第499話 全部が不可解…… その3(彼らの生態と魔界に帰還後のフレハル)
(※前回、前々回に引き続き少々特殊な書き方をしています。▼から次の▽まではフレアハルトの過去回想と独白、▽から次の▼までは現在での会話劇でアルトラの一人称となります)
「未来から来たヒトだなんて……とても信じられませんが……」
「フレハル様~、そのヒトたちの格好はどうだったんですか? 私たちが着てるものよりも未来っぽかったの?」
「いや……どちらかと言えば古風な感じだったぞ。それこそ我らがイメージする魔女のような、つばの広いとんがり帽子を被っておったしな」
「本人が『狭間渡りの魔女』って名乗ってるから、格好もそれに準じてるのかもしれないね」
「テアラースってヒトの格好はどうだったんですか?」
「裸だったぞ」
「「「 え゛っ!? 」」」
フレアハルトとカイベル以外の、私を含む三人が一斉に変な声を上げた。
「え、じゃ、じゃあ下の方も丸出し?」
「いや、その部分はツルッとしておって何も無かった。全体的なフォルムは筋肉質の男という感じだったな。腹筋や胸筋はかなりしっかりしておったぞ。それと目と髪の毛が無かった……いや眉毛も無かったから体毛が無かったと言った方が良いかもな」
「目が無いのに、どうやって見てるのですか?」
「さあな、我も気になって聞いてみたがよく分からんかった。“体全体で見てる”とか何とか……」
「ホントに意味分かりませんねぇ……」
体色が白だか銀だかで光ってて、目と髪の毛が無い?
体全体で見てるって……細胞全部が目ってこと? 訳分からない……
地球人がイメージするような宇宙人とは違うな……宇宙人でもないのかな?
しかも生殖器も無いのか。繁殖が必要無い生物ってことかな?
「肌の硬さとか体温は?」
「触ってないから分からん。見た目だけで判断するなら、多分骨など無いかのように柔らかいのではないかと思う」
骨が無いのに人型になれるのか。液体のようにもなれるって言うし、全く想像つかない……
「あと顔に口のようなものはあったが、共に行動している間に口を開いたことはなかったな。開かずにしゃべっておった」
「そういえば、ミスティアさんのお腹から出てきたって言うけど、ずっとお腹に接続されたままだったの?」
「いや、身体中のどこからでも出て来られるようだったぞ。背中や頭から出てる時もあった。時には……首だけが背中から生えてるような気持ち悪い状態もあったな……」
それは確かに気持ち悪いが……
私が聞きたいのはそれじゃない。
「いや、そういうことじゃなくて……分離したりとかできなかったのかってこと」
「四六時中常に一緒というわけではなかったようだ。ミスティアの方も煩わしくしてた時があったから切り離して別行動することはできるようだったぞ――」
なるほど、それぞれ別行動はできるわけか。
「――その時は基本的に人型で行動しておったな。もっとも……液体のように姿を変えたり出来ていたから、あれが本当の姿かどうかは分からんがな」
そうなると、“人型になる”と言うよりは、“人型に擬態している”と言う方が正しいのかもしれないな。ミスティアさんと行動しているからそういう形態を好んで取るのかもしれない。
「一ヶ月共に行動したが、一度も飯を食ってる姿は見なかったな。多分トイレにも行かんかったんじゃないかと思う。寝てる姿も見ておらん。まあミスティアと同化している時間が長かったから我がそういう場面を見なかっただけかもしれんが」
食事もしない、排泄もしない、寝ることもないって、何だか……生物じゃないみたいだな……
同化してるらしいし、ミスティアって人から直接エネルギーを得てるとか? もしくは彼女が食事や排泄、睡眠の部分を代行しているとかなのかも?
「他のヒトと同化したりはしなかったの?」
「それは無かったな」
ってことは、同化できるのがミスティア一人だけって可能性が高い……のか?
「ミスティアって人、年はいくつくらいだった?」
「う~む……百……六十から七十くらいかな」
「それ、あなた基準?」
「そうだが?」
ってことは、レッドドラゴンの十分の一ぐらいが人間の年齢に相当すると考えられるから、十六歳から十七歳くらいってことかな?
