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建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~  作者: ヒロノF
第2章 トロル集落の生活改善編
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第49話 食事時に使う『短剣』と『槍』

 次にやってきたのは鍛冶場……と言うわけではなく、グルッと回り道をしたため避難所に戻るために通過しただけに過ぎない。

 まあ一応説明しておくと、一昨日ヨントス捜索に参加してくれたリザが、希少な物質魔法の鉄属性持ちで、更に自作の鉄剣を作って持って来ていたから鍛冶師にならないかと薦めてみた。

 ただ、リザは背の高さはあるものの女性なので、鉄を打つにはもう一人くらい必要ではないかと思っている。鍛冶がきちんと動き出すのはもう少し先になるかも。


 現在はまだ何も無いから、ここも予定地。フレアハルトにツッコミを入れられそうだから足早に通り過ぎよう――

 と思ったのだが、建物は立っているから、通過途中にフレアハルトがつっついてくる。


「ここには何があるのだ? 何もないようだが?」

「ここはまだ昨日立ち上げたばかりの場所だからホントにまだ何も無い」

「この村は何も無いな、肉は美味かったが」


 ぐっ……これからだっての!


「これから発展するんですよねぇ~」

「今まで拝見させていただいたことを鑑みると、この村の伸びしろはかなりのものだと思いますよ! このまま発展が続けば大都市になるのも夢ではないかもしれません」


 お世辞でも嬉しいこと言ってくれる。


「二人ともありがとう!」


 横目でフレアハルトを睨む。


「うっ……そうだな、我も伸びしろには注目しておったわ、発展するのを楽しみにしている」

「……じゃあ避難所に戻ろうか」


 避難所に帰る道すがらアリサに人間について聞いてみた。


「アリサ、さっき人間からモデルについて聞いたって言ってたけど、この魔界に亡者じゃない生身の人間っているの?」

「はい、いますよ。詳しくは存じませんが地球で魔界への異世界ゲートが開いてしまい、迷い込んで来る方が稀に存在するみたいです。地球でもこちらの生物が目撃されたりしてますよね? ドラゴンやクラーケン、精霊などの伝説が残っていると思いますが、その逆と考えていただければよろしいかと」

「へぇ~、そうか、そういう原理で幻想生物って地球に姿を現すのね。でもそんなことよく知ってるね。地球に行ったことがあるの?」

「いえ、昔転移してきたばかりの人間とお話したことがあります」

「ホント!? じゃあその人間って今どこに居か分かる?」

「さあ? もう五十年以上前ですので生きておられるかどうか。人間は短命とお聞きしましたし」


 五十年前……大分昔ね……

 仮にその頃二十代だったとしたら七十歳は超えてるってことになるのかな。


「ここで会ったの?」

「いえ、水の国との国境付近だったかと思います。その方のお話が面白く、数日ほどご一緒していましたが、とても博識な方でした。『シャシンカ』というものらしく、『シャシン』というものを撮りながら世界中を旅しているという話でしたね。『カメラ』とかいうものも見せてもらいましたが、初めて見るものでした」


 なるほど、『写真家』だから『モデル』とか『デッサン』とかいう単語を教えられたのか。


「人間にはこの灼熱地帯よりも水の国の方が過ごしやすいであろうとそちらへ行くことを勧めました。地球へ戻るのは難しいと思いますので、生きておられるなら水の国で生活なさっているかもしれません」

「その人の名前って覚えてる?」

「確か……アキラ様という名だったかと」

「その人、男の人? 女の人?」

「それも判断付かない容姿でしたので……髪型はショートカットでしたし、男性とも女性とも取れるお顔立ちでしたので……ただお髭はありませんでしたね」


 アキラって名前は男も女もいるから、名前からだとどっちなのか判断付かないな。

 女性を被写体にしたいってことは男の可能性が高いかな?


