第496話 フレアハルトの葬儀
そして三日後――
我が家にフレイムハルトさんからの遣いが来た。
「アルトラ様、赤龍峰からの遣いの方が見えています」
「分かった」
遣いに来たのは……
「え~と……あなたは……」
確か『聖炎耐火の儀』の祭司の一人だ。このヒトとは風の国で一緒に行動しなかったから印象が薄い。
(『聖炎耐火の儀』については第102話から第103話参照、彼の活躍については第457話から第462話参照)
「……プロクスです」
「ああ、はい、プロクスさん。銀色のアリの討伐、ご苦労様でした」
「……どうも」
「フレアハルトの葬儀についてですよね?」
「はい、その四日後に葬儀を執り行いたいとのフレイムハルト様からのお達しです」
「承りました」
終始眼光鋭い……
怒りの感情が伝わって来るようだ……
「……フレイムハルト様は……一応は割り切っておられるようですが、俺個人としてはフレアハルト様の死ぬ直接の要因ではないにせよ、その原因となったあなたが許せません」
「……はい、お怒りはごもっともです……」
「とは言え、フレアハルト様の仇はもうこの世にいませんのでこの怒りどころをどこへ持って行けば良いかも分かりません。アルトラ殿に怒りをぶつけるのも筋違いでしょう。しかし、この場に居ると怒りが込み上げてきてしまうので、早々に失礼します」
「……はい……通達ご苦労様でした」
◇
四日後――
アルトレリアの多目的ホールにて、フレアハルトの葬儀が執り行われた。
レッドドラゴンは全員が参列。その数は百五十名を超える。
体調を崩していた族長さんも、最期だから参列したいとのことで、私が【ゲート】で迎えに行った。
アルトレリア住民は、フレアハルトに関わった大勢の者たちが集まり、風の国の大使アンドリューさんも国難を救われたと言う理由から、風の国の名代として列席してくれた。
アルトレリアの人数を考慮すると、国葬にも近い人数。
トロル村での元々の弔い方は、遺体を墓所に埋葬するだけで済ますような簡素なものだった。そのためこの際だからと日本に似た方式をアルトレリア方式と定めて執り行われることになった。
祭壇が設けられ、遺影も作られて、棺もあるが、本人の遺体はそこには存在しない。
仏式ではあるものの、読経できる者はいないため、線香を上げるだけになるが滞りなく進む。
墓地近くに急遽作られた火葬場にて、中身のない棺だけが焼かれる。
そして、その灰をフレアハルトの身体と考えて墓に収めるべく場所を墓地へ移した。
「うわぁぁぁ!! 何で死んだんスか、フレハルさぁ~~~ん!!」
「フレアハルトさん……怖いって伝わってたのに、全然怖いヒトじゃありませんでした……」
「お前が居なきゃ、建築現場も工事現場も捗らないんだぞ!! 戻って来い!!」
「くそ! くそ! 何で死ななきゃならないんだ……」
「王子~~~!!」
アルトレリア住民やレッドドラゴンたちが嘆いている最中、後ろの方が何だか騒がしくなる。
「こんなところで大勢集まって随分盛大に行われておるな。何の集まりだ?」
「弔いの儀式の最中ですのでお静かに」
風の国の大使補佐のヒトが止めるものの、その人物はまだ言葉を続ける。
「弔いの儀式? 誰のだ? 全く、役所はなぜか臨時休業で閉まっておるし、アルトラの家にも誰もおらんし、建築関係はなぜか全部休みだし、我の家も誰もおらんから探し回ったぞ」
誰よ、こんな時に騒いで……
「それで、誰が死んだのだ? 重要な人物か? この人数の参列とは、まさか……リーヴァントとかではないよな?」
と言いながら墓石を覗こうとするその人物。
「申し訳ありません、今は我が国の国難に対して尽力してくださった、さる高貴なお方の葬儀の最中ですので、お静かにしていただけますか?」
風の国の大使補佐のヒトが制止する。
「さる高貴なお方? そんなヤツこのアルトレリアには一人しかおらんではないか! アルトラか!? アルトラの弔いなのか!? まさか女帝蟻にやられたのか!?」
「い、いえ、アルトラ殿は生きておられますが……」
「では誰の弔いなのだ!! この町で高貴なお方と言うなら我も知っている人物に違いない! 我も出席せねば! いいから名前を見せろ!」
あまりにも空気の読めない態度に全員がその人物の方へ振り向くと……
「まさか……?」
「ええ!?」
「何で!?」
ようやく自身の名前が刻まれた墓石を見て驚くその人物。
「なに~~~!!? 何だこれは!? 何で我の墓が作られておるのだ! まさかこの葬儀は我の弔いなのか!? どういうことなのだ!?」
「「「 フレハルさん~~~!!? 」」」
何と! 死んだと思われていたフレアハルトが、自身の葬儀に現れた!