今までの会話から予想すると人間に近いらしいし、多分『若い』ってことは間違い無い。
「テアラースの方は?」
「分からんな。判断の付けようもない。あんな身体の生物は見たこともないからな」
白銀色で、形が変化する生物の年齢なんて判断付けようも無いか。
身体が液体のように変形する生物なんて、スライムくらいしか知らない。あとは液体に受肉した精霊とか。
「聞けば聞くほど不思議なヒトたちね。何か目的があって旅してるの?」
「詳しいことは聞けんかったが何かのパーツを探してるとか何とか」
「ふ~ん……」
異次元を渡り歩くなんて、そんなにも異次元のあちらこちらに散らばってるパーツなのかしら?
壮大過ぎるな……一体何年かけて集めるつもりなんだ……
再度カイベルに小声で話しかける。
「……カイベル、テアラースってヒトのこと分かる?」
「……いえ、ほぼ分かりません……一つだけ言えるのは、この方多分生物ではないですね」
「……多分? 確定ではなく『多分』なの?」
「……はい、この方のことを調べようとすると僅かながら生物のような感じもしますが、何かそれとは別の感覚を覚えます」
「……あなたと同じような存在ってこと?」
「……いえ……恐らくもっと高次元の……」
「……え? まさか……神様?」
「……確定はできませんが……恐らく神様とは違います……が、何となく近い感じはしました」
マジ~?
かなり曖昧な返答だけど、フレハルのヤツ、神様に相当するヒトに助けられたのか?
でも、『推定:人間』と一緒に行動してるのが気になるけど……
「……ミスティアさんの方は?」
「……ご本人が『人間』と仰られていた通り、生態的には地球の人間に近いようです。ただ、主次元で生活していたデータが無いので、生態以外の詳しいことまでは分かりません」
両方とも異次元から来た人物だからデータが得られないってことか。
ってことは、本人が『人間』と口にしている以上、異次元の『人間』に当たる生物であることはほぼ確定かな。
カイベルならある程度何か分かるかと思ったらまた疑問だけ増えてしまった……
「何にしてもフレアハルト様を救ってくださったのですから、その方にお礼しなければなりませんね、アルトレリア流に菓子折りでも持ってお礼に行きましょうか」
「じゃあゴトスさんにスイーツ注文しておこうか」
お礼について少々盛り上がるアリサとレイアだが、ミスティアって人、まだ魔界に居るんだろうか?
「フレハル、そのミスティアさんはまだこの辺りに居るの?」
「残念だが、多分もう居らんと思うぞ。帰って来た時にこんなやり取りがあったからな」
▼
「冥球にとうちゃ~~く!」
「手間をかけさせたな」
「フッ良いってことよ! あれ? 今って夜なの?」
とミスティアに聞かれたから、近くに居た者に訊ねてみたところ、
「今は……十四時だね」
「そうか、呼び止めてすまないな」
時間を答えてくれた者を見送った後にミスティアに――
「今はアルトレリアでは『昼』という時間帯だな。ここはどこか分からんがアルトレリアではないようだ」
――と教えたところ、少々困惑した後に小声でテアラースとの密談を始めた。
「昼なの? でも太陽が……ああ……そうか。テアラース、ここって……」
『……ああ、“このフレアハルト”の居た……軸だからな。以前訪……冥球ではなく、あの時よりも過……のだろう』
「どうかしたか?」
何やら空を見上げて困惑しておったようだが――
「いや、何でもない! 私たち側の話だから気にしないで」
――と言うのでその答えまでは聞けんかった。
小声で密談しておったようだから、我にはあまり聞かれたくない内容だったのだろう。断片的には聞こえたが全部は聞き取れんかった。
「礼がしたいが、アルトレリアに寄って行かんか?」
「じゃあ、私も久しぶりにアルトラに会って行こうかな」
と言うミスティアに
『やめておけ、今のお前はアルトラに知られていない。知り合いかのように訪れたところで、ただただ困惑させるだけだろう』
とテアラースが答えておった。
「あ、そうか。じゃあ今回はやめておくか。フレアハルトさん、私はこの世界で次の転移ポイントを見つけて別の世界へ行くね」
「では礼はまたの機会にさせてもらおう」
「じゃ、またね」
そう言って別れたのだ。
▽
転移して来た冥球に困惑してた……つまり自分たちの知っている冥球ではなかった?