「名字も聞いてる?」

「名字とは何ですか?」


 名字まではわからないか……

 他の人間がいるかもしれないってところは、ちょっと興味があるな。


「ところで人間が稀にしか魔界に来ないってのはどこで聞いたの?」


 火山内部でしか生活してない彼女らがそれを知ってるってことは誰かが教えているはずだが……


「わたくしもおばあ様やおじい様からの言い伝えで聞いているに過ぎません。『地獄』というところへ亡者となった人間が罰を受けに来るというところ、それとこの世界には生まれることが無いはずの『人間』という種族が存在しているところの二点から、わたくしたちの山でも昔から言い伝えられています」

「人間が存在しない? 魔界には元々人間っていないの?」

「いないと思います。魔界に居るのは元々人間であった『亡者』だけですね。前述したように、生きている人間はごく稀にしか魔界に来ることは無いとされているので、転移された現地の亜人の誰かと混ざるくらいでしか後世に子孫を残せませんので純血の人間はほぼ存在しないと言って良いかと」


 この世界、人間っていないのか……いつかは同郷の誰かに会えるかと思ってたんだけど……居るとすればそのアキラさんか。存命なら良いんだけど……


「そういえば二十年くらい前に水の国には人間とのハーフが存在していると聞いたことがありますが」

「ホントに!? それは調べてみる価値があるかも」


 水の国にハーフが居るなら、今後もし水の国に行くようなことがあれば注意して見てみよう。


   ◇


 話ながら避難所に帰って来た。


「戻って来たのか? もう村の案内は終わりか?」

「お願いしてたものがそろそろ出来てる頃だと思うから」


 避難所の一室に椅子とテーブルを用意してもらっていた。


「さ、どうぞ」


 三人を席へエスコートする。

 椅子を引いて三人を座らせた。


「お、遂に食事か?」

「フレハル様、はしたないですよ」


 ハンバームちゃんが料理を運んでくれる。


「お待たせいたしました、カトブレパス肉のステーキ、名付けて『カトブレパステーキ』でございます」


 【亜空間収納ポケット】にストックしてあったカトブレパス肉の一部を調理してもらった。

 今この集落で出せる最上級のおもてなし料理だ。

 主に塩と砂糖で味付けしたもの。まだ醤油もケチャップもソースも無いし、片栗粉も無いからトロみ付けも難しいけど、上手い具合に他の何かでタレまで作ってくれたみたいだ。

 料理に関してはもう私よりハンバームちゃんの方が上かもしれない。今後はリクエスト以外は全く口を出さない方が良さそうだ。


「カトブレパス肉? 初めて食うぞ。あの危険な魔物を倒せる亜人がいるとはな。ん? 何だこの短剣と小さい槍は?」


 多分ナイフとフォークのことを言ってるんだろうけど、フォークを『槍』と表現するのは中々面白い。確かに見ようによっては小さい三又の矛に見えなくも無いが。

 きっとレッドドラゴンの大きさで生活しているから、普段はこういった食器を使わず直接対象を捕食するのだろう。

 フレアハルトは亜人のことを大分下に見ているが、レッドドラゴンが食器を使わないと知ると、どっちかと言ったら食器を使いこなせないレッドドラゴンの方が野蛮人じゃないか?と思ってしまう……


 ナイフとフォークは木製。以前から集落内でも木で作ったものを使用していた。ナイフの切れ味はあまり良いとは言えないが金属製作技術がまだ無いから仕方がない。

 三人の首の下にガルムの皮をなめしたナプキンをかける。ナプキンはこのためにわざわざ急いで作ってもらった。


「どうやって使えば良いのだ?」

「え~と……フォーク、その左手側にある槍みたいなやつで肉を刺して固定して、ナイフ、右手側の短剣で切って、フォークで口に運ぶって感じかな。間違ってもナイフで刺して運ばないように! 下手をしたら口が切れるから」


