第498話 全部が不可解…… その2(異世界の様相と時間軸)
(※前回に引き続き少々特殊な書き方をしています。▼から次の▽まではフレアハルトの過去回想と独白、▽から次の▼までは現在での会話劇でアルトラの一人称となります)
「あなたが帰って来たら、疑問が一気に増えまくっちゃったよ……」
「当事者の我が分からんくらいだからな……転生者のお主が分からんのだから、赤龍峰の連中には尚更分からんだろう? だから御山の連中には嘘の生存話を教えたのだ」
「納得だわ……多分話したところで理解してもらえないと思う。それで、その後は?」
▼
木々や地面も明らかに普通じゃなかった。金色や銀色でまるで金属質のような大地だったからな。
あまりにも不可解な場所だから、とりあえず場所を把握しておきたいと思い――
「ここはどこだ?」
――と、ミスティアとやらに尋ねたところ、
「え~、分かんないよ。私も今着いたところだし。こんな金銀の世界は初めてだし」
「は? 【ゲート】で我を助けてくれたのはお主ではないのか?」
「【ゲート】ってなに?」
「空間魔法のことだが……」
「空間魔法って何?」
と、全く話が噛み合わなくて更に困った。
直後に、テアラースとやらが――
『忘れたのか? 空間魔法というのは、フレアハルトたちの世界の魔法体系のことだ。体系の違う世界出身のお前にはあまり関係無い。確かお前が次元移動するために使う魔法と似た性質のものだ』
――と、説明してくれたから話を進めることができたのだが……
「あ、ああそうかそうか。フレアハルトさんたちの世界の魔法ってそうなってたんだっけ。私たちのところと形態が違うから忘れてたよ。だったら私も使えるよその空間魔法とかいうの。と言うか得意な魔法なんだけど」
その場で【ゲート】を出して披露してくれた。
「この能力で空間に裂け目を作って別世界へ渡ってるんだ。だから、自称『狭間渡りの魔女』って名乗ってる」
「その能力で助けられたようなのだが……」
「私が助けたの? だとしたら別の世界から別の世界に渡る時の空間の歪みにたまたま入り込んだのかもね」
「た、たまたま……? ぐ、偶然助かったというわけか……だが、お主がおらんかったら死んでおった、感謝する」
「助けたつもりは無いけど、どういたしまして」
という理由で偶然助かったらしい。
▽
「ぐ、偶然ですか!?」
「良かった~……そのヒトが居なかったら、フレハル様はここにはいないんですね……」
「まあ、そうだな。空間の揺らぎを掴んだ我の剛運が成せる業だな!」
『狭間渡りの魔女』……
全く聞き覚えが無い……やっぱりこれから出会う人物なのか?
別世界へ渡ってるって、この魔界の空間魔法よりかなり上位に位置する物凄い魔法体系に聞こえるわ。
フレアハルトの話を聞いてる限りには、多分空間魔法じゃなくて、時間魔法と空間魔法が合体したような系統なんじゃないかと思う。
主次元世界とは違って、何だか自由な感じがする魔法体系という印象だ。 (『主次元』については第306話参照)
「ところでさ、私としてはその金銀の世界が気になるんだけど……そこって生物は居たの?」
「あ、ああ……多分居ったぞ」
「多分?」
「見た目が金属質で、生物には見えんかったから『多分』としか言えん。話も通じんし、深く関わりもせんかったからな」
異世界だし別の星だしって考えると、話が通じないのはむしろ当然か。
「まあ、話が通じんのは我だけだったがな」
「ミスティアさんはその世界の言葉を話せたってこと?」
「いや……話せはしなかった。最初の頃は『何言ってるか分かんないね』と少々困った顔で我に同意を求めて来たから間違い無い。しかし、少しその世界の住民と話したところ、途中からは普通に会話するようになっておった」
「まさか……聞いてるうちに学習しちゃったってこと!? 凄いね!」
あれ? だとすると異世界人同士のフレアハルトとも会話が成立するわけがないのだが……?
