、これをどうぞ。アバドンの進行方向が変わったらその都度お知らせします」


 そう言ってカイベルが差し出したのは、風の国で大いに役立ってくれた通信の魔道具シール。


「そんなもの使わなくても、あなたと会話するだけなら通信魔法でも良いんじゃない?」

「魔道具シールの方が声もクリアに伝わりますので」

「あ、そう」

「頬に貼り付けてください。これで手を上げて声をかけなくても通信が可能です」


 インカムみたいに通信できるってわけか。

 風の国での私の使い方はちょっと間違ってたみたいだな……

   (部下に武器を扱うのに邪魔にならないように利き手とは逆の手に貼らせた。詳しくは第452話参照)


 魔道具を頬っぺたに貼りつけた。


「よし、じゃあ倒しに行って来る!」


 ゼロ距離ドアで麦畑へと移動。

 余談ですが、カイベルのリミッター解除条件について、脅威度が高いと判断された場合、脅威生物が離れた場所に居ても条件に当てはまります。 (第476話から第477話の漆黒アリのケース)


 次回は9月30日の20時から21時頃の投稿を予定しています。

  第510話【三大凶虫アバドン】

 次話は来週の月曜日投稿予定です。

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