 まあ……木製のナイフだし、ドラゴンの強靭な肌ならそうそう簡単に切れることはないとは思うけど……


「亜人の所作は面倒なのだな」


 この程度で面倒って言ってたら、人の世界では何も食えんよ……もっと面倒な『箸』という文化があるし。


「美味い! 美味いなこれは!」

「ホントですね、こんなに美味しい食べ物は初めて口にします」

「あの料理人、うちの町にも欲しいね!」

「ガルムの肉も美味かったが、カトブレパス肉は別格だな!」

「まあ、危険度高いし、この辺りでは珍しいから滅多に獲れないけどね」


 狼肉と牛肉なら、やっぱり牛肉の方が断然美味しいだろう。そこは人間界とそう変わらない。

 流通でもしようものなら、その討伐難度から考えてかなりの高額になるであろうと予想される。


「ふぅ……美味かったぞ」

「食べ終わった後は『ごちそうさまでした』って言うのよ。それがこの集落のマナーだから」


 私が根付かせたマナーだけど。


「「「ごちそうさまでした」」」


「さて、火山まで送っていくよ」


 集落の案内で、外もかなり暗い時間になってきた。

 この三人は強いから危険とかは全く無いだろうけど、ここから歩いて帰ってもらうにはかなり遠い。かと言って飛んで帰られたら今までひた隠しにしてたことが全部無駄になる。


「いや、結構だ、飛んで帰る。食後の腹ごなしには最適であろう」

「飛んで帰る……ですか? 見たところ羽の類は無さそうに見えますが……」


 しまった! 何気なく言い放った言葉にハンバームちゃんが食いついてしまった!


「は、走って帰ることを、この人たちの言葉で『飛んで帰る』って言うのよ!」


 実際に日本でも走って帰ることを、方言で『飛んで帰る』という地域は存在するから使い方としては間違ってはいない。まあ文字にすると『跳んで帰る』が正しいのかもしれないが。


「へぇ~、走って帰るのに、飛んで帰るって言うんですね! 面白い言い方ですね」


 フレアハルトに怒り気味に小声で話しかける。


「……あんた~……隠す気あるのか! 食後の運動なら私の【ゲート】で火山に帰ってからやって!」

「……す、すまぬ……つい油断して口をついて出てしまった、では火山まで送ってもらおうか」


 はぁ……最後の最後まで疲れるわ~……


   ◇


「リーヴァント、じゃあ私はこの三人を送って、そのまま我が家へ帰るから」

「わかりました」

「ハンバームとやら、美味かったぞ」

「ハンバーム様、おもてなし頂きありがとうございました」

「美味かったよ! ありがとう!」

「お粗末様でした」

「ねぇねぇ、ハンバームちゃん、うちに来て料理人やってよ」


 レイアが堂々と引き抜き交渉!?


「申し訳ありません、アルトラ様に見出していただいた恩がありますので」

「そっかぁ……残念……」


 ホッ、引き抜きは無さそうだ……


 【ゲート】を開く。


「一度行ったことのあるところにしか行けないから、朝と同じ場所に送ることになるけど良いかな?」

「うむ、頼む」

「よろしくお願い致します」

「ありがとう!」


 私の後に三人がゲートを通り、火口へ到着。


「明日は何をするのだ?」


 何で明日の予定を知りたいんだろう? まだ監視するつもりかな……


「明日は、今日の続きからマーキングかな」

「そうか、わかった。今日の村の様子を見た限りでは、お主たちには全く害意は無いと判断したから明日からは監視をやめる。我々の住処を脅かさないのであれば文句は言わぬ。川を作りたいなら自由にすると良い」

「そう? ありがとう、じゃあ自由にさせてもらうね」


 ああ~、これで王子から解放されるか。疲れたわ~。


「本日はわたくしどもの急なお願いを聞いていただきありがとうございました、有意義な時間を過ごすことができました」

「私たちの生活を知ってもらえて良かったわ。今後双方の理解が深まることを期待します。それじゃ私はもう帰るね」

「それではまたいつか」


 【ゲート】で直接我が家へ。

 これにてレッドドラゴンの王子のおもてなしは終わった。


   ◇


 アルトラはもう会うことは無いだろうと肩の荷を下ろした気でいたが、フレアハルト側はというと――


「トロルどもは、今や我々が蛮族だと見下した亜人ではなかった。もしかしたら我々よりも進んだ考えができるようになっているのかもしれぬ。………………よし! 決めた! 今より亜人たちとの関わりを強くしていこうと思う。我々は長いこと山に引きこもり過ぎた!」

「平和的な異文化交流にはわたくしも賛成です」

「そんなこと言ってフレハル様、また美味しいもの食べたいだけじゃないのぉ? 今まで生きてきた中で一番美味しかったもんね」

「フレハル……その呼び名も定着してしまいそうだな……」

「あっ、ごめんなさい! フレアハルト様!」

「いや、その呼び名でも構わぬ。食べ物が美味かったのも否定はせぬが、あの連中と関わると中々に面白そうだ」


 今後関わりを持つ気マンマンだった。

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