一度会ってるって話だから、もうこちらの言語を習得しているってことか? 物凄い特殊能力だな。
「食べ物も金属のような感じで、食べては見たが、明らかに消化に適さんと思って食べるのをやめた」
「よく飢えなかったね……」
「ミスティアがお主と似たような収納能力を持っておったから食べ物を分けてもらっていた。まあ我は魔力食いだから食べ物が無くてもある程度は生きてられただろうがな」
「ふ~ん、幸運が重なったわけね。で、その推定:異世界からはどうやって帰って来たの?」
「ああ、そこでそのミスティアに頼んでみた」
▼
「一つ相談なのだが、我らのことを知っておるということは冥球にも行ったことがあると言うことだろう? その狭間渡りの能力で我を元の世界に返してもらえんか?」
「良いよ」
と、軽いノリで承諾してくれた。……そこから先は軽くは無かったがな……
「でもね、私の能力で次元移動するには、その世界にある『転移ポイント』を探さなきゃならないの」
「さっきのように【ゲート】で移動できるのではないのか?」
「あ~、あれは同じ世界の中だけ移動できる能力で、別世界に移動するのは別の能力なんだ。それを使うにはそれ相応の場所が必要になるんだよ」
「その『転移ポイント』とやらの場所は分かるものなのか?」
「分かるよ。まあ……『近くまで行けば』ってのが頭に付くけどね……」
「なっ!? ということはこの世界を歩き回らなければならぬのか!?」
「ま、そういうこと」
「目印はあるのか?」
「強い魔力を放ってる場所……かな? たまに魔力がほっっとんど無い世界もあるから、無理矢理魔力の濃度を上げるアイテムもあるけど、それを使うにしてもそれ相応の場所じゃないと次元移動できない。この世界は魔力が存在してるから魔力濃度が高いポイントを探して転移することにする。アイテム作るのも特定の場所に限られるから補充するのが大変だからね」
「そうか、ならば早速旅立つとしようか」
そこから一ヶ月ほどヤツらと行動を共にした。
▽
「一ヶ月ですか!? フレアハルト様が行方不明になられてからまだ二週間ほどしか経っていませんが……」
「フレハル様ぁ~、死んでる間に日数間違えたんじゃない?」
異次元だから日数の経過に乖離があるのかな?
アインシュタインが提唱した特殊相対性理論なんて、同じ世界に居ながら、動く速度が違うだけで時間にズレが生じるって言うし、異次元なら時間経過の仕方が違ってもあり得ない話じゃない。
「まあ、我は時計を持ってるわけではないから正確ではないが、体内時計はしっかり働いておる。確かに一ヶ月だ」
「不思議な話ですね」
「時間を飛び越えるって感覚が私には分からないんですけど~」
「いや、『時間軸』って言ってたから、異世界で一ヶ月経った後に『現在私たちが住む時間軸』に転移してきた可能性が高いんじゃない? 多分、魔界とは時間の進み方が違うんだよ」
それを聞いてアリサが手を上げた。
「あの……『時間軸』というのがよく分からないのですが……教えていただけますか?」
「私も」
「話の流れ上流していたが我も分からん」
「『時間軸』ってのは……う~ん……カイベルお願い」
「はい、時間を『未来に向かって“一方向に直線的に進むもの”と考えた時に、時間の進みを軸で例えた』表現です」
この答えにレイアが
「何言ってるか分かんないんだけど……」
「では、図式化してみると分かり易いかと思います」
そう言って紙に書き出した。
┌──────────────────────────────────┐
2022年10月18日
……─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─……続く
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時 時 時 時 時 時 時 時 時 時 時 時
└──────────────────────────────────┘
「日付は今日の日にちです。横の一直線が時間経過を表すもの、左に寄るほど過去になり、右へ行くほど未来へ進むことを示しています。そして縦に沢山並んだ線、この線それぞれが『時間軸』に当たります。この線と線の間には分単位、秒単位、更にはそれ以下の〇.何秒単位の更に細かい『時間軸』が存在します」