「フレアハルト様!?」
「フレハル様ぁ~~!?」
涙を溢れさせながらアリサとレイアがよろよろとフレアハルトに寄って行く。
その後ろにフレアハルトより少し小さめの男の子と女の子が駆け寄った。あの子ら……初めて見るけど弟と妹かしら?
「い、生きてらしたのですね!」
「どこ行ってたんですかぁ~! 心配させて~!!」
「すまぬな、連絡の取れぬところに居ったから報せることもできんかった」
「兄上! 良かった……」
「お兄様! 帰って来るの遅い!」
「フラムハルトにサンストリア、心配をかけたな!」
やっぱり弟と妹みたいだ。あれが五兄妹のうちの三番目と四番目か。図らずもこんなところで知ることになるとは。
「フレアハルト!」
体調を崩していた族長さんが、突然走り出した。
「どこへ行っておったのだこの馬鹿者が!!」
その一言と共に、左顔面を拳で一撃。
「い……痛いです父上……」
「心配かけおって! 死んだと思っていたのだぞ……よくぞ生きて帰って来た……」
そして強く抱きしめた。
「兄上!」
「フレイムハルト! 無事生還できたのだな!」
「それは私のセリフです。おかえりなさい! 流石兄上です! きっと生きていると信じていましたよ! ですが、あの状況からどうやって……」
フレアハルトが生存していたことにより、暗く沈んだムードだった場が一転、歓喜に沸く。
私も何が何だかこの状況が飲み込めず、とりあえず疑問を口にする。
「フレアハルト!」
「おお! アルトラ! やっと見つけた! 無事で安心したぞ」
「それはこっちのセリフよ! な、何? 行方不明って聞いてたけど、あなた二週間以上もどこへ行ってたの!?」
「詳しくは後で話す。疲れたからとりあえず一旦赤龍峰へと帰って十分に休みたい、送ってもらえるか?」
「あ、ああ……はい」
頭の整理が付かぬまま、赤龍峰へと【ゲート】で送って行った。
こうして、死んだと思われたフレアハルトが戻って来たことにより、レッドドラゴンたちとの間に何のわだかまりも残ること無く日常に戻ることができたのだった。
◇
後日談――
赤龍峰へ送った直後。
「このでかい石、墓にするんスよね? どうするッスか?」
「フレハルさん死んでなかったし必要無いですよね……」
ナナトスとカンナーの問いに、
「どうしようか? 名前も刻んじゃってるし……保管しておいてもあの様子だとまだまだ全然死にそうもないしね」
墓石って壊すと祟られそうだし……
入るはずだった本人は生きてるけど……
「殺しても死なないってのはこのことッスね」
「本人にプレゼントしてやろうかしら?」
「……それってただの嫌がらせじゃないですか?」
もちろん冗談だが。
「とりあえずアルトラ様の亜空間に入れとけば良いんじゃないッスか?」
墓石をか……?
フレアハルトが死んだ時用に?
「種族の違い考えても、私より長生きしそうなのに、墓石取っておく必要あると思う? アイツのお父さん五百歳以上よ? 私の寿命は多分百歳くらいだし、アイツ自身まだ二百歳そこそこで、まだ三百年以上生きる可能性があるのに?」
私が人間と同じ寿命なら百歳生きるかどうかのはず。
まあ……この身体のことを考えると『人間』ではない可能性の方が濃厚だが……
「フレハルさん、若そうに見えて二百歳超えてるんでしたね……そういえばこの間の健康診断の時に寿命は八百年から千年って言ってましたし……」 (第431話参照)
「俺っちたちの墓が建つ方が早そうッスね……」
「捨てちゃって良いかもね。名前のとこだけ削って、あとはその辺に転がしておけば良いでしょ」
というわけで、今この時点より『墓』はちょっとでかめで、かなり整えられた『路傍の石』に変わった。
「そういえば解散する時にルルヤさんが愚痴言ってたッスよ。『良い感じの石見つけて来たのにーー!』って」
フレアハルトが戻って来たことは嬉しいけど、利用されなかったのは悔しかったのかな……
「気に入ったってこと? じゃあルルヤに返してやろうか?」
「それも多分嫌がらせッスね。ただ“良い感じ”の石ってだけで俺っちなら別に欲しくはないッス」
「僕も要らないですね」
「じゃあやっぱり名前だけ削り取ってその辺に転がしておくか」
と言う訳で、正式に『路傍の石』になった。
無事フレアハルトは帰ってきました!
第17章も大分長く続きましたが、あと二回で終了です。
次回は8月15日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
第497話【全部が不可解……】
次話は木曜日投稿予定です。