『今のお前はアルトラに知られていない』って一言からして、やっぱり彼女らは未来人の線が強いか。
「そりゃ残念。話聞いてみたかったけど」
「お主がそう言うなら連れて来れば良かったな」
まあ……連れて来られたら来られたで、多分かなり困惑するだろうけど……
私が知らない未来を知る次元の旅人か……不思議な人たちだ。
しかし、彼女らが私のことを知ってるということは、いつか必ず会うことになるんだろう。
ただ、次元間移動を繰り返してるならそれはいつになるかは見当もつかないが……下手したら数年とか先なのかもしれないな。
「それで冥球に帰って来たのが一週間前だ」
「「「 一週間前!? 」」」
「一週間前に着いたなら、何で早く帰って来なかったの!?」
「うむ、アルトレリアの場所が分からんかったからな。どの方向に進めば良いかすら分からんからその周辺で聞き込みしたところ、異世界から帰って来た時に流れ着いたのはどうやら火の国だったらしい。竜人形態で飛んで帰ろうとも思ったが、ルシファーの件があったからあまり火の国で目立つのもまずいと思って、行商人を捕まえてのんびり帰ることにしたのだ」
火の国か……それは見つかったら面倒なことになってたかもな……
再びカイベルに小声で話しかける。
「……カイベル、フレハルが異世界から帰って来てるの気付いてた?」
「……はい、一週間前に突然火の国に出現したとは思っていました」
「……何で早く言わないの!」
「……サプラ~イズというやつです。『死んだはずの“あの男”が生きていた!』と分かったら喜びも一入かと思いまして」
「………………」
そんな気は回さなくても良いのよ!
それは戦闘中、ピンチに陥って颯爽と登場した時だけ生きる設定なんだから!
私としてはレッドドラゴンたちから突き刺さるような視線を浴びる一週間で、針の筵だったから、『冥球に帰って来てる』って事前情報は欲しかったところだわ……そうすればお墓用意する必要も無かったし。
そういう点を考えるとフレアハルトが帰って来た時に、喜びよりホッとした感情の方が強かった気がする。
まあ、アリサやレイア、フレイムハルトさんのようなフレアハルトに強い関りがあるヒトは凄く喜んでたから良かったわ。
でも……多分一週間前の時点で「フレアハルト生きてるらしいよ!」って言ったところで、レッドドラゴンたちからすれば『何言ってんだコイツ?』とか『死者を愚弄するのか!』とか『ぬか喜びさせるための嘘はやめてください!』とか言われたかもな……根拠となるものが無いし。
…………う~ん……と言うことは、カイベルが一週間黙ってたのはむしろナイス判断だったってことかしら?
あれ? そういえばさっきカイベルが時間軸の説明してる時、一週間前の日にちを上げてたような気が……あれ、仮定の話じゃなくて実際に一週間前に戻って来てたのか……完全に日にちに意識が向いてなかったわ……
「……その時、一緒にこの魔界に居るはずのない人物が出現しましたが、あれがミスティア様とテアラース様だったのですね」
魔界に“居るはずのない”人物か……
「……その後、その二人はどこへ行ったの?」
「……火の国から氷の国へ渡って、永久氷晶地帯に入ったところまでしか追跡できませんでした」
あ、そうか魔力超濃度地帯である永久氷晶地帯の中はカイベルには見えないから、そこ以降は分からないのか。
「……フレアハルト様の中の彼女らの話を聞く限り、永久氷晶地帯の魔力濃度を利用して別の世界へ行ったと予想されます。永久氷晶地帯から出て来た様子もありませんので」
やっぱりもういないのか。まだ居るなら探し出してお礼くらいしたかったところだが……
それを聞いてフレアハルトの話に戻る。
「じゃあ火の国から歩いて帰って来たの?」
「いや……まあこんなことがあった」
▼
見覚えがある町だと思ったら、港町イルエルフュールだったのだ。 (第389話参照)
そこでアルトラルサンズに行く馬車を探した。
「すまぬが、この馬車はアルトラルサンズへ行くか? 行くなら同乗させてもらいたいのだが」
「すまねぇな、この馬車は土の国行きだ。そっちには行かねぇ」
「そうか、邪魔したな」
それで六台ほど聞いて回ったところアルトラルサンズに行く者はおらんかった。
諦めて歩いて帰るかと考え始め、最後に七台目に後ろから声をかけたところ――
「も、もう火の国に戻って来ませんが、そ、それで良ければ……」
――と言うから乗せてもらおうとしたところ、その人物が振り向いて、