「「「ん? う~ん……なるほど?」」」
「現在の時刻は二〇二二年十月十八日の十一時八分十二秒ですので、十八日の十一時八分が『現在の時間軸』、それより前が『過去の時間軸』、そして十一時八分以降が『未来の時間軸』ということになります」
「「「は、はぁ……」」」
三人ともまだ要領を得ない。
未来やら過去やら時間軸やらの話は、アニメや漫画、ゲームで慣れ親しんでなければ多分理解がやや難しい。だからそれらが存在しないこの世界の住民には理解し難いのだろう。
私の親は早くに死んでいるから分からないが、漫画やゲームに親しみの無い祖父や祖母に『未来や過去から転移してくる物語』を説明したら理解してもらうのに相当な時間を要したことがある。
「これって……カレンダーとかスケジュールのようなものですか?」
「そうですね。カレンダーもある意味では時間軸と言えるでしょう。この軸の下に予定を書き込めばスケジュールになります」
「なるほど。い、一応理解できました」
「私も……かな?」
「我もまあ……多分大丈夫だ」
『カレンダー』と言っただけで理解が早まるらしい。
私も時間軸の話をする時にはカレンダーを例に出そう。
「先ほど、まだミスティア様と出会ったことの無いフレアハルト様という話でしたので、今度はその説明をしましょう。『出会ったことの無い時間軸のフレアハルト様』と言うのは、この十八日の十一時八分以降の『未来の時間軸』のフレアハルト様のことを指すのです」
「ま、またちょっとよく分からなくなったのですが……」
「では、フレアハルト様が現在の時間に戻って来るまでにどの時間に居たのかを仮定してしまいましょう。戻って来たのが一週間前の十一日ですので、その一ヶ月後の時間軸『十一月十一日』から帰って来たことになります」
「一ヶ月先から帰って来たって……帰って来るまでは一ヶ月先で生活してたということになるのですか?」
「はい」
「それって……ミスティアってヒトが未来から来たってことになるの?」
「そう考えられます。……いえ、私たちにとっては確定していないため、ミスティア様は『未来から来た人物だと推定される』と言うべきでしょうか。『現在の時間軸』のフレアハルト様はミスティア様にはまだ出会っていないため、ミスティア様がフレアハルト様のことを知っていても、フレアハルト様はミスティア様のことが分からないという現象が起こっているのです」
カイベルは一ヶ月先で生活してたと説明しているが、多分これは三人に分かり易く説明したに過ぎないだろう。
実際は、ずっと過去、例えば百年前で生活していて『一週間前の時点に戻って来た』のかもしれないし、もっとずっと未来、百年後とかで生活してて『一週間前の時点に戻って来た』のかもしれない。
私が予想するに、恐らくこの世界の時間の概念と外れたところから戻って来てるから、実際はどの次元の、どの世界の、どの時間軸に居たのかさえ分からない。
フレアハルトの話を聞く限り、『世界が金銀の大地で、金色の雨が降り、住民まで金属質の生物』なんて、明らかに私たちが知らない星の話だし。
「一ヶ月先で生活されていた、ですか……し、信じられない話ですね……」
「過去へ時間を遡るなんて……そんなことが可能なの?」
「私はこの世界の魔法や技術では不可能と考えています。しかしミスティア様の居る異世界にはそれが可能な技術や魔法があるのかもしれません。それと……勘違いの無いように言っておきますが、これは仮定の話ですので三週間後にミスティア様と出会うとは限りません」
う~ん……今回の説明はカイベルでもやっぱり曖昧なところが多いな……
こんな様子はそうそう見られない。
『時間軸』の話はちょっとややこしいですかね?
次で第17章は終了します。
次回は8月22日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
第499話【全部が不可解…… その3(彼らの生態と魔界に帰還後のフレハル)】
次話は木曜日投稿予定です。