「ああ!! お前は!? い、いや! あなた様は……」
と、驚かれた。
どうやら我のことを知っている者らしい。
▽
「火の国の知り合いって言ったら……レドナルドさんとサンドニオさん?」
「違う。火の国で会った商人がおっただろう? アイツだ」
「ああ……あの感じ悪い商人……」 (第393話、第397話から第404話参照)
と、私が口にしたところ、アリサとレイアが露骨に嫌そうな表情になった。
多分、私も似たような表情をしていたのだろう。ちょっと奥歯に力が入ったのが自分でも分かった。
「その彼がどうかしたの?」
▼
最初はあまりに容姿が変わっていて気付かなかった。
「誰だお主……? 会ったことあったか?」
「あなた方に砂賊から助けてもらった商人です!」
「は? あの腹立つ商人か? お主とは似ても似つかんが……もっと太っておったぞ?」
その時は、その者があまりに痩せていて同一人物とは思っておらんかった。
その後、アルトラルサンズに行くと言うので乗せてもらったのだ。
▽
「えっ!? 乗せてもらったの!? 毛嫌いしてたかと思ってたけど……」
「大分性格が変わっておったからな、今回はあまり気にならんかった。我はあまり根に持たん性格らしい」
って言ったって、アイツに会ったの七月だからまだ三ヶ月くらいしか経ってないのに……たった三ヶ月で性格ってそこまで変わるもんなのか?
「でもアイツ武器商人でしょ!? そんなヤツこの国に入れたくないんだけど!」
「安心しろ」
▼
道中に話を聞いてみたところ、あの後商人にどんなことがあったか語られた。
「あなた方と別れた後、次の護衛を雇いに斡旋所まで向かったのですが、その間に駱駝車ごと全部砂賊に奪われてしまいました。その責任を負って、この国にある資産は没収。投獄され、鞭打ちの刑罰を受け、耐えきれなくなって命からがら必死に逃げ出して現在に至ります」
「お、おぉ……そ、それは気の毒であったな……」
この話と極端な痩せ具合から、流石に同情を禁じ得なかった。
「今は火の国から逃げ出して、他の国へ行商に行こうとしていたところです。しばらくは目立たぬように細々と行商をしていきます」
「だから『火の国に戻ることはない』ということなのか」
「はい」
ということらしい。
▽
「ふ~ん」
商人の第一印象が最悪だったからその後に何があってもあまり興味湧かないわ。
「あの傲慢な態度もかなり鳴りを潜めておったぞ。だからここへ来る時には武器の類いは載っておらんかった。確か載っておったのは少量の日用品と食料、民芸品くらいだったな。ああ、そういえば手持ちが無かったからここまで乗せて来てもらった礼をしておらん。三日ほど滞在すると言っておったから、すまぬがアリサ、ここまでの金額払ってきてもらえるか?」
「えっ……」
いつも涼しい顔のアリサにしては珍しい。物凄く嫌そうな顔をしている。
関わるのは相当嫌らしい……
「嫌なのか? ではレイアは……」
「お礼だって言うならフレハル様が自分で行ってくるのが良いと思います!」
「……つまるところ、お主も嫌なのだな?」
「はい!」
二人して拒否するとは……あの時フレアハルトがバカにされてたのが相当嫌だったみたいだな……
「……なるほど、まあ確かにお礼は自分で行くべきだな。ではちょっと行ってくる」
「ではわたくしたちもお暇しようと思います。わたくしたちは午後から仕事の依頼が入ってますので」
「じゃあねアルトラ様」
「二人共、くれぐれも“真実の方”は他言しないでくれ。ややこしくなる」
「分かったよ」
こうして、様々疑問が増えてしまったものの、フレアハルトが助かった経緯を知ることができたのだった。
多くの謎を残しましたが、フレアハルトがどうやって帰還したかが分かりましたね。
今回で第17章は終了です。
次章は戦いから離れた章になるかと思います。
いいね、ブクマ、評価、感想、レビューなどいただけると嬉しいです。
長い感想を書くのが苦手なら「面白かったよ!」の一言だけでもモチベアップに繋がりますので。もちろん長い感想もお待ちしてます。
誤字脱字の指摘、書いてあることが間違っていた場合の指摘 (特にこれはありがたい)、全部大歓迎です!(^^)
次回は8月26日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
第500話【魔王回帰の能力を検証】
次話は来週の月曜日投稿予定です